『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
君の心を映す鏡 番外エピソード
私の心の半分 -2- (ハルヒ&鏡夜)
現実の記憶は夢の世界に溶け込んで、今でも心を惑わせる。
* * *
バスルームの扉の向こう側で、シャワーの音が聞こえ始めたから、
彼の着替えを準備して、バスルーム前の洗面台の脇のカゴに入れて、
鏡夜にドア越しに声をかけようとした時。
『……』
とても微かな、注意して聞かなければ気付かないくらいの大きさだったけれど、
細かく連続的な水の音の中に、彼の嗚咽が混じっているのが聞こえてきた。
……鏡夜先輩……。
その様子に声もかけれなくて、
自分が扉のこちら側にいることを気付かれないように、
ハルヒは、そおっと足音を殺してとリビングに戻った。
本当に、どちらが良かったんでしょうね。
コタツの上に置きっぱなしにしていた、
自分の携帯電話を手にすると、ハルヒはベッドサイドに腰掛けた。
あの人が居る世界と、あなたが隣に居る世界と。
一体どちらが夢で、どちらが現実だったら、
私達は、本当に幸せだったんでしょうね。
シャワーの音は遠く続いている。
一瞬、バスルームの方へ視線を向けて、
まだまだ、出てくる気配が無い様子を確認した後。
ハルヒは携帯電話を開くと、
指先でアドレス帳を開いて辿っていった。
おそらく。
さっき、あなたが見ていた夢は、
きっと、とても優しくて柔らかくて温かくて光に溢れた世界。
けれどその光、が余りに眩しすぎるから、
残酷なまでにくっきりと、現実の悲しい影を浮かび上がらせる、
そんな切ない夢だったのでしょう。
もしも。
さっき、あなたが私に呟いたように、この世界こそが『夢』で、
今、私達が一緒にいることも、
あの人が私達の前からいなくなったことも、
全て、虚構の夢物語の出来事だったとするなら。
今、私と貴方が一緒にいる『この世界』は、
冷たく暗い悪夢でしょうか。
それとも。
ずっとこのまま眠り続けていたい、と願う甘い夢?
ハルヒの指先は、携帯電話の液晶画面に、
無意識に一人の名前を呼び出していた。
もう二度とかけることは無いはずなのに、
ずっと消さずに保存している、一つの電話番号。
二年前に、突然かかってきた電話の中、
私だけが聞くことができた、あの人の最後の言葉。
だからこそ消すことができない、あの人の名前。
これは、私の心の半分を、過去に繋ぎ止める最後の鎖。
これを残しているということは、
未だ、心のどこかで願っているのだろう。
この『夢』から目覚めて、『あの人のいる世界』へ還ることを。
そして。
あの思い出の場所に『還りたい』と願っているのは、
おそらく、私だけじゃなくて……。
気付けば、いつのまにかシャワーの音は止んでいて、
がたがたと戸の開く音や、
洗面台でドライヤーを操作する音が聞こえてきたから、
それに追い立てられるように、
ハルヒは急いで携帯電話を閉じて炬燵の上に置くと、
布団の中に潜り込んだ。
鏡夜先輩。
貴方と私は一緒に居ることを選びました。
きっと今の私達には、それが一番良いことなのでしょう。
でも。
目を閉じると、先ほど偶然にも聞いてしまった
彼の泣き声が耳の奥に蘇る。
鏡夜先輩。
あなたは私にその心を、全部くれるといってくれたけれど、
やっぱり未だ、あの人が『居るはずの世界』へ、
心の欠片をいくつかは、残してしまっていたんですね。
私がまだこの鎖を、断ち切ることが出来ないのと同じように。
* * *
続