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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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一番近い場所 -extra episode 5-

一番近い場所 -extra episode 5-
 
特別な日に用意されたワインの名前はボッカ・デラ・ベリタ。
ホスト部で企画したオリエンテーリングに関係があるというが……。



「僕は一つ疑っていたことがあるんだよね」

馨はワインのネタばらしをした後に、
ちょっと寂しそうな笑顔を浮かべて僕にそう呟いた。

「ホスト部でやったオリエンテーリング。
 ハルヒが企画した奴。覚えてる?」
「あのカレーの材料を集めて作るって、あれね。
 インパクト強すぎて忘れられないよ。
 全国生徒を集めてやったし、
 なんか色々な人間関係ぐっちゃぐちゃで面白かったよね」

僕がハルヒのことをちょっと馬鹿にするような口調で、
苦笑いを浮かべたら、馨は首を静かに横に振った。

「そういう意味で覚えてるってことじゃなくてさ、
 そこからだったでしょ。
 もちろん、あれは鹿谷姫の、
 父親に対する本音を聞き出すことが目的だったから、
 殿の気持ちを暴くことが主目的の、
 イベントじゃなかった筈だけど、
 でもあのイベントがきっかけになって、
 殿がハルヒのことを少しずつ自覚しだしたから。
 だから僕は、すごくあのイベントが記憶に残ってるんだ。
 ………光も、そうじゃないの?
「……」

僕の顔はちょっとひきつっていたのかもしれない。

確かに、あのイベントの後、
僕は殿に「ハルヒが好きだ」と堂々と宣言をしたりして、
険悪になった記憶は、いまでもはっきり残ってる。

多方面に迷惑をかけまくったせいで、
今から思い起こすと恥ずかしやら後ろめたいやらで、
あまり思い出したくないけど、
……確かに、忘れられない記憶だ。

馨は、僕が当時のことを、
思い出して沈んでいたことが分かったのか、
前髪を、ぽんぽんと優しくなでてくれた。

「そう、あれがきっかけだったんだ。
 全てのきっかけ。殿が自覚を初めたあれね。
 あのイベント、企画者はハルヒってことになってて、
 ハルヒの中じゃ当然、
 鹿谷姫の気持ちを暴こうっていう、
 表向きの目的しか意図してなかったと思う。
 だけど、僕は今でも疑ってるんだ」
「何を……?」
「ホスト部のイベントって言ったら、
 なんだかんだで副部長の許可がなきゃできないでしょ。
 いくらアイディアを出したってさ」

馨が何を言いたいかはすぐに分かった。

「馨が言いたいのは……、
 要するにハルヒが企画したこととはいえ、
 あのイベントの全ては鏡夜先輩の策略だってこと?」
「鏡夜先輩が、殿の味方であったことはもう十分分かってる。
 当時、色々作戦を練って、
 殿とハルヒをくっつけようとしてたことも。
 鏡夜先輩の進学を隠していたことだって、
 殿との本気の喧嘩のことだって、
 もうこれでもかってくらい罠を張ってさ。
 あのオリエンテーリングも、
 鹿谷姫のことと同時に、殿に自覚させるっていう、
 鏡夜先輩の作戦の一環ってことは間違いない。でもね」

馨の顔から笑みが消える。


「鏡夜先輩の策略が、たった一つの裏目的のために、
 使い果たされて役目を終えて完了していた。
 ……なーんて甘い考えは、僕は今は持ってないわけ」
 
 
これまでに散々鏡夜先輩にはめられている僕からすれば、
馨の言っていることには頷かざるをえなかった。

「だとすると、馨は何の役目があったって思ってるんだ?」
「うーん、上手く説明できるかわからないけど、
 なんとなく違和感があったんだよ、最初から。
 大体、最終チェックポイントのオブジェ。
 見え見えじゃん。あんなの」
  
最終ポイントのオブジェは、
世界的にも有名な、
本当に有名な伝承をもつオブジェのレプリカ。

意地っ張りで素直になれない参加者を、
なんやかんやで最終ポイントに連れて来た揚句、
あんな分かりやすいオブジェの前に立たせるなんて、
「はい、ここで真実を言ってください」って、
面と向かって言ってるようなものだ。

はたして「作戦」とまでいえるレベルの、
イベントだったのかって思うくらい、
あのオリエンテーリングのラストの終わり方は陳腐だった。

「ハルヒの企画っていっても、
 鏡夜先輩がかんでるのにさー。
 最後の締めがあれだけ単純なのはおかしいって、
 もう違和感だらけだったんだよ」
「まあ、言われてみりゃーそうだよなあ」

うんうんとしたり顔で頷いてみたけれど、
僕は今の今まで言われるまで、
全く気付かなかったんだから、
なんだかんだで、やっぱり馨は凄い。

「だからあのオブジェは何の裏の意味があるのかって、
 ずっと思ってたんだよ。
 で、やっとね。最近やっと思いついたんだ。
 鏡夜先輩のあの当時の気持ちにね。
 だから、あのワインを贈ったの。僕なりの警告として」
「本当のことを言えってだけじゃなくて?」
「伝承はまだ続きがあるんじゃない?
 本当のことを言わなかったら、
 そのときどうなるのって考えたら、
 きっとそれは許さないって、
 例え傷つけることになっても、絶対に許さないって、
 そういうことだって僕は解釈した」

偽りの心をもつものが、
そのオブジェに触れたなら……。


「……食いちぎるんだ? 海神じゃなくて魔王様が」


僕は「魔王」なんて、
冗談見たいな単語を使ったけど、
全然、笑えるような雰囲気ではなかった。

そうか。あの仰々しいオブジェは、
その真の意味は警告だったんだ、鏡夜先輩から殿への。

自分の心に嘘を吐くな。

逃げるな。

これ以上嘘を吐くなんて許さない。
 
自分の気持ちに気付かないフリなんて許さない。

もしも本心をごまかし続けて、
逃げ続けて、
ハルヒを傷つけることがあるならば、その時は。



例え、『環』であっても許さない。



鏡夜先輩の底知れぬ決意が見えた気がして、
僕の背筋に一瞬、ぞぞぞっと冷たいものが走った。

「そう。だから、あのときの鏡夜先輩の決意を、
 思い出してもらおうと思って、
 まあ今度は立場が逆で、
 嘘を吐いたら鏡夜先輩が責められる側、だけどね。
 そういう『戒め』を込めて贈ったんだよ。
 それがあのワインの意味」

だから別に応援の意味じゃないんだよー、と、 
馨は得意げににやりと笑ったけど、
僕はそんな馨を見ていて、
急に沸いてきた疑念があって。

「……じゃあ、今回の『戒め』を破ったら」

馨の顔を凝視しながら、
僕はぽつりとその疑問を口にした。




「嘘をついた鏡夜先輩を、食いちぎるのは……誰なの?」




馨が僕と視線を合わせる。
僕らは真顔で見つめあっていた。
時間はおそらくは数秒なんだろうけど、
それ以上に感じられた。

僕には馨が何を考えてるのか、
時々分からなくなることがある。
そして今、目の前で、
僕のことを真剣な表情で見つめる馨がいて、
おそらく馨のこういう表情のときに、
僕は馨の心が読めなくなる。

僕は単純だろうから、
向こうはきっと読めてるんだろう。
僕の言いたいことも分かってるんだと思う。
そして、おそらくは未だ綺麗に形にならない、
僕の「怖れ」についても、
きっと馨は分かってる。理解してる。

馨は、一瞬だけ横に視線をそらし、
それから首をすくめた。

そんなちょっとした仕草で、
僕らの間の空気は自然と柔らかくなって、
馨はちょっと小首をかしげると、
僕のことを見上げるようにして、
口元をきゅっと引き結んでから、
手元の携帯電話に視線を落した。

「まあ、その役目は今のところは」

馨はふっと目元を和らげると、
携帯電話に目線を動かして、
なにやら文字を打つような指の動きをしはじめた。


「光……ってことでいいんじゃないか、な?」


* * *

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