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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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私の心の半分 -1-

君の心を映す鏡 番外エピソード
私の心の半分 -1- (鏡夜&ハルヒ)

夢と現の狭間から、戻ってきたのはどちらの世界?

* * *

底冷えのする寒さに覆われた十二月初旬。

週末に彼女の部屋を訪れた鏡夜は、
仕事で疲れていた所為もあって、
うっかり炬燵で転寝してしまうという、醜態を晒してしまった。

ハルヒの話では、風呂の準備をしている間に、
鏡夜が炬燵に入ったまま、横になって熟睡してしまっていたから、
声をかけるのに忍びなくて、起こすに起こせなかったらしい。

「先輩、お風呂どうしますか? 
 大分……時間が経ってしまったので、
 ぬるくなっちゃったと思いますが、お湯、溜めなおします?」

悪夢の破片に突かれて、弾かれるように目を開けると、
愛しい彼女が自分を心配そうに見下ろしていた。

自分の手が届く場所に、
彼女の姿があることに心の底から安心しつつも、
鏡夜としては、なんだか随分長いこと、
ここではない別の世界の時間を歩んでいたようで、
まだ自分の心が、この場所に戻りきっていないような、
なんだかすっきりしない気分でいた。

それにしても、大学の合格発表の時の夢なんて、
どれくらいぶりに見ただろうな。

さっきまで自分が浸っていた世界の絵は、
突然ぶつりと途絶えて、冷たい白い色に塗りつぶされてしまったけれど、
本来の記憶どおりに、あの日の思い出を再現するなら、
確か、あの後はハルヒの家に行って、
ホスト部のメンバーに、ハルヒの父、蘭花も加わって、
自分達の合格祝いということで、鍋を囲んで大騒ぎしたはずだ。

環に突然の不幸な事故が起きたのは、
それからずっと後のことだったはずだが、
その残酷で鮮明な記憶は、心に余りに濃い影を刻んでいたから、
辛い記憶が、別の過去の記憶とごちゃごちゃに混ぜ合わさって、
捻じ曲がったストーリーとなって、夢に投影されてしまったのだろう。

きっかけは、今日、炬燵を久しぶりに見たせいもあっただろうし、
つい先日、部屋の整頓をしていたときに、
(正確にいうと姉が押し掛けてきて、色々掻き回していった後始末をしているときに)、
大学入試の時に、ホスト部の皆からもらった手作りお守りを発見して、
ハルヒに会ったら覚えているか見せようと、持ち歩いていたからかもしれない。

そういえば、あの日も今日と同じくらいに寒かった。

「まあ、また溜めなおすのも手間だろう? 今日は、シャワーだけで構わない」

炬燵で横になっていた自分の、
肩が冷え込まないようにかけてくれてた布団を脇によけると、
久しぶりに夢に見た親友との思い出を反芻しつつ、
鏡夜はゆっくり立ち上がった。

炬燵の機械的な熱の所為か、夢見が悪かった所為か、
なんだか体中がじっとりと汗ばんでいて気持ちが悪い。

「あの……鏡夜先輩。もう、大丈夫ですか?」
「……」

鏡夜がバスルームへ向かうと、
ハルヒが心配そうに後を付いてきたから、
洗面所の前のドアに手をかけつつ、
鏡夜は苦笑いを浮かべながら後ろを振り返った。

「なんだか……俺は最近、お前に情けない姿ばかり、
 見せているような気がするな」

涙を見せたり、彼女の手にすがったり、
およそ他人に見せられる格好の良い姿とは思えない。

「そんなこと、全然自分は気にしませんよ?」

本当は彼女を支える存在として、
自分は常に冷静でありたいと思っているのに、
どうも最近、自分の感情の振り幅が大きくなっているように思う。

今の自分と彼女が、色々なことを乗り越えて、
お互いに頼り、支えあう関係だったとしても、
傍にいる『彼女』という存在に、より深く依存しているのは、
おそらくは、自分の方ではないかと思い知らされる。

彼女がもしも、今、自分の前からいなくなったら。

その時自分がどうなってしまうか、全く想像もできない。
そんな底知れぬ黒い恐怖に、心が沈み込んでしまいそうになる。

「お前が気にしなくても、俺が気にする」

そう言いながら脱衣所へ続くドアを開けたら、
背後で彼女が小さく愚痴を零すのが聞こえた。

「まあ、先輩が無駄にプライドが高い人だってことは、
 よく分かってますけどね」
「…………最近、お前……以前に増して遠慮なく、
 色々言うようになりはしないか?」

最後にそう反撃すると、
また愚痴を言われる前に、鏡夜は静かに扉を閉めた。

こんなにも彼女に依存している自分を、
なんて弱い人間なのだろうと思うのと同時に、
さらに情けない、女々しい自分の想いに気付く。

あの日。

あいつの最後の電話。

それが、自分ではなく彼女のもとへかかってきたことを、
未だに夢に見るほどに、自分は気にしていて、
挙句、ずっと抱えていたその疑問を、夢の中で現実化させて、
自分の願望どおり、奴に謝罪をさせる。

なんて、滑稽な妄想だろう。

彼女に自分の心を全て渡すと誓った、
宣言通りに自分の心のほとんどは、
既に引き返せない深い所まで、入り込んでしまっている。
けれど、まだ心の一部が、
『夢の中』に置き去りなのは、何も彼女に限ったことじゃない。

だからこそ、俺達は……。

バスルームへと続く引き戸を開けて、
鏡夜がシャワーのバルブを勢いよく捻ると、
ひんやりとした小さな箱の中が、
瞬く間に白い湯気で埋まっていく。


今、一緒にいるべき……なんだろうな。


* * *

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