君の心を映す鏡 -first intermission-(ハルヒ&鏡夜)
* * *
「鏡夜先輩、日本茶でいいですか? それとも紅茶にします?」
ガスコンロの火を止めて、
お湯をケトルからポットに移しながら、
ハルヒはリビングにいるはずの鏡夜に声をかけた。
しかし、彼の返事は聞こえない。
「鏡夜先輩?」
ハルヒがキッチンからリビングに戻って、
そこに居るはずの鏡夜の姿を探すと、
彼は炬燵に入ったまま、横にごろりと寝転がり、
小さな寝息を立て、すっかり眠ってしまっているようだ。
鏡夜先輩でもこんなところで寝ることあるんだ……。
「鏡夜先輩。こんなところで寝たら、風邪ひきますよ?」
意外な発見をしたと驚きつつも、
寝起きの彼のテンションを警戒して、
ハルヒはそろそろと鏡夜に遠慮がちに声をかけた。
けれど、よっぽど疲れていたのか、
規則正しい鏡夜の寝息は乱れることなく、
ハルヒの呼びかけに返って来る反応は無い。
お風呂の準備が出来たら起こそう、かな?
とりあえず、鏡夜を起こさないもっともらしい理由を、
自分に言い聞かせると、
ハルヒはベッドの掛け布団の一枚下から、
薄手の毛布を引っ張りだした。
そして、やっぱり浴槽は追い炊き機能付きを、
選んだのほうが良かったかな。
とか。
このまま朝まで炬燵で寝かせておいたら、
起きたときに色々文句を言われるかな。
とか。
およそ、ほのぼのとしたことをあれこれ考えながら、
炬燵布団から外に出ている鏡夜の肩に、
ハルヒは毛布を掛けてやった。
そして彼の寝顔をじいっと見つめていたとき。
「……」
何事か呟いた彼の寝言は、
余りに小さかったために聞き取れなくて。
「え?」
驚いて耳を済ませてみたが、
今度は急に静かになってしまって、
しばらく待ってみても、鏡夜が何か喋る様子はなかった。
なんて言ったのかな?
ハルヒの隣で眠る彼は、
いつもハルヒを抱きしめたまま、
ぐっすりと熟睡してしまっていることがほとんどだったから、
寝言なんて一度も聞いたことが無かった。
まあ……起き抜けの、
彼の記憶にはまったく残っていない、大魔王の発言は別として。
なので、鏡夜が転寝しているなんて、
この滅多にない貴重なチャンスに、
彼をからかう材料が手に入るかもと、
少し期待していたというのに、聞き逃してしまった。
ああ、残念。
自分の寝顔や寝言は、
彼には何もかも全部見られてしまっているにも関わらず、
眠っているときまで隙がないなんて、相変わらず不公平だ。
鏡夜先輩。
あなたは今、どんな夢を見ているんですか?
* * *
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