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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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君の心を映す鏡 -8-

君の心を映す鏡 -8- (環&鏡夜)

ハルヒが環への想いをようやくはっきり認めた頃、
鏡夜が別の大学を受験するということを隠していた事がショックで、先に帰ってしまった環は……。

* * *

「よろしく! オートリくん」

これが、環が初めて鏡夜にかけた言葉だった。

桜蘭学院転入初日。

職員室で簡単な説明を受けたあと、
環がこれから入ることになる、
桜蘭学院中等部3-Aのクラス委員長と副委員長が、
自分を迎えに職員室にやってきた。

教師から二人を紹介された環は、
レディファーストで副委員長の城之内綾女嬢に先に挨拶をしてから、
後ろに立っていた少年に、にこりと笑って手を差し出した。

「こちらこそ」

真っ直ぐな黒髪に眼鏡の少年は、
優しげな笑顔を浮かべて環の手を握った。

印象的だったのは落ち着いた声とその話し方。
浮ついたところの無い喋り口調は、すぐに好感を持つことが出来た。

「須王君。よければ学院内を案内しようか」

教員からは、由緒正しい鳳家の子息で。
学年では主席をキープしている非常に優秀な生徒だと説明を受けていた。

「ああ! それは嬉しいなあ」

前評判通りの彼の第一印象。

だが、環はこの時、彼の笑顔に少々違和感を覚えていた。

彼の表情は、非の打ち所がない完璧な笑顔だったのだけれど、
環が日本に来る前、毎日のように見ていた「大切な人」の、
太陽のような笑顔とは、少し違った表情に思えたからだ。

もっとも、どこがどう違うのかと言われれば、
表現に困るくらい、とても小さな違いだったのだけれど。

この微妙な違和感の理由は、一体なんだろう?

「こっちの渡り廊下の先に進むと高等部。
 初等部はそこの中庭を挟んで東側に校舎があるんだ。
 ……で、ここから先が西校舎だよ。
 特別教室は全部向こうなんだ」
「へぇー」

【渡り廊下にて】

彼の後について校舎の中を歩き回りながらも、
環は、何故、彼の笑顔がしっくりこないのだろうと、
すっかり悩んでしまっていたから、
丁寧な学院案内も上の空で聞き流してしまっていた。

やっぱり、笑顔がちょっぴりぎこちなく思えるのは、
オートリくんが日本人だから? 
日本人は一般的に感情表現が苦手だって聞いているしな。
でも、父さんが俺に笑いかけるときは、
どちらかといえば、母さんと同じような感じだったし、
父さんは日本人なわけだし、
だとすると別に、日本人だから笑顔がちょっと変って思う理由はないわけだな。

じゃあ、なんでオートリくんの表情に、俺は疑問を覚えるんだろう?

うーん。日本はやっぱり『東洋の神秘』の国だしな。
日本のことは父さんに聞いてかなり詳しく知ってるつもりだったけど、
まだ日本って国のことや、そこに暮らす人についても、
まだまだ分からないことがいっぱいだな。
ゲイシャさんには会えたが、ニンジャは父さんが変装しただけだったし。
早くニンジャに会いたいし……もっと良く日本のことを勉強しないと。
そういえば日本には家族団らんの象徴があるって父さん言ってたっけ……。

「そうだ、ところでオートリくん」

いつか。

お祖母様が自分たちを認めてくれて、
フランスから母さんを、堂々と日本に呼べる日が来たら、
その時は自分が、日本の良いところを俺が沢山紹介してあげられるように。

母さんと離れても、
日本で楽しく笑顔で過ごしていたんだという証として。


「君の家に『コタツ』はあるのかな?」


後になって、あの時は日本のことを勉強したい! と考えていて、
『コタツ』のことを思い出したのだ、と説明してやったら、
なるほどね、と鏡夜はくすくす笑っていたけれど。

今でもはっきり覚えている。
この時の鏡夜の表情は本当に見ものだった。


「…………は?」


それまで綺麗に整えていた表情を一気に崩して、
ぎょっとした顔でこちらを見つめていたからだ。

もっとも、すぐに気を取り直して表情を作り直してしまったのは、
流石だなあと思ったけれど、
その一瞬に間に、ぽろりと彼の本心が垣間見えて、
それが、環が出会ったときから感じていた違和感に答えをくれる気がした。

彼はまだ本心を俺に見せてない。

だから、それからは、
彼の本当の顔、彼の心が知りたくて、
旅行に行きたいとか、色々と我侭を言ってみることにした。

まあ、当時は、日本に来たばかりだったから、
母親と別れた寂しさを紛らわすために、
普段の自分以上に無理矢理高いテンションで、
はしゃいでいただけなのかもしれないけれど。


「炬燵は冬と決まっている。入りたきゃ冬まで待て。この阿呆が」


そして、やっと彼の本当の表情を覗くことができて以来、
環は鏡夜と一緒に行動しているわけなのだが……。

「まあ、別に、今更といえば今更なんだけどなあ」

学校から帰ってきて以来、自室に引き篭もってしまった環は、
着替えもせずに制服のままベッドに大の字に仰向けに寝そべっていた。

そりゃ、鏡夜は元々自分の本心を素直に言うような男じゃないし、
いつも一人で、頭の中で緻密に計算をして、
こっちを驚かせたりすることを楽しんでいるようなところがあるから、
鏡夜が俺に秘密にしていたことがあるってことが、明らかになったからって、
いつものことなのだから、こんなに落ち込むこともないはずなのに。

「ああ。何をやってるんだ、俺は」

部員達にしつこく出席するように言っていた、
部の引継ぎのミーティングもすっぽかして、
部の資料をまとめてくれていた鏡夜を一人残し、
さっさと帰ってきてしまったことに対して、
環はじわじわと自己嫌悪の感情に締め付けられつつあった。

「……だが、待て。そもそも、これは俺が悪いのか?

あれやこれやと考えているうちに、
段々と後悔から鏡夜に対する怒りへと感情が変化し始める。

そりゃ、確かに俺は鏡夜に高校卒業後の進路のことなんて、
何も聞かなかった……いや、何もってことはないな、
何を勉強するんだって話になって、医学部に行かないって、
経営を専門に勉強したいから最終的には留学したいって、
それだけは聞いていたっけ。
まあ、それはともかく、どこの大学にいくかとか、
内部進学するかしないかなんて、
聞くまでも無いと思っていたから聞かなかっただけで。

鏡夜なら、それに気付いていないはずはないのに。

「悪いのはやっぱり鏡夜のほうじゃないのか?」

俺と鏡夜の仲で、こんな重要なことを今まで言わないなんて、
明らかに悪意があるとしか思えない。

「でも、なあ……」

鏡夜は隠し事が多いけれども、理由なく秘密を作っておくことはない。
彼が良く言うところの「メリット」のために、
彼だけが知りうる情報を、時期がくるまで秘密のままにしておくだけだ。

後々明かされた直後こそ「どうして黙っていたのだ!」と、
環をはじめ部員達は揃って鏡夜を問い詰めはするものの、
多分、最初から自分達にその情報が明かされていたら、
ここまで上手く事態は収束していなかっただろうということは、
皆、はっきりと口には出さなくても、分かっていることだった。

例えば、新聞部が取材と称して実は自分のスキャンダルを狙っていた時とか、
二年の時に自分が欠席したフランスの研修旅行の時のことなど、
鏡夜が秘密裏に進めていた策略の恩恵を一番受けているのは、
なんだかんだいって環自身に他ならない。

しかし、今回ばかりは鏡夜の隠し事になんの意図があるのか、
環にはさっぱり分からなかった。


『まあ、いいじゃないか。俺は行かないにしても、
 ハルヒは奨学金の件があるから当然そのまま上にいくだろうし。
 今度は……ハルヒと組んで何かやったらどうだ?』



それから、「会えなくなるわけじゃない」と若干のフォローはあったものの、
まるで自分を突き放すかのような彼の言葉を思い出して、
環の心は再び暗闇に沈んでいく。

何か鏡夜に嫌われるようなことをしたんだろうか、俺は。

「恐れながら、環様」
「ひっ……」

突然、耳元でしゃがれた大声で自分の名前を呼ばれ、
環は驚いてベッドの上で跳ね起き、声を発した人物を見た。

「シ、シマ……!?」

いつの間にかベッドの脇に立っていたのは、
かつての須王家第二邸使用人総括、
環が本邸に移った直後こそ、一時田舎に帰っていたのだが、
理事長に是非にと呼び戻されて、
現在、引き続き環の教育係を努めている前園シマだった。

「お着替えもなさらずにベッドに寝転がるとは、お行儀の悪い。
 ばあやは坊ちゃまを、そのように教育したつもりはございません」

環のこと睨んでいるシマの目が据わっているところをみると、
表情はあくまで冷静なものの、かなり怒っているようだ。

「シマ……部屋に入ってくるときはノックくらいしてくれんだろうか」
「誠に恐れながら環様。先ほどから何度も何度も御部屋の前で、
 『御夕食の支度が整いました』と、お呼びしておりましたが、
 一向にお返事がございませんでしたので、
 失礼ながらお部屋に立ち入らせて頂きました。
 本日は、御夕飯はお召し上がりにならないのですか?」
「い、いや……その……」

須王家の数多くの使用人の中でも、
一、二を争うほど使用人歴が長いシマの厳しい教育は、
手心が加わることは一切ない。

日々、多少でも環が礼儀作法に反するところがあれば、
次の休日は一日みっちりと、小言と作法の勉強に費やされてしまう。

環は左手でばくばくと踊る心臓を押さえながら、
右手で前髪をさっとかきあげると、儚げによろめいて見せた。

「じ、実は、学校で心配なことがあったので、少し食欲が……」
「なるほど。ご気分が悪くお着替えもできなかったと。
 左様でございますか。それならば本日は……」

納得したようなシマの言い回しに、
今回は五月蝿い説教は無しで済みそうだと、
ほっと環が胸を撫で下ろしていた時。

「……と、そのようなことを、このシマが許すとお思いですか?」

環にずいっと顔を近づけ、シマの目の奥がぎらっと光る。

「へ?」
「この須王家の後継者にならんとするお方が、
 御着替えもなさらず、御食事をお召し上がりにならぬなど、
 そのような不摂生は言語道断!
 今週末のお休みには、今一度、立派な殿方の心構えというものを、
 しっかりお勉強いたしましょう」
「う、うあああ」

ぴしゃりと環の希望を打ち崩すと、
シマはとても80歳を超えているとは思えないほどの力で、
環をベッドから引きずり降ろし、
ずるずると環を部屋の奥のクローゼットの方へ連れて行く。

「さあ、環様。旦那様も先ほどからずっとお待ちですので、
 早くお着替えをお済ませになって食堂へお越しください」
「え? 父さんが?」

朝食は良く一緒に付き合ってもらっていたが、
ディナーは、いつもは外出先で済ますことが多い父親が、
この時間、自分と一緒に食事をするというのは珍しい。

「ええ。本日は環さまに大事なお話があって、
 こちらで夕食をお召し上がりになるということですよ」

* * *

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