『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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* * *
「ハルヒの素直じゃない性格は分かっているだろうに、
どうして、お前は、ハルヒにはっきり、『好き』だと言ってやらなかったんだ?」
「…………」
自分の質問に対して、環が無言だったので、
返事に困っているのかと思えば、
環は頬杖をつきながら、頭をかくんかくんと前後に揺らしている。
どうやら弁当を食べて空腹が解消されたために、
眠気に襲われているらしく、瞼の上下がくっつきそうになっている。
「環?」
声をかけたら、ぱちっと環の目が開いた。
「……んあ、すまん。つい……眠くなってしまって」
目の上を、手でごしごしと擦る環の顔を注意深く観察したら、
目元に隈らしき影も見えるし、
全体的に疲れきったような、青白い顔をしている。
「環。お前、もしかして昨日寝てないんじゃないだろうな?」
「昨日というか……」
環は目を擦ったり、頬を叩いたりつねったり、
こめかみをぐりぐりと指の間接で押したりと、
必死で意識を覚醒させようとしていたのだが、
どうやら全て無駄に終わったようで、
ついに力尽きて、ばたりと机の上に倒れこんだ。
「この一週間ずっと……毎日3時間くらいしか……寝てない」
「さ、3時間!? いつも8時間睡眠を徹底しているお前が3時間?」
「だって、仕方ないだろう……、
気付いたら試験まであと一週間しかなかったし……、
用意した問題集を、とりあえず全部やらねばと思って……、
あ、鏡夜……さっき俺に何か聞かなかったか?」
「それは、もういい」
鏡夜は椅子の背にかけていた自分のコートを手に取ると、
机の上に突っ伏している環の上に、頭まですっぽり覆うように掛けてやった。
「きょー……?」
「あと三十分くらいは時間がとれるはずだ。
いいから、そのまま寝てろ」
「だが……ここで寝てしまったら、なんだか起きれなさそうな気が……」
コートを払って体を起こそうとする環の頭を、
鏡夜は上から押さえつけた。
「そんなふらふらな状況で、午後の試験に臨むと死ぬぞ。
少しでも寝れれば、頭も多少すっきりする。
ちゃんと試験前には責任持って叩き起こしてやるから」
鏡夜はコートの上から、ぽんっと一度、環の頭を軽く叩いた。
「お前、俺と一緒の大学を受験するんだろ?」
コートの下から、環の片目だけが見えている。
環はその目で、一瞬だけ鏡夜と視線を合わせて、
「ああ、当然だ。俺達はこれからも一緒だぞ? 鏡夜」
そう言って環は、ポケットの中から白くて小さなものを取りだした。
見ると、鏡夜が渡されたお守りの色違いバージョンらしい。
それを鏡夜に見せてにこりと笑った環は、
白いお守りを手に握りしめ、鏡夜のコートを自ら引っ張りあげると、
すやすやと寝息を立て始めた。
「……全く、そういうことは二次試験を通ったあとに言う台詞だろうが」
疲労困憊のくせに、環があまりに自信ありげに言うから、
鏡夜は苦笑いを浮かべてしまった。
環、お前に、俺の我侭に付き合わせるというのは、
確かに、俺のプライドに障る行為には違いない。
だが、まあ、今回はいいさ。
お前との腐れ縁が、これから先も続くなら、
また俺は、お前の突拍子もない我侭にまた振り回されたり、
お前とハルヒ、不器用なお前らの仲を取り持ったりすることになるんだろう。
環、お前はいつも、
周りの人間を喜ばせることばかり考えすぎるせいで、
お前自身のための望みを叶える優先順位を、
無意識に一番下に追いやってしまう。
だから、もし、この先お前の心が、
また横道に逸れるようなことがあったら、
俺がちゃんとお前に教えてやろう。
お前の親友として、お前と一緒にいる限り……、
俺は、これから先もずっと、
お前の本当の心を映し出しす鏡になってやるから。
お前のために、そして何より、俺自身のために。
「まあ……無事二人とも受かれば、の話だがな」
自分の隣の席で眠りこける環を見つめ、
くすくす笑いながら鏡夜は腕時計を確認する。
まだもう少し、環を眠ったままでいさせられるようことに安堵して、
鏡夜はポットからお茶を継ぎ足すと、それを口に含んだ。
喉を通る温かさは、冷えた身体に、そして胸の奥に、優しく沁みていく。
そして、気が付けば。
一週間の間、
あれほど自分を悩ませていた不快なノイズが……。
今は、ぴたりと止んでいた。
* * *
続