『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -57- (鏡夜&環)
受験の応援に集まったホスト部一同は、常陸院邸でテストが終わるのを待っていたのだが、
ハルヒには心配事があるらしい。果たして試験を無事終えることができるのか……?
* * *
「鏡夜、出来はどうだ?」
「ん。まあ、時間は余ったな」
午前中の二科目のテストを終えて、昼休み。
二人の受験番号が割り当てられていた会場は、
大学の教室の中でも特に広い大講義室で、
試験中は四人掛けの机の通路側、端と端に二名で座らされていた。
環と鏡夜は同じ教室内ではあったものの、
若干席が離れていたが、
昼休み中は比較的席が自由にできるということで、
環は、休み時間になった途端、
鏡夜が使っていた四人掛けの机の、
真ん中二つ空いた席のうち、鏡夜の隣側の席に堂堂と座り込んだ。
「さすが鏡夜だな~。でも、俺もこの二科目は問題なさそうだぞ。
さあ、昼食にしよう。鏡夜、弁当を!」
「はいはい」
鏡夜は今朝ハルヒから受け取った紙の手提げ袋の中から、
弁当箱を取り出して、その内、二つを環に手渡した。
「それにしても、俺に隠して試験勉強していたとはね」
保温ポットの中身は、環が言うには、どうやらホットウーロン茶らしい。
ご丁寧に紙コップも入っていたので、
鏡夜は自分の分と環の分のお茶を注いでやった。
「ふふん。どうだ、驚いただろう?
これは今までお前が色々隠し事してたことのお返しなのだ。
大体、鏡夜がいけないんだぞ?
試験の申込締切はとっくに過ぎているとか言うから、
俺はてっきり、もう受験できないと思って諦めてたのに。
受験できる可能性があるなら、
せめて仲直りしたときに、教えてくれたって良かっただろ?」
ハルヒの手作り弁当を広げながら、
環はぶつぶつと鏡夜に不満をぶちまけてくる。
「単純に忘れていただけだ」
あっさり答えた鏡夜は、
紙コップの中に注いだお茶を一気にぐいっと飲み干した。
昼食場所は各自、試験室で食べるようにとの指示が出ている。
周りを見渡すと、見知った顔も何人かいるのだが、
ご飯を食べながら、片方の手で問題集を開いている者も多く、
あまり気安く声はかけられない。
今日の午後の試験は国語と英語。
語学は鏡夜が得意とする科目の一つだったので、
問題集などは一切持参せず、
ただ、間の時間をつぶすために、本を何冊か持ってきていただけだったから、
ここは環と雑談でもして、ゆっくり休息を取るか、などと鏡夜は思っていた。
大体、今朝は環の遅刻のせいで、
時間がぎりぎりになって、会場の教室まで走らされる羽目になったことだし、
ぱっと見る限り、環も問題集や教科書を持参している様子はないから、
環にとって迷惑になるということもないだろう。
「忘れていたなんて鏡夜らしくないなあ」
何気なく鋭い突込みを繰り出す環に対して、
「……色々と考えることが多くて忙しくてね」
はっきりしない物言いをして、
鏡夜は再びポットからお茶をコップに注いだ。
「いくらお前でも、残り一ヶ月で外部受験に切り替えるのは、
流石に無謀だろうと思ったし……」
……それに。
多分、お前に本当のことを言ったら、
どんなに無謀に思えても、
きっと「自分も受験する」と言い出すだろうと思っていた。
お前は、不可能を恐れずに、
チャレンジすることにこそ最大の価値を見出して、
そして、見事に結果を引き寄せてしまう、
強い「運」……いや、それほどの「実力」を持った男だから。
「おかげで俺が知ったのは一週間前だぞ!
それから、毎日昼も放課後もハルヒに付き合ってもらって、
あとは夜も毎晩遅くまで問題集を解きまくって、
見ろ! 俺の玉の肌がこんなにも荒れてしまったじゃないか!」
「お前の肌なんてどうなろうが知ったことじゃないが、
まあ、この一週間、お前がハルヒとべったりだった理由は分かった」
中等部三年の春以来。
俺は、何かにつけてお前に絡まれ続けたせいで、
学院ではもちろん、休日だって一人で過ごすことは殆ど無かった。
だから、かなり久しぶりに、
学院や自宅で一人きり過ごした、この一週間、
お前とハルヒが一緒にいる姿を見ては、
何度も心の中に割り込んでくる原因不明の雑音に、
気分が悪くなることもあったけれど。
それでも俺は『俺自身の我侭』に、お前を巻き込むのが嫌だったから、
最後まで……お前には何も言わなかった。
俺の我侭。
二人の兄達と同じ道を行きたくないというのも、
普通に内部進学しないことを決めたのも、
『自分の本当にやりたいことを見つけ出した勇気ある決断』、
とでも言えば、格好は良いかもしれないが、
経営を本格的に学ぶなら、このまま大学部に進んだって充分だったのに、
それでも他の大学に行こうと決めたのは、
俺自身のアイデンティティーを守るための、単なる勝手な我儘だ。
環。
俺が、今まで散々お前の我侭に振り回されてきて、
そのことに嫌だという素振りをしつつも応えてきたのは、
お前の我侭に「完璧」に応えるという事が、
達成感というか、俺の自尊心を満足させたからだと思ってる。
だから、今更その立場を逆転させて、
俺の身勝手な行動に、お前を巻き込むなんてしたくなかった。
そんなことは俺のプライドが許さなかったんだ。
まあ、もっとも、冷静に分析するなら。
お前を巻き込みたくない、と思って黙っていたことも、
俺の身勝手さの表れなのかもしれないが。
午後の試験までは一時間以上インターバルがあって、
半分以上休憩時間を残して、鏡夜は弁当を食べ終わった。
環も、ごちそうさまでした、と手を合わせて、
弁当箱の包みを元に戻すと、鏡夜に手渡してきた。
「環、一つ聞きたいことがあるんだが」
「ん~?」
それを受け取って紙袋に戻しながら、
鏡夜はこの一週間、試験以外の事で、
気になっていた事を、環に聞いてみることにした。
「先月、お前はハルヒに告白した、と、俺に啖呵を切ったよな?」
「ああ……まあ……そうだな」
曖昧に答えながら、綺麗に片付いた机の上に頬杖を付く環。
「ハルヒの素直じゃない性格は分かっているだろうに……」
「どうして、お前は、ハルヒにはっきり、『好き』だと言ってやらなかったんだ?」
* * *
続