『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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「今更言ってもどうにもならないことだけどさ……、
あいつ、酷いと思わないか?
いくら理由があったっていっても、俺に黙って外部受験を決めるなんて」
鏡夜の家に入り浸っていたこの一ヶ月、
環は鏡夜と話していても、この話題に触れることができなかった。
折角仲直りできたのに、また、ぎくしゃくしてしまうのが怖くて、
本当は追求したかったのに出来なかったのだ。
鏡夜に対しては、もちろん感謝の気持ちはある。
鏡夜が環を追い詰めたことで、
今、自分は、ハルヒと「お友達からスタート」とはいっても、
こうして二人きりで会うこともできているわけだし。
でも……ずっと抜け駆けされたような、
見捨てられたような寂しい気分は常に感じていて、
鏡夜の受験が近づくに連れて、深まっていく悲しさを紛らわすために、
妙に高いテンションで鏡夜の家に行き続けてしまっていた。
それが鏡夜の勉強の邪魔になっているということは、
充分承知していたのだけれど。
「まあ、鏡夜先輩は他人の情報はしっかり抑えてるくせに、
自分のことはあまり口にしない人ですからね。
でも、環先輩は将来のこととか色々考えて、
うちの大学部に行くわけですよね?
鏡夜先輩が外部受験することを、もし知ってたとしても、
それで進路を変えるってこともないんでしょうから、
もう、そんなに落ち込まないでくださいよ」
今日は『ハルヒと二人っきりでお勉強!』という素敵な時間を、
折角過ごしているのだから、
もっと楽しい話題で場を盛り上げるべきだとは思うものの、
ハルヒに何度励まされても、環の気持ちは一向に晴れなかった。
次第に重くなっていく空気は、
勉強を続けるような雰囲気にも思えなかったから、
丁度時間も三時を回ったということもあり、
休憩がてら、午後のティータイムの時間にすることにした。
「ハルヒ。俺はさ。別にうちの大学にこだわりがあって、
内部進学を決めたわけじゃないんだよ」
紅茶とケーキが運ばれてきて、
給仕を終えた使用人が下がったところで、環は話を切り出した。
「そうなんですか? じゃあ一体何で内部進学しようと?」
「俺はずっと……鏡夜と同じ大学に行きたいって思っててさ」
紅茶と一緒に並べられたのは苺のタルトで、
苺の好きなハルヒは、嬉しそうにそれを見ていたが、
環は気付けば溜息を付いてしまって、
紅茶にもケーキにも手をつける気分にならない。
「鏡夜が医学部じゃなくて経済学部希望ってことは聞いてたんだけどさ、
学年主席だから当然うちの大学部には試験無しで入れるわけだし、
あいつが受験勉強している素振りも無かったから、
当然、内部進学するんだろうなって思ってたんだよ。
だから俺もそのまま進学しようと思ってさ」
「なるほど……でも、なんでそんなに、
鏡夜先輩と一緒ってことに、こだわるんです?」
ハルヒはフォークの先で、タルトの上に山盛りの苺を突きつつ、
どこから食べようかと迷っているようだ。
「俺もあいつも家のことがあるから、今はホスト部で仲間でも、
社会人になればお互い『仲良し』のままじゃいられないと思うんだ。
須王と鳳は競合してる分野が多いからね」
「そうえいば、環先輩がやりたいっていってるホテル事業は、
須王グループの事業の中でも、
どちらかといえば鳳グループとは競合する分野ですよね」
「うむ。だから、俺が鏡夜と組んでさ、
お互い家のことは考えずに協力して何かやれる機会って、
大学四年間が最後じゃないかと思っていたんだ」
「それは確かに、そうかもしれませんね」
ハルヒは苺を頬張りつつ頷いている。
「うん。それでさ、大学生になれば、
高校のときよりももっと自由に行動できるようになるし、
そしたら……今やってるホスト部みたいに、
学院内だけで皆を楽しませるような企画だけじゃなくて、
今度は、もっと、大勢の人に楽しんでもらえるような企画を、
俺は鏡夜と一緒にやりたかったんだよ。
あれだけ冷静に周りを見てさ、裏の裏まで考えて計算できる鏡夜は、
やっぱすごい奴だと思うし、
一緒の大学に行って、鏡夜と一緒に色んな事を企画したらさ、
その経験って社会人になって働くようになってからも、
ものすごく活かせるんじゃないかって思ったんだよ」
環の長々とした愚痴を聞いて、
ハルヒはケーキを食べる手を止めると、困ったように眉をハの字に寄せた。
「そうだったんですか。でも、環先輩。そこまで考えていたなら、
いっそのこと、分かった時点で外部受験に、
切り替えてたら良かったんじゃないですか?
まあ十二月からじゃ、受験勉強期間としては、
ちょっと短かかったかもしれないですけど、環先輩の学力なら……」
「そりゃ、俺もそれができたら、
どんなに時間が短かろうが、受験することを選んだと思うぞ?
でもな……俺が鏡夜から進路の話を聞いたのは十二月で、
その時にはセンター試験とやらの締め切りは終わってしまっていたのだ」
「え? 申し込み期限って……」
ケーキはまだ大部分が手付かずのまま、
ハルヒはフォークを皿に端に置くと、ぽかんと環の顔を見つめている。
「だって、センター試験って自分で申し込む必要ないじゃないですか」
今、何を言われたのか。
余りに急なことだったのと、その内容が余りに飛躍しすぎてて。
「ほえ?」
わけが分からなくなった環は、間抜けた声で聞き返した。
「も、申し込む必要が無いって、一体どういう意味なのだ?」
「どういう意味、って……環先輩、知らないんですか?」
「知らないって、一体何を……?」
「えっとですね、センター試験は学院経由で一括申し込みされているはずなので、
個人で申し込む必要は無いはずですよ?
確か入学の時に、授業料と一緒に受験料も集められてて、
申込みは学校がまとめて行うって、自分は説明受けましたけど。
あ、もちろん、学校に事前に、もうセンターは受験はしないって、
申請すれば受験料は返還してもらえる、ってことで」
「………なっ、なっ、なんだとう!?」
自分が今までずっと悩んでいたことに対して、
それを根本的にひっくり返すような説明を聞かされて、
環の頭の中は、すっかりパニック状態になってしまった。
「てことは、ハルヒ……お、俺も……当然……申し込みは……」
舌がもつれて上手く話せない。
「ええ、環先輩も受験しないって申請してないなら、
当然自動的に申し込みはされているはずですよ?
受験票を受け取ってないなら、職員室で保管されてると思いますけど……、
あの……環先輩……本当にこれ……知らなかったんですか?」
ハルヒは信じられないと目を細める。
「じゃ、じゃあ……俺もセンター試験は受験できる、と……」
「と、いうことになりますね」
きょ……鏡夜の奴……!!!
驚きだとか、怒りだとか、
仮にも学院理事長の息子なのに、
こんなにも基本的なことも知らなかった自分の間抜けさが、
もの凄く恥ずかしくなって、情けなくて、
耳の後ろ辺りが、一気にかあっと熱くなる。
あいつ、この事を知ってて、わざと俺に黙っていたのか?
* * *
続