『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -55- (環&ハルヒ)
いつかは別れるこの道の上。共に行動できる最後の場所として、鏡夜と一緒の大学に行きたかった。
そんな環の気持ちを聞いたハルヒは、それなら今からでも外部受験に切り替えればいいと言って……。
* * *
「『センター試験』って、学院経由で一括申し込みされているはずなので、
個人で申し込む必要は無いはずですよ?
あの……環先輩……本当にこれ……知らなかったんですか?」
「じゃ、じゃあ……俺もセンター試験は受験できる、と?」
「と、いうことになりますね」
まだ受験一年前の自分が知ってるくらいだから、
当然、学生として常識の範囲だと思って、ハルヒがあっさりと答えたら、
環の顔色が、一気に真っ赤になったかと思うと、
次の瞬間には白っぽくなったりと、目まぐるしく変わっていく。
「鏡夜の奴……」
どうやら環にとっては、かなり衝撃の事実だったらしい。
「でも、いくら環先輩でも、何も対策してなくて、
今から一週間後に急に試験を受けるというのは、さすがにちょっと無理が……」
「ハルヒ!!」
「は、はい!?」
環は、ハルヒの名前を大声で呼ぶと、
椅子をずずっとハルヒの方へ引き寄せて、
隣に座っていたハルヒにぐいっと顔を近づけてきた。
だから、ちょっと近すぎのような……。
隣で勉強を教わっているだけでも気恥ずかしかったというのに、
更に近づかれて、ハルヒは、椅子に座ったまま、
後ずさりしたい気分になってしまった。
「教えてくれ。『センター試験』というのはどういう試験なのだ?」
「は……はい?」
「やはりあれか? 持久走とか、懸垂とか、
体力的なものも必要だったりするわけか?
そうすると一週間で力をつけるのは大変なようにも思うが……」
何かの冗談なのかと思いきや、
表情から察するに、本人なりに真剣に考えての発言のようだ。
一体、どこからこういう発想が出てくるのか、
いつもながら、環の思考回路は疑問を感じてしまう。
「い、いえ、純粋にペーパーテストですから、体力づくりは必要ありません。
全問マークシート形式で、あ、でも外国語でヒアリングのテストが……」
ハルヒが仕方なく試験の説明を始めようとすると、
ヒアリングというところで、再び環のテンションが跳ね上がった。
「な、なにい! では、やはり、ギリシャ語は、
ちゃんと勉強しておかねばならなかったのか?」
「……はい?」
「前に一度、黒魔術部の呪いでギリシャ語講座に紛れ込んでしまった時に、
ちょっと興味を持ったから、多少は読めるように勉強はしているが、
だが、まだ聞き取りまでは……」
「い、いえ、普通に英語ですから、ギリシャ語は試験科目にありません。
あ、でもギリシャ語は無いですがフランス語は、
試験科目にあったと思いますけど……」
在学中の生徒は、学校から一括申込みするという、
手続的なことを知らなかったこともそうだが、
センター試験の内容すら知らない環の様子に、
「環先輩……本当に何も、知らないんですね」
あれほど、試験の応援のためにとか言って、
鏡夜の家に毎日のように行っていたくせに、
なんで何も知らないのかと、ハルヒが呆れ顔で呟いたら、
「そりゃあ、自分がそのセンター試験を、受けるとは思ってなかったしなあ」
環は不満げにぶすっと口を引き結ぶ。
「えっと、一応、自分が知ってる範囲でよければ、説明しますけど……」
試験の日程が二日間であるとか、試験科目とか、時間とか、
あまりに環が無知だったので、
ハルヒは分かる範囲で、環に試験の概要を説明してやった。
自分が受けるつもりが無かったから知らなかった。
確かに説明の筋が通っていないわけじゃないけれど、
でも、いつもの環先輩なら、自分に関係ないことだって、
なんでも興味を持って調べたりするはずなのに。
ここ一ヶ月くらい、環は『鏡夜の受験を応援する!』と、
ものすごく気合を入れていたように見えた。
なのに、こんなにも試験のことを知らないというのは、
敢えて、そこには触れたくなかったとしか思えない。
環先輩、もしかすると、
鏡夜先輩が別の大学への進学を希望していることを、
本当はずっと気にしてたのかなあ……?
「なんだか自分、変なこと言ったみたいで、すみません。
今からでも受験できるっていっても、
鏡夜先輩が狙っている大学は国立でも一番難易度の高い大学ですし、
出願するにはそれなりに点数がとれないと……」
「そうだよ! ハルヒ」
「『そうだよ』って?」
ティータイムの始めこそ、迷子の子犬のような、
しゅんと寂しそうな顔をしていた環も、
段々と、何時ものポジティヴな調子が戻ってきたようだ。
「受験できるなら、試験で良い点数を取れば、
今からでも鏡夜と同じ大学に行ける可能性があるってことだよな?」
目の前に放置されていた苺のタルトも、
ハルヒの説明を受けている間にすっかり平らげてしまっている。
「まあ、論理的には……間違ってはいませんね」
「よし! ええと、ハルヒの説明によると、
とりあえず高校三年間で学んだことが出るということだから、
まずは三年間分の教科書を、この一週間で片っ端から読み直して……」
そんなことを呟きながら、環は椅子から立ち上がり、
教科書を置いてある棚のほうへ向かおうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください。さすがに環先輩でも、
あと一週間で闇雲に勉強しても効率悪いですよ?」
「むう、それはそうかもしれないが、なら、どうしたら良いのだ?
俺はあんまり家で勉強したことないからわからなくて……」
学校の授業だけで、学年次席をキープできるなんて、
本当に環は天才肌なんだなと思う。
環と同じクラスで、学年三位の城之内女史が苛立つ理由も分かる気がする。
ハルヒは割りと、こまめに予習復習をして、
学年主席をキープしてきたほうだから、
勉強に使う分の時間を、勉強以外の色んな経験に回せるということは、
ポジティヴさや素直さと共に、環について羨ましく思う点の一つだ。
「勉強方法ですか? そうですね……、
あ、じゃあ、これから一緒に本屋にいきませんか?
センター試験は過去問題集とか売ってるはずなので、
それで傾向を掴んだら良いんじゃないでしょうか」
過去問集を解く、なんて、
勉強方法の中では一番オーソドックスな方法だと思うのに、
環はハルヒの提案に、いたく感動したようだ。
「おお、そんな便利なものがあるのか。
それはいい事を聞いたぞ。では、早速出かけ……、
あ、でも、ハルヒのテスト勉強の邪魔にならないか?」
「自分なら大丈夫ですよ。それに……」
この一週間で間違った方向に勉強されて、
それで試験の結果が悪くて落ち込まれても、それはそれで大変だし。
何時までも愚痴をこぼしているような、
そんな環先輩を見ているのは、こちらも辛いし。
それに……。
「ん、ハルヒ今、何か言いかけなかったか?」
「いえ、別に」
そもそも……そんなの、環先輩じゃないし。
「は、ハルヒ……その、ちょっと思ったのだが……」
「なんですか?」
早速、車に乗り込んで、最寄の書店に向かう途中、
環がハルヒの耳元に顔を近づけて、こそっと囁いた。
「これはもしかすると、恋人同士が一緒に出かける……、
その……『デート』……というものではない……か?」
「デ……い、今は、ほ、本屋に、
問題集を買いにいくだけじゃないですかっ!」
昨日の鏡夜の電話にしても、今の環にしても、
デートなんて恥ずかしい言葉を、
ぽんぽんと安易に使いすぎのような気がする。
あまりに恥ずかしいので、ハルヒは俯いてしまった。
「そ、そ、そうか、あはは、そうだよな~。
でもな! 俺は楽しいぞ? ハルヒが一緒に買い物に行ってくれて」
赤面したまま、ハルヒが横目でちらちらと環を見たら、
環はとても元気に目を輝かせている。
「……やっと、環先輩らしくなりましたね」
「ん?」
「だって、やっぱ落ち込んだり愚痴を言ったりしてるよりは、
何事も諦めずに前に進んでる方が、
環先輩って感じがしますし、そういうところが、やっぱ環先輩らしくて……」
そんなあなたが、私は好きなんです。
「そういう環先輩のこと、自分は……すごく尊敬してますよ?」
なんだか照れくさくて、つい本当のことをいえなかったけれど、
こうして一緒にいることで、この人の素直な部分を自分に吸収できたら、
その時にはもう少ししっかりと、自分の気持ちを表現できるかもしれない。
そんなことを考えつつも、
今はそれを飲み込んでしまった。環の優しさに甘える形で。
そんな柔らかく優しく、ちょっぴり甘酸っぱい時間は、
暫くの間、このままの形でゆっくり流れていく。
いずれこの時の流れが、鋏で断ち切られるその日まで。
* * *
続