『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -41- (環&ハルヒ&鏡夜)
人が、自分本位の感情を出すことは、得てして他人を傷つけることがある。
両親の許されざる関係が、環の心に、そんな「絶対の法則」を刻みこんでいて……。
* * *
ハルヒ。君は、皆に愛されているよね。
蘭花さんはハルヒのことをすごく大事にしているし、
ホスト部の連中だって、皆、ハルヒのことが大好きだ。
君はとても純粋で、感じたことを包み隠さず率直に言ってくれる。
そういう屈託のない態度に、俺達は一緒にいて救われるんだ。
「自分本位な感情が、他の人にとって、笑顔の無い、
冷たい世界を作り出すことがあるってことを、
俺は……自分でも気付かないうちに、
心のどこかに『絶対の法則』みたいに、刷り込んでいたんじゃないかと思うんだ」
だから。
ハルヒが、俺だけじゃない、
皆にとって、とても大切な存在なんだと理解した瞬間に、
俺の意識は閉じてしまった。
そこから、俺の無自覚な勘違いは始まったんだ。
「俺が今までずっと、ハルヒの父親なんて言ってたのは、
もしも、ハルヒのことを皆よりも一歩進んで、
俺にとって特別な人だと考えてしまったら……、
もしも、俺が……皆のためじゃなく、
ただ、自分自身の気持ちを満足させるために、
ハルヒとのことを考え始めてしまったら、
ハルヒを大好きな人達、皆を悲しませるんじゃないかって。
多分無意識に俺はずっとそういう風に思ってて、
考えることから逃げていたんだと思う」
目を逸らして「逃げる」というマイナスの感情は、
「憎しみ」と並んで、環自身が、もっとも毛嫌いする感情の一つだ。
けれど、自分を無意識に恋愛事から回避させていた負の感情は、
あまりにも自然に自分の人格の中に溶け込んでいたから、
自分が、こういう意識を持っているんだと自覚するまで、
随分と沢山の人に迷惑をかけたように思う。
「今日の午後、色んなことがあってね、
色んな人に言葉をもらって、それでやっと、そのことに気付いてさ、
俺は本当に自分が情けなくなった。
俺が、自分のために、どんな行動を取ったとしても、
その結果を受け入れてくれる強さが皆にあるって、
心から信じていれば、こんなことにならなかったはずなんだ」
本当ならもっと前に、気付くべきだったのに。
そのヒントは沢山散らばっていたはずなのに。
いくらでもチャンスはあったはずなのに。
……本当に、俺は間抜けだったよな。
「……」
先ほどまで何度か口を挟んできたハルヒも、
もう、今は、唇をぴたりと合わせたまま、
その綺麗な目で静かにこちらを見つめている。
答えはもうとっくに出ているから、
あとはそれを恐れずに伝えるだけ。
自分がハルヒにこの想いを伝えることで、
周りにいる人に悲しい想いをさせると同時に、
もしかすると、ハルヒ自身を困らせてしまうかもしれないという、
漠然とした恐怖も無いわけじゃない。
でも、黙って目を背けて逃げ続けたとしても、
それが自分自身も、周りの人も傷つけて、結局何も解決しないんだったら。
「ハルヒ。俺は……ようやく分かったんだ。
父親代わりとかじゃなくて、娘とかじゃなくて、
一人の男として、ハルヒのことを大切にしたいんだって、
一人の女の子として、ハルヒのことを守っていきたいって……、
随分時間はかかったけど、今日、やっと分かったんだ」
皆の心の強さを信じて、一歩でも先に進むほうがいい。
「だから、ハルヒ……これからは」
驚いて目を丸くしているハルヒに向かって、
環は恭しく頭を下げた。
「ただの『須王環』として、ハルヒの傍に居させてくれないか?」
彼女にそう告白をして、翌日。
「鏡夜。人の話をちゃんと聞け! 俺はお前に言っておきいことがあるんだ」
鏡夜の家に押し掛けて、部屋を訪れて、
メインフロアーのテーブルを挟んで向かい側に立って、
環が鏡夜を見下ろすと、雑誌を読んでいた鏡夜は、ようやく顔を上げてくれた。
「言っておきたいこと?」
疎ましいものを見るような目で、鏡夜は自分を見つめている。
その重い空気に負けまいと、
環は前屈みになって、テーブルの上に勢い良く手を付いた。
「俺は昨日……ハルヒの家に行ってきた」
環が余りに力強く手を付いたために、
その弾みで、テーブルの上に乗っていたティーカップが、
かちゃかちゃと耳障りな音を立てた。
「……ほう? ハルヒの家に、お前がねえ」
鏡夜は呼んでいた雑誌を膝の上でぱたりと閉じると、上目遣いで環を見る。
「で、一体、何をしに行ったんだ?」
鏡夜は、感情の動きが見えない、能面のようなj顔で、
こちらの目の奥をじいっと覗き込んでいる。
「昨日……俺は……」
環は机の上についた指先にぐいっと力を込めると、
鏡夜に向かって大声で宣言した。
「ハルヒに告白したぞ!!」
何を反論されても、全て跳ね返して見せると、
思い切り気合を入れて環はそう言ったのだが、
「へえ? 告白ねえ……」
昨日、激しくバトルを繰り広げたばかりだったから、、
どんな反応されるかと、身構えていた環にとっては、
拍子抜けするほど静かな反応で、鏡夜は呟いた。
「それで? 一体、『何を』告白に行ったんだ?」
「な、何を……って、決まってるだろう!
俺は、ハルヒに、父親代わりとか娘とかじゃなくて、
一人の男として、ハルヒのことを守りたいって、
傍にいさせてくれって、俺はそう告白したんだ!」
大袈裟に身振りを加えながら話す環とは対照的に、
鏡夜は無感動な様子で、はあ、と大きな溜息をつくと、
目の前に置いたティーカップに手を伸ばして紅茶を啜った。
「ハルヒのことをどう思っているかと、
昨日、俺が聞いたときには、
ろくな返事もできなかったくせに、随分な急な心変わりだな」
「それはっ………、俺が自分の本当の気持ちに気付くのが遅かったのは、
確かに馬鹿で間抜けだった……それは認める」
「ふうん?」
環がトーンダウンして、すんなり頷いたのが意外だったのだろうか、
カップを置いた鏡夜は、少し眉をひそめた。
「けど……、気付くのが遅くなったからって、
それでお前に負けることにはなるとは俺は思わない!」
鏡夜の口調は、予想外に穏やかではあったが、
環を見つめる、その視線は優しいものではない。
厳しくこちらを突き刺してくる。
でも、目を逸らさない。逸らしたら負けだ。
俺は……確かに間違っていた。
それはとても間抜けな勘違いだった。
だから、これ以上、醜態を曝して、誤魔化したりなんてしない。
俺は自分の過ちを全て認める。認めた上で……。
鏡夜がハルヒを想う気持ちに勝ってみせる!
「俺は……ハルヒのことが好きだ。ハルヒは俺にとって大事な人だ。
昨日、これから俺が傍にいてもいいかって聞いたら、
ハルヒは俺と一緒にいてもいいって言ってくれた。
だからもう、お前に勝手な手出しはさせない。俺は堂堂とハルヒを護る!」
「……」
一気に言葉を叩きつけると、
環は大きく胸を上下させ、ぜいぜいと息をついた。
余りの剣幕に、鏡夜は気圧されてしまったのだろうか、
どこかぼんやりと環を見ながら、言葉を発しない。
「今日、俺は、これを言いたくてここに来たんだ。
だから、もしお前がまだ、ハルヒにひどいことをしようと考えているなら……」
「…………く、くくっ」
いくらでも俺が相手になる! と、
格好良く決めようとしていた環の言葉を遮ったのは、
鏡夜のくぐもった笑い声だった。
「くく、くくくっ……あはははは」
環が部屋に入ってから、ずっと無表情だったというのに、
何の前触れもなく、突然、鏡夜が笑い出して、
最初は、左手で前髪を掻きあげて、その手の平で顔を覆っていたが、
その笑い声は治まるどころかどんどん酷くなって、
ついには弾けるような大声で笑い出した。
「な、何がおかし……」
「おい、お前達、ちゃんと聞こえたか? 『告白した』そうだ」
鏡夜の不可解な態度に気色ばんだ環を余所に、
鏡夜はにやにやと笑いながら、顔をくいっと後ろに向けた。
「もう、降りてきていいぞ?」
「え?」
鏡夜の視線は、鏡夜の背後にある、
ベッドルームへと続く階段のほうに向いている。
環がゆっくりとその階段の上のほうへ視線を動かすと、
そこから降りてくる二つの人影が視界に入った。
「あーあ。鏡夜先輩が言ってた通りになっちゃった。
流石だなあ。ねえ、光?」
「ホントホント。殿にここまで言わせるなんて、
一体どんな手、使ったのさ? 鏡夜先輩」
降りてきたのは光と馨だった。
ぶつぶつぼやきながら、二人仲良く階段を降りてくる。
どうやら、鏡夜が寝室として使用している二階部分に隠れて、
今までずっと自分達の話を聞いていたようだ。
「…………へ?」
キラキラと目を輝かせて楽しそうな双子達の顔と、
ソファーに座って足を組んで、薄笑いを浮かべている鏡夜の顔を、
交互に確認しながら、環は放心状態で問いかけた。
「なんで……光と……馨が……ここにいるのだ?」
* * *
続