『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -42- (環&鏡夜)
昨日ハルヒに告白したことを、環が鏡夜に堂々と宣言すると、鏡夜は何故か突然大声で笑い出した。
一体何事かと、彼の態度に憮然とする環の前に、なんと光と馨までもが現れて……。
* * *
「なんで……光と……馨が……ここにいるのだ?」
大笑いしながら、テーブルの向こう側に座っている鏡夜。
突然二階から現れ、階段を降りてくる光と馨。
一体、何がどうなっているのかと、
環は茫然と、三人の顔の上にゆっくりと視線を滑らせた。
すると、ようやく笑い声を押さえ込んだ鏡夜は、
腕組みをして、にやりと意地悪く唇の端を上げた。
「実は、光と馨とちょっとした『賭け』をしていてね」
「……賭け?」
「そそ。殿と鏡夜先輩が卒業するまでって期限付きでさ」
答えながら、環の右側に立った馨は、
鏡夜と同じように、環の顔をにやにやと見つめている。
「殿が高校を卒業するまでに、ハルヒにはっきり告白するかどうかで、
僕らと鏡夜先輩とで賭けてたんだよね。
……で、昨日、鏡夜先輩から電話もらって、
『結果が出るから土曜日に家に来い』って言われてさ」
「まあ、俺も馨も、殿は告白しないだろうって予想してたんだけどね」
光は、馨の言葉に更に訳の分からない事を付け足しながら、
環の左サイド、馨とちょうど環を間に挟む位置に立って、がくりと肩を落とした。
「あーあ。俺、結構、自信あったんだけど……鏡夜先輩の勝ちかあ」
賭け?
予想?
鏡夜の勝ち?
「……一体、お前ら……何言って……?」
先ほどから何を三人が喋っているのか、
全然理解が追いつかない環は、パチパチと忙しなく瞬きを繰り返す。
そんな環を、鏡夜は目を細めて得意げに見つめた。
「俺は卒業までにお前がハルヒに告白するほうに賭けてたからな。
昨日は、相変わらず父親だの娘だの言ってたから、
どうなることかと思ったが、終わってみれば、俺の一人勝ち、だったな?」
得意げに笑う鏡夜の様子を、まだ、意味が把握できなくて、
ぽかんと見ていた環の肩に、両側からずしっと重みが圧し掛かってくる。
「もう! 殿の所為で俺ら負けちゃったじゃん!
おかげで俺らが罰ゲームだよ?」
「そうだよ。僕らが勝ったら、1年間、鳳リゾートが、
無料で利用し放題だったのに。どうしてくれるの?」
左右から同時に光と馨が環に突進してくると、
環の肩に手を回して、一気に体重をかけてきたのだ。
「ど、どうしてくれる、と言われてもだな……」
……ていうか、ちょっと待て。これは、整理が必要だ。
こいつらは、今、なんて言ってたのだ?
鏡夜と光と馨が賭けをしてて、
賭けの内容は俺とハルヒのことで、
期限は卒業までってことで。
今までの話をまとめるなら、
俺と鏡夜が卒業するまでに、
『ハルヒに俺が告白しない』って方に賭けてたのが双子達で、
『告白する』って思ってたのが、鏡夜ってことで、
俺が告白したことで、鏡夜が賭けに勝った……ということか?
ほんの数分前までは、無表情を貫いていた鏡夜と相対して、
冷たい空気の中で、環の心はこれ以上ないほど張り詰めていた。
しかし、鏡夜が突然笑い出して、その無表情が崩れた後、
加えて光と馨が登場したことで、
部屋の中の空気が一変して温かいものになって、
緊張の糸が急速に緩んでいくとともに、
自分が今、置かれている状況がどういうものなのか、
ようやく、環の頭にも入ってきつつあった。
……ええと、つまり、こういうことか?
鳳リゾートを一年間無料利用、云々を、
鏡夜と双子達の間で賭けてたってことは、
つまり、鏡夜がその賭けとやらに勝つためには、
俺に……ハルヒに告白させたかったって……ことになる。
だと、すると、まさか……?
三人の話の意味を、ようやく飲み込んだ環は、
くらくらと目眩を覚え、その場に倒れそうになる。
「きょ、鏡夜……お、お前……じゃ、じゃあ……、
昨日の……喧嘩も……お前の……言ったことも、音楽室での……ことも、
もしかして……全部……」
なんとか足を踏ん張ると、
環はぶるぶると震える指を、鏡夜に向かって突き出した。
「全部……俺にハルヒに告白させるための……お前の作戦、で……?」
環の頭の中はぐらぐらと、
まるで激しく揺れる船の中にいるような状況に置かれていたのだが、
「ああ、昨日のあれか」
そんなこちらの様子を分かっているのかいないのか、
鏡夜はただ楽しそうに含み笑いをしているだけだ。
「お前が何時まで待ってもハルヒへの気持ちに気付かないから、
色々とお前を追い込もうかと思ってね。
俺の進路を直前まで伝えなかったのも、そのための布石だったんだよ」
あれほど大喧嘩になったというのに、
ひどくあっさりした調子で鏡夜は話し始めた。
「お前を怒らせるまでは計画どおりだったんだが、
まさか、本気で殴ってくるとは思わなかったぞ?
おかげで、顔は腫れるわ、眼鏡は壊されるわ……あとは何かあったか、
そうそう、俺を見損なった、とかだったか?
こっちの気も知らないで、散々な言われ方をしたような気がするが……、
ま、お前がやっとハルヒに告白してくれたおかげで、
光と馨が、今度、オーダーメイドで俺に礼服一式作ってくれるそうだし、
それなりにメリットはあったから良しとするさ」
「そ、そんな。それじゃあ、俺は……」
「鏡夜先輩の顔、すごく痛そうだよねえ。いきなり殴られたの?」
「殿をそこまで本気にさせるなんて、鏡夜先輩、一体、何をしたわけ? 教えてよ」
環の肩にがっちり腕を回したまま、
馨と光は次々と鏡夜に質問を浴びせる。
「さて。俺は何をしたんだっけな、環?」
答えにくい質問を綺麗に受け流して環に振ってくる辺りは、
自分が知っている、いつも通りの鏡夜に見えた。
昨日、本気で怒鳴りあった姿が、まるで夢であったかのように。
「鏡夜、本当、なのか?」
「ん?」
「本当に……昨日のはお前の作戦で……、
ただの演技だったのか? 最初から……全部?」
「……」
鏡夜はすぐに返事せずに、環から一瞬視線を逸らし、
膝の上に置いていた雑誌を、テーブルの上に置くと、
左手を、眼鏡の位置を直すように鼻の上に持ち上げた。
「……ふっ」
指が肌に直接触れて、
眼鏡を掛けて無いということを思い出したのだろう、
鏡夜は笑い声なのか溜息なのか分からない、
小さな小さな吐息を漏らすと、すっと目を閉じた。
「中等部のときに出会って以来、俺はいつも、
お前の無茶な言動に振り回されっぱなし……だったよな?」
鼻先をそっと指で擦った鏡夜は、
その手を降ろすと、目を開けて環の顔を再び見て、にこりと微笑んだ。
「だから……高校生活の最後くらい、俺がお前を振り回しても構わないだろう?」
* * *
続