『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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目の前のハルヒと鏡夜の態度に、徐々に腹が立ってきた光は、
不用意に、鏡夜に目の状態のことを尋ねてしまう……。
* * *
「ちょ、ちょっと。光? 今、そういう話は止めてよ」
僕の無神経な言葉にハルヒは怒ったけど、
当の鏡夜先輩は何故か微かに笑っている。
「ハルヒ」
宥めるようにハルヒの名前を呼ぶと、
鏡夜先輩は指先で小さくハルヒの手の甲を叩いた。
「今はほとんど何も見えないが……、
医者の話だと、手術で視力が回復する可能性もあるらしい」
慌てず落ち着いている鏡夜先輩の声を聞いて、
ハルヒは、ほっとした顔で鏡夜先輩の手を握り返す。
そんな二人の小さな仕草の応酬が、僕の心をざわつかせる。
「そう……なんだ」
何がなんだか理解できない。
鏡夜先輩がハルヒのことを好きなのは分かる。
こんな状態でも笑っていられるのは、
ハルヒが傍にいてくれるからだとも思う。
でもなんで、ハルヒは鏡夜先輩の傍に、
何も違和感なく自然と付き添っているんだろう?
かつて、よく見かけた、
明るい笑顔を浮かべながら。
そして、時折、今まで見たこともないような、
大人びた表情を時折覗かせて。
ハルヒは殿を選んだんじゃなかったの?
僕の苛々とした気持ちが部屋の中の雰囲気を、
ピリピリさせていたのかもしれない。
「あー、そ、そういえばハルヒ、なにか花瓶みたいなのある?」
気を使って話題を変えようとしたのか、
馨が手に持っていた花束を持ち上げてハルヒに聞いてきた。
「あ、そっか、お花持ってきてくれたんだよね。
じゃあ看護師さんに何か借りてこようかな」
そして、やっと……。
やっと、ハルヒの指先が鏡夜先輩の手から離れた。
「……」
僕の視線がずっと何を追っていたのか。
僕の心がずっと何を思っていたのか。
多分、馨には分かっていたんだと思う。
「あ、ハルヒ。僕も行くよ、花を活けるなら僕のほうがプロだしね?」
病室から出て行くとき、馨は一瞬振り返って僕の目を見たけど、
何も言わずにハルヒと一緒に病室の外に出て行ってしまったので、
病室内には、鏡夜先輩と僕だけが残された。
「あ、えっと……」
馨とハルヒが出て行ってから、
辺りは急に静かになってしまって、なんだか場の空気が重たい。
もちろん、こんな沈んだ雰囲気にしたのは、
僕の言葉や、僕のささくれた気分の所為なのは分かっていたから、
張り詰めた空気の中で、僕は必死で言葉をひねり出していた。
「鏡夜先輩……じゃあ、まだ傷の状態とか結果は出てないんだ」
「後日、改めて詳しい検査をすることになっている」
「そっか……でも、鏡夜先輩んちの医者なら腕も一流だし、大丈夫だよね」
「それは俺にはなんともいえないが」
僕が会話のトスを上げ続けても、
鏡夜先輩からのリターンは、あっさりと短いものだったから、
段々、会話をしているのが苦しくなってきた。
それに、思い返してみると、
僕が鏡夜先輩と一対一で話す機会なんて、
ホスト部のときでも、ほとんど無かったように思う。
「そ、それにしても本当に驚いたよ。
鏡夜先輩の事故のことを聞いて、昨日は馨とすごく心配してて……」
「光」
静寂が怖くて、同じような話題で場を繋ごうとすると、
鏡夜先輩が僕の名前を呼んで、僕の言葉を断ち切った。
「光……もう、いいだろう?」
「え?」
鏡夜先輩はいつでも他人の行動を先読みするような人で、
人のことは何でも分析してデータとして握っているくせに、
自分の弱みは全く見せようとしないから、
嫌いということではないけれど、
僕は鏡夜先輩にちょっと近寄りがたい怖さを感じてもいた。
馨以外の人間に、心を読まれるのは今でも怖い。
まあ、馨は鏡夜先輩のことを、
素直になれないキャラでそこがカワイイ、とかなんとか言っていたけれど、
僕は多分、殿がいなかったら、
鏡夜先輩のようなタイプの人と話をすることは、
一生なかったんじゃないかと思っている。
「もういいって、な、何が?」
だから、続く鏡夜先輩の言葉で、僕の心は凍りついてしまった。
「光は俺に、何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
鏡夜先輩は……僕が苛立っている理由に気付いてる?
* * *
続