『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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春の光に風馨る -6- (馨&ハルヒ)
どんどん機嫌が悪くなる光をフォローするため、馨はお見舞いの花束のための花瓶を、
ナースステーションに借りに行くことを口実に、ハルヒを病室から連れ出した……。
* * *
昨日の夜の二回目の電話で橘さんから状況を聞いたところだと、
鏡夜先輩が交通事故にあったのは、
ハルヒのパパさんと会っていた直後ということだった。
橘さんも遠巻きに護衛をしていたから、
二人の話の内容までは詳しく分からないみたいだったけど、
見たところ、随分、深刻な様子だったという。
もしも、僕が気後れせずに鏡夜先輩にちゃんと電話のことを伝えていて、
事前にパパさんが来ることが分かってたら、
こんな事態にはなってなかったかもしれない。
光と一緒にお見舞いに来てみたものの、
僕はずっとこんなことを考えてしまっていて、
鏡夜先輩に後ろめたくて、先輩の前に居づらかったから、
病室の外に出れるきっかけを、心のどこかで探していた。
もっとも、ハルヒに声をかけた理由はそれだけじゃない。
病室に入って以来、目の前で握りしめ合う二人の指先を見つめて、
光の機嫌がどんどん悪くなっていくのが分かったから、
光の前でハルヒと鏡夜先輩が一緒にいる状況を、
なんとかしてやりたかった、という意味もあった。
どっちがメインの理由かは僕にもよく分からなかったけれど、
ともかく、僕はお見舞いの花束をダシにして、
ハルヒを病室から連れ出すことに成功した。
そりゃ、あんなにイライラしている光一人を残していくこともどうかと思ったけど、
僕の代わりに光を一緒に行かせて、
光とハルヒと二人っきりにするのもなんか怖かったし、
反対に僕一人が出て行って三人を残しても意味が無いから、
これが最善の方法だと思った。
まあ、冷静な鏡夜先輩のことだから、
光がどんなに機嫌が悪くなっていても、
変に口論になるようなことはないとは思ってるんだけど。
ナースステーションの看護師さんからガラスの花瓶を借りると、
僕とハルヒは連れ立って給湯スペースへと向かった。
「貸して、馨」
「あ、ごめん」
僕から花束を受け取ると、ハルヒは流し台の端にそれを置いて、
花瓶をステンレスのシンクの中に据えると蛇口を捻った。
「……」
手伝うなんて言いながら、結局僕は何をするでもなく、
ハルヒの後ろで壁に寄りかかりながら、
蛇口から流れ落ちる水を、そしてハルヒの背中を、ただただ、ぼおっと見つめていた。
「馨は、ずっと元気がないね、どうしたの?」
「え、ああ……」
ざあざあと落ちる水の音が五月蝿くて、やけに耳につく。
「光はなんだか急にあんな調子だし、
お見舞いにきてくれたのは嬉しいけど、なんか二人とも変だよ?」
シンクの中の花瓶に水が溢れて、
ハルヒの小さな手がその水の流れを止めた。
細かな水滴がぽつぽつと、花束を覆う透明なラップに飛んでいる。
僕はハルヒが環先輩を選んだときに、
いや、それよりもっと前、光がハルヒのことを好きだと気付いたときに、
ある程度、僕のハルヒへの想いは決着させたつもりだった。
だけど。
「変……だって?」
どっちが?
光よりは冷静にハルヒと会話ができると、
病室を出たときには思っていたんだけど、
ここにきて相変わらずのハルヒの無自覚な言葉を聞いて、
僕もかちんと頭にきてしまった。
「鏡夜先輩の様子に驚いたのは分からなくもないけど、
光も何も突然あんな風に言わなくたって」
「違うよ、ハルヒ」
あんなに酷い傷を負った鏡夜先輩に向かって、
光の遠慮のない言葉は、確かに僕もはっとしたけど、
僕に言わせればハルヒだって相当、無神経だ。
「光は鏡夜先輩のことにショックを受けて、あんなことを言ったわけじゃないよ」
「え?」
「ハルヒには分からないの?」
僕は背後からハルヒに近づくと、
花束のラッピングを解こうとしていたハルヒの手を握った。
「かお……」
「ハルヒがあんな姿を見せるから」
水に濡れたハルヒの手は、とても冷たい。
「ハルヒが僕らの前で、あんな風に鏡夜先輩の傍にいるから……、
だから、光はあんなことを言ったんだよ」
病室の中のハルヒは、鏡夜先輩の手をあんなに優しく握って離さなかったのに。
「ちょっと、馨、離してよ!」
ハルヒの手を握る僕の手は、全力で振り払おうとしてきて、
その反動で、ガラスの花瓶がごとりと重い音を立ててシンクの中で倒れてしまった。
「光だけじゃない。僕だって、つらいよ」
「馨?」
折角注いだ水は全て零れて流れ出してしまったけど、
それでも僕はハルヒの手を離さなかった。
僕でもなく、光でもない。
「ハルヒは、また……別の人を選ぶの?」
僕ら以外の人を、また、僕らの目の前で……。
* * *
続