『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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春の光に風馨る -2- (馨&光)
馨が仕事から帰ると、先に帰っていた光が血相を変えて二階から駆け降りてきた。
こんな光の様子を見るのは、一年と少し前の、あの悪夢のような春の日以来で……。
* * *
あの日、僕らが安心して嘘をつける人間が一人、
僕らの前から姿を消した。
僕らの嘘を、ただ見抜くだけじゃなくて、
それを全て受け入れてくれた、
とても大切な人間が、この世界からいなくなってしまった。
だから……僕らはその日から、嘘を吐くことを止めたんだ。
「馨! 大変だよ!」
「どうしたの? 光」
「八時くらいに、橘さんからうちに連絡があって……」
「橘さんって、鏡夜先輩んちの?」
光は僕の両肩に手を置いた。
「鏡夜先輩が、今日の夕方に交通事故にあって病院に運ばれたって!」
「……え?」
僕らは今まで、沢山の嘘を吐いた。
冗談を本気に見せかけて、何度も何度も周囲を戸惑わせた。
でも、小さい頃から僕ら二人の間だけでは、
お互いの言葉や態度が、嘘なのか本気なのか、ちゃんと理解し合っていた。
「まさか……そんなの、嘘でしょ、光?」
でも、この時ばかりは、僕は光の言葉を嘘にしたかった。
環先輩に続いて鏡夜先輩まで何かあったなんて、とても信じたくなかったからだ。
だから、ちょっと楽観的な……、
僕が、蘭花さんに鏡夜先輩のオフィス場所を伝えたことを、
それを内緒にしていたこと知った鏡夜先輩が、
いつもの不敵な笑みの大魔王の策略で、
僕らを嵌めようとしているんじゃないかとか、そんなことも考えたりしてしまった。
「俺もさっき帰ってきたところで、
橘さんから直接話を聞いたわけじゃないから、
鏡夜先輩んちの病院に電話入れて確認したんだよ。
そしたら、今、手術中だって」
でも、本当は分かっていた、光の言葉に嘘が無いことくらい。
「じゃあ……本当なんだ?」
「うん」
それから、とりあえず鳳総合病院に向かおうとした矢先、
橘さんから再び連絡があって、その話によると、
鏡夜先輩の手術は無事成功したけれども、
手術直後に面会は出来ないということだったから、
僕らは翌日、様子を見に行くことに決めた。
午前中にいろいろ仕事をやりくりして、
鳳総合病院についたのは午後一時過ぎ。
そして、今、外科病棟、特別個室へ続く廊下を、
光と一緒に歩いている。
「鏡夜先輩、面会謝絶だったりするのかな?」
僕は内心怖かった、鏡夜先輩に会うのが。
どんな酷い怪我をしてるんだろうか、とか。
蘭花さんとの電話を怒っているんだろうか、とか。
なんで先輩に教えなかったのか追求されはしないだろうか、とか。
ネガティブなことばかり考えてしまっていた。
だから、面会謝絶だったら、
堂堂と……という言い方は変かもしれないけれど、
ともかく真っ当な理由で会わずに済む。
「でも、看護師さんには特に止められなかったし」
躊躇う僕の前で、光はなんの気負いもなく扉をノックしてしまった。
『はい?』
中から聞こえてきたのは、女の子の声で……。
「え……」
そう、とても良く聞き慣れた女の子の声が聞こえてきたから、
僕と光は声を合わせて驚いてしまった。
「ハルヒ?」
* * *
続