『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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春の光に風馨る -3- (馨&光)
鏡夜の事故の連絡を受けた翌日、見舞いに訪れた馨と光が、
病室の扉をノックすると、中から聞こえてきたのは、とても良く聞き慣れた女の子の声で……。
* * *
事情はよくわからなかったけれど、
病室の扉を開けると、広い個室の中、
鏡夜先輩のベッドの横には、スーツ姿のハルヒが座っていた。
「鏡夜先輩、大丈夫なの!?」
病室の中に入るなり、僕と光は同時に同じ言葉を叫んでいた。
僕らの目の前でベッドに横たわっている鏡夜先輩の姿は、
頭や、目の上や、首筋や、腕に、包帯がぐるりと巻かれいて、
かなり痛々しい様子だったから、思わず大声を出してしまったんだ。
「しー、二人とも静かに! 今、鏡夜先輩寝てるんだから」
慌ててハルヒが右手の人差し指を口の前に立てる。
「あー悪い、ごめん」
後頭部を手で掻きながら、光がハルヒの傍に歩いていく。
その背中を僕は目だけで追っていた。足が、動かなくて。
なんでこんなことが起きてしまったんだろう。
「馨も、座ったら?」
ハルヒの声に促されて、ぼんやりとしていた僕は、
慌てて後ろ手で、病室の扉を閉めた。
「あ……うん」
僕がベッドの傍に寄っていくと、
ハルヒの横に座った光は、
なんだかとても辛そうな表情で、視線を落としていた。
何故だろう? と思って、その視線の先を追うと……。
ハルヒの手が、眠る鏡夜先輩の手をしっかりと握っていた。
「……」
僕が黙ったまま、ベッドを挟んで二人とは向かい側の椅子に腰掛けると、
光は僕の視線に気付いて、恥ずかしそうに目を逸らしながらハルヒに言った。
「鏡夜先輩の怪我、酷そうだね」
「うん……でも、さっき先生が診察に来たときは、
術後の経過は良いって。
昨日は手術が終わるまで三時間くらいかかったし、心配してたんだけど……」
僕の頭上にぶら下がる点滴のパックからは、
透明な液体がぽたぽたと管を伝って落ち続けている。
「ハルヒ、お前さ……まさか、昨日の夜からここにいるわけ?」
なかなか話す言葉が出てこない僕に代わって、光がそう指摘する。
「うん。そうだよ。さっき一回、診察のときに席を外したけど」
「仕事はどうしたのさ?」
「……今日は休んだよ」
僕らはこの時、何も知らなかった。
ハルヒと鏡夜先輩が三ヶ月前から付き合っていたこと、とか。
三日前の金曜に別れたこと、とか。
手術の後に二人がどんな会話をしたのか、とか。
この三ヶ月間、二人の間に起きていたことを、何一つ知らないままだった。
「ふうん……そうなんだ」
だから、明らかに距離感の変わった二人の様子に、
光がちょっと不機嫌そうな声になったのも、
この時の状況からすれば仕方なかっただろう。
「あ、そうだ、お見舞いに、これ持ってきたんだけど……、
とりあえずここ、置いとくから」
ぶっきらぼうな口調は、拗ねてるときの光の癖だ。
光は立ち上がると、ハルヒの背後を通り過ぎ、
ベッドサイドの棚に果物のカゴを放り投げるように置いた。
その拍子に、がたんと、大きな音が響く。
「……ん……?」
その音が鏡夜先輩を起こしてしまったらしい。
「……誰か……来たのか? ハルヒ」
「すみません、鏡夜先輩。起こしちゃいましたね」
鏡夜先輩の手を握ったまま離さないハルヒの横で、
光が今にも泣き出しそうに眉を寄せている。
「光と馨がお見舞いに来てくれたんですよ」
この時、僕は悲しそうな目をした光を見て、
鏡夜先輩に対するハルヒの態度に、
光が、少なからずショックを受けているんだろうと思っていた。
たった一人の特別な女の子として、ハルヒのことを好きだった光だから。
もっとも後になって、この時の僕の感想は、
間違いだったことに気づかされるんだけど。
ともかく、僕らの前で鏡夜先輩に話しかけるハルヒは、
すごく優しい表情をしていた。
居なくなってしまった「誰か」と、かつて一緒にいた時のように。
* * *
続