オルタナ国王から(大変快く)長期休暇をもらったシャロンは、
姫(アスパシア)と共に、シャロンの両親が住む隣国ヴェルサーチェスへ向かっていた。
その、道中のオアシスにて。
シャロン
「姫。次のオアシスまでは若干距離がある。
今日はこのオアシスで休もう。奥のテントを借り受けてきた」
ラクダから降ろした荷物の番をしていたアスパシアのもとに、
ラクダを預け、テントを借りるためにその場を離れていたシャロンが戻ってくる。
姫
「キングダムを出てから結構経つね。セラが過労死してなきゃいいけど。
ヴェルサーチェスまでは、まだ結構あるの?」
シャロン
「そうだな。あと三日、といったところか。長旅で疲れてはないか?」
姫
「全然疲れてないよ? だって、私、キングダムに最初に来たときは、
砂漠の真ん中からずっと歩いてきたし。
それに比べたらラクダに乗ってる分、全然、平気だよ」
シャロン
「砂漠の真ん中から……『歩いて』!?」
姫
「そうそう。『おらー、とっとと人間界に行ってこーい』って、
父様にいきなり砂漠のど真ん中に突き落とされちゃってさー。
そこからキングダムまで延々と歩いてきたの。
確か二ヶ月くらい歩きっぱなしだったかな」
シャロン
「……『二ヶ月』!?」
姫
「うん、それくらいかかったと思う。ホント、大変だったんだよ?
砂漠って昼間は半端なく暑いし、夜はありえないくらい寒いし。
途中でオアシスを発見して休憩してたら竜巻に巻き込まれるし。
食いだめはしてきたから、水も食べ物もなくてもまあ平気だったんだけど……、
って、あれ? シャロン変な顔してる。もしかして、信じてない?」
シャロン
「……いや、すまない。君が嘘を言ってないのは分かっているが、
たとえ真実だとしても、信じがたいことというのはあるものでね」
姫
「人類の感覚からすれば、そりゃそーよね。
魔神の私でさえ、『これ絶対無理、もう死ぬかも!』って何度も思ったもん」
シャロン
「信じがたい話ではあるが……しかし、それで納得したよ。
だから君は、スークで野宿をしても平気だったというわけだ」
姫
「そうよ。砂漠に比べたら、キングダムの中は、
昼と夜で、気温も砂漠みたいに激しく変わらないから、天国みたいなもんだし。
キングダムの中だったら、別に屋根なんかなくたっていくらでも寝れちゃうな~」
シャロン
「……物理的に出来る出来ないの問題じゃない。
あんなところに女性が一人で眠っていたら危険だろう。
君は本当に、どこまで考えなしなんだ?」
姫
「でも、キングダムの治安はシャロンのおかげですごくいいじゃん?
野宿の間でも、お水くれたり、毛布貸してくれたり、
助けてくれる人、いっぱいいたよ?」
シャロン
「国内の治安維持には力を注いできているから、それは当然だろうが、
……しかし、いくら治安が良いといっても、
目の行きとどかないところは、どうしても出てくる。
とにかく、ああいうところで一人で寝るのは、二度と止めてくれ」
姫
「えー。お金かからないからいいのに」
シャロン
「そういう問題じゃないと言っているだろう?
……大体、もう私の屋敷に住んでいるのだから、
これからは野宿をする必要なんてないだろう」
姫
「まあ、それはそうだけどさー。
ほら、いつも温厚で優しい私だって、たまには
シャロンと喧嘩するときもあるかもしれないじゃん?
路上で寝泊まりしちゃだめなら、セラのとこいくしかないけど、
シャロンはそれでもいいの?」
シャロン
「~~~~姫!!」
姫
「あはは。しないしない。そんなことしないって。
シャロンってホント、心配性だよね(私の発言の突っ込みどころスルーだしさ)」
シャロン
「………それにしても、いくらEVUUの姫とはいえ、
砂漠の道を一人でキングダムまで来るのは、さぞかし心細かったのではないか?」
姫
「ん~、肉体的にはきつかったけど、でも、あの時はウンバラが居てくれたから。
一人だったら確かに途中で挫折してたかもしんない」
シャロン
「……ああ、そうか。『ウンバラ殿』……か。
確か、君の従者と言っていたな。私は姿を見かけたことは一度もないが、
君の周りにずっといて、君を守っていたのだったな」
姫
「うーん、守られてたかどうかはよく分かんないなー。
なんか、いつもぎゃーぎゃーやかましく、私に絡んできてただけの精霊だし。
あ、そうだ。テントに荷物運ばないとね」
シャロン
「……ふ」
足元の荷物を抱え上げようとしていた姫に向かって、
シャロンがぼそりと呟いた。
シャロン
「それを……『守られている』……と言うのだよ、姫」
姫
「え? シャロン、今、何か言った?」
シャロン
「……いや、いい……さて、そっちの大きい荷物は私が持とう」
姫
「ありがと。あ、そうだ、シャロン。
砂漠で、身体がちょっと埃っぽくなっちゃったから、
そこの泉で落としてきてもいい?」
シャロン
「ん? それでも構わないが、ここには鉱泉も湧いている。
ちゃんと別に浴場が設けられているから、
身体の汚れを落とすなら、そちらを使うといい」
姫
「え!? あったかいお湯が出るの」
シャロン
「ああ。あそこに見える石造りの白い建物がそうだ。先に行ってくるといい。
私はテントに行って、荷物の整理をしているよ」
姫
「そう? ありがと! じゃあ、お先に!」
そう言って、ぱたぱたと、元気よく、
オアシスの公衆浴場の方へ走っていく、姫の後姿を見送りつつ、
シャロンは寂しそうに笑った。
シャロン
「そうだったな、姫。君の傍には、いつも誰かがいてくれたのだな。……私とは違って」
* * *
続
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