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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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切なき秘め事 -9 fin.-

ホワイトデー企画短編
切なき秘め事 -9 Fin- (鏡夜&ハルヒ)

高校の時、風邪で熱を出して倒れたハルヒを看病したのは環だった。
目を覚ましたハルヒは、環に、今まで自分にしてくれたことの感謝の気持ちを伝えて……。

* * *

ずっと……続いてくれていても良かったんだけどね。

当時、ハルヒのことをそれなりに意識していた鏡夜にとっては、
何かの拍子に環が突如創り上げた、
ホスト部家族設定の茶番劇に付き合い続けるのは、
それはそれで精神的な負担には違いなかったが、
その虚構の空間の居心地は、それほど悪くなかったから、
許される限り、この時間が続けばいいと思っていた。


薄紅色の紗幕で覆われた、誰一人、彼女の「特別」ではない世界。


それが鏡夜の本音。

けれど、時間は決して止まらない。戻ることもない。
どんなにこの場所に居続けることを願っても、
ただ無情に、一つの方向に、全ての者を巻き込んで強制的に流れていくだけ。

紗幕の表側。

強い光が当たっているうちは、
どんなに注意深く目を凝らしても、向こう側の真実は一切見えない。

けれど、光の方向が一転した今となっては、
中でうごめく真実の心の形は、黒々と浮き彫りになってしまうのだろう。

あの当時のハルヒは、環のことを妙に意識するあまり、
赤面したり挙動が不審になったり慌てたりしていたものの、
相変わらずの無自覚に守られて、
自分の心の変化に気付けていないようだった。

だが、ついにあの日、彼女の心を覆う幕は取り払われた。


「心配してくれて、ありがとうございました」


たとえ、熱に浮かされていたという、
通常ならぬ状況が後押ししたのだとしても、
ずっと意地を張って、人の手にすがれなかったハルヒが、
環に素直に礼を言ったということは……。

頑固な彼女の心がようやく、
環への想いを受け入れる準備を始めたということ。


今まで穏やかに続いてきた家族物語の「終わり」の「始まり」。


『……じゃあ、ほとんど全部聞いて………?』

風邪のせいで若干掠れたハルヒの声は、
なんだか泣いているようにさえ聞こえる。

「要するに、お前が俺に風邪をひいたことを隠していたのは、
 環の事を思い出すかもしれない自分を、
 俺に見せたくなかったから……ということか?」

あんなにもヒステリックに、必死に隠そうとしていたのだから、
ハルヒとしてはどうしても、鏡夜には知られたくなかった想いなのだろう。

『……すみません……やっぱり……自分が悪いんですよね。
 いくら前に……こういうふうに具合が悪い時に……、
 環先輩に看病されたことがあるからって……』

彼女が環への想いを自覚した、
そんな切ない現実を突き付けられたあの日のことは、
鏡夜でさえ、こんなにも鮮明に覚えているのだから、
あのことがきっかけで、
一つの無自覚な時期を終えたハルヒ当人にしてみれば、
なおさら忘れることはできない記憶だろう。

自分は、その後も何食わぬ顔で、二人の傍にいたけれど、
当時の自分の気持ちを今、思い返せば、
それなりに傷ついてはいたのだと思う。

もっとも。

彼女が環を選んだことが悲しかったのか。
彼女の自覚がきっかけで、
今までの楽しい時間が消え去っていくのが悲しかったのか。

それは、今でもよくわからないけれど。

「全く、お前は『馬鹿』というか『阿呆』というか、
 大体お前は、そんなことで、
 今更この俺が傷つくとでも思っていたのか?」

だが、どんなに切ない気持ちでも、それはあくまで「当時」のこと。

『だって……嫌じゃない……ですか? 
 少なくとも、自分だったら嫌ですし。
 鏡夜先輩が、隣で寝てるときに……、
 別の……人のことを口にしたりとかしたら……、
 そんなことを想像したら、すごく申し訳なくて……、
 前にも一度……ありましたし……』

ある意味では「幸せ」だった家族物語は終わり、
続く物語も無残に打ち砕かれて、
それでも自分とハルヒは、次の新たな物語に足を踏み入れている。

その物語の一番最初。

自分が彼女の心の扉を無理矢理こじ開けて、
中へと滑りこんだあの日に、
鏡夜の手を握りしめながらも、環の名前を呟いてしまったことを、
ハルヒはハルヒなりにずっと気にかけてくれていたらしい。

「まあ、確かに、お前が寝言で環の名前を呟いたら、
 多少妬くことくらいはあるかもしれないが……」

もしも、傍にいて、抱きしめて、お互いの熱を感じて、
それでも彼女の心が、今でも「全部」環のところにあるというのなら、
彼女が夢の中で、環に再会する度にそれを思い知らされて、
きっと、かつて彼女が環への気持ちを、
自覚してしまった時のような、切ない気分になるのかもしれない。

けれど。

かつて、彼女が環の事を愛していて、
現在もそれが続いているのは紛れもない真実でも。

今、自分の傍にいて、自分のことを必要としてくれている彼女も、
それはそれで本当の彼女の姿だとわかっている。

だから、彼女が夢の中で、
「過去」の世界にしばし心が飛んで、
環の名前を寝言で呟くようなことがあったとしても、
そこから目覚めた彼女をこの腕の中に、
優しく抱きしめてやる自信はとっくにあった。

独りだった昔とは違う。

仮初の幸せな時間とも違う。


自分には、彼女が自分と一緒にいることを、
選んでくれた「今」という別の「幸せ」があるから。



『先輩、怒って……ないですか?』
「別に怒ってはいないが」
『……本当、に……?』
「嘘をつくのは、昨日のお前メールだけで十分だ」

彼女が嘘をついた理由が、
こちらを悲しませたくない、という切ない気持を秘めていたためだと聞けば、
喜ぶならまだしも、怒る男などいるだろうか?

『でも……』

そういうわけで、鏡夜の心の中からは、
とっくに怒りなど吹き飛んでしまっていたというのに、
ハルヒが未だ不安そうなので、

「本当に、お前ははっきり言わないと分からない奴だな」

と、鏡夜は皮肉を前置いてから、


「お前が、そんなに思いつめるほど、
 俺のことを考えていてくれているというのに、嬉しくないわけないだろう?」



……と、彼女に素直な気持ちを吐露した瞬間、
一気に恥ずかしくなってきて、鏡夜は思わず顔面を掌で覆った。
風邪を感染されたわけではないと思うが、妙に顔が熱い。

「……ところで……今、蘭花さんは傍にいるのか?」

余りに恥ずかしいので、さっさと話題を逸らすことにした。

『いえ……私の着替えを取りに、一旦、家に戻りましたよ』
「そうか。気分はどうだ?」
『あんなに苦しかったのが、嘘みたいに良いです。
 熱が下がったからですかね? ……でも、ちょっと眠くなってきました』
「昨日もあまり寝てないんだろう? 
 熱が高いと寝付けないものだからな。
 ゆっくり寝て、早く元気になってくれ。
 じゃないと、俺の計画も破綻するしな」
『……計画?』
「バレンタインの礼をすると言っておいただろう?
 少し企画していたことがあったんだが、
 まあ、こんな状況だしな。お前が元気になってからということにするよ」
『す、すみません』
「ハルヒ。こういうときは謝罪じゃなくて、
 恋人としては、他の言葉が欲しいんだが」
『他の言葉、ですか? って……え……えっと……じゃあ……その』

さっきから謝ってばかりのハルヒに対して、
少しばかり無謀なリクエストをしてみたところ、
ハルヒはが選び出してくれた言葉は……。


ありがとうございます、楽しみにしてます……とか?』


その彼女の返事を聞いて、鏡夜はぷっと吹き出した。

「最後に疑問符をつけなければ、ほぼ完璧だったんだがな」

謝ったり、遠慮したりするのではなく、
素直にこちらに礼を言ってくれるのは、
意地っ張りの彼女が、他者を受け入れる合図

「まあ、いいよ……おやすみ、ハルヒ」

いつか、彼女に遠慮なく頼られるようになりたい、
という、鏡夜の切なき秘め事。

叶う日は……そう遠くないのかもしれない。

* * *

病院での治療は絶大で、
翌日にはハルヒも退院することができ、
二、三日、自宅で休んですっかり復調したらしい。

鏡夜も、念のため検査をしてもらったが、
とくに感染はしていないとのことだった。

それから、一週間後。

先週、流れてしまったホワイトデーのやり直しが、
ようやくできると気分が盛り上がっていた矢先、ハルヒから電話が入った。

『鏡夜先輩……明日なんですけど……、
 あのう……ものすごく言いにくいんですけど、
 すみません、どうも自分、お父さんに、インフルエンザをうつしちゃったみたいで、
 お父さん、今、実家で寝込んでて……』
「……」

案の定というか、不安が的中というか、
結局、次の週末も彼女と一緒に過ごすことができず、
彼女を驚かせようと色々企画していたイベントもお流れになってしまい、
散々な週末を送ることになってしまった鏡夜なのであった……。

* * *



(初稿2010.3.23)

ホワイトデー企画短編は以上で終了です。
(あんまりホワイトデー関係ないきもするけど、まあいいか《苦笑》)

2010.3.23 Suriya拝

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