『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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ホワイトデー企画短編
切なき秘め事 -8- (鏡夜&環)
鏡夜に嘘をついた理由、秘めていた想いを蘭花に話すハルヒ。
しかし、二人の会話は、蘭花がこっそりつないだ携帯電話で鏡夜に全部聞かれていて……。
* * *
蘭花から電話がかかってきたのは、
鏡夜が車に乗り込んで間もなくのことだった。
病室でのハルヒの頑なな態度には、
鏡夜も久しぶりに苛立ちを隠せず、
そっけなく病院を後にしてしまったわけだが、
ハルヒの状況が気にならないわけもなく、
蘭花の携帯からの着信に、慌てて電話に出てみたところ、
つながっているはずなのに蘭花の応答がない。
「……蘭花さん?」
代わりに鏡夜の耳に聞こえてきたのは、
電話の向こう側の、若干遠い話し声。
受話のボリュームを最大限に上げて聞き耳を立てると、
ハルヒと蘭花が会話をしている音であることが分かった。
何かの拍子に誤って、
電話がかかってしまったとは考えにくかったから、
おそらく、このまま二人の話を聞いていて欲しいということなのだろうと、
そう蘭花の意図を汲み取った鏡夜は、
取引先の会社へ向かう車中で、
しばらくずっと二人の会話を聞いていた、というわけだ。
『……鏡夜先輩……ずっと……聞いて……?』
蘭花から電話を代わったハルヒは、かなりばつが悪そうだった。
「『高校の時に環に看病された』というくだりから、だな」
高校の時、風邪で倒れたハルヒを、
環が看病した日のことは鏡夜もよく覚えている。
具合が悪いと言って早退したはずのハルヒが、
一人でちゃんと自宅まで帰り着いたか心配して、
何度かハルヒの家に電話をかけたものの、
一向にハルヒが出ないので、
下校途中で倒れているんじゃないかと大騒ぎした挙句、
あの日、環は授業を放り出して、わざわざハルヒを探しに行ったのだ。
環が探しに行くと言った手前、
鏡夜自身は学校を抜け出しはしなかったが、
実のところ、密かに橘に命じてハルヒの行方を捜させていた。
まあ結局、先にハルヒに辿り着いたのは環だったわけだが。
(正確には環の依頼を受けた高坂弁護士、といったほうがいいのかもしれないが)
「……ハルヒにこれまでの礼を言われた?」
ハルヒの看病をしていた間の、環とハルヒの会話の様子は、
その夜、環からかかってきた電話で聞かされていた。
『そうなのだ。心配してくれてありがとうございました、って。
改まって言われると、なんだか照れくさくって。
……っていうか、鏡夜。そもそも、ハルヒはなんで急に、
俺に「ありがとう」なんて言ってきたと思う?
しかも、結構前の……ホスト部皆で海に行った日のことも持ち出して……』
「ハルヒの気持ちを俺に聞いても分かるわけないだろう?」
『そ、それはそうかもしれんが、なんかこう、胸が「痛い」というか……、
なんと表現していいのか分からんのだが、少し変な気分になったから、
鏡夜なら原因がわかるかと思って……』
環を悩ませているのは、とてもシンプルな感情で、
少なくとも環とハルヒ以外のメンバーにはとっくに知れていることだったから、
鏡夜から環に答えを与えてやることは簡単だった。
「大方、ハルヒの風邪でもうつされたんじゃないのか?」
しかし、馨から、変に環に肩入れするなと言われていたこともあって、
とりあえずいつものように軽く受け流すことにした。
『そんなことはない! 俺は至って健康そのものだぞ?
毎日良く食べて良く寝てるからな。
それに、この間、録画しておいた通販番組を見ていたら、
ものすごい「画期的な器具」を発見して、
最近では毎晩寝る前に使用して筋力を鍛えているのだっ!』
「それは、よくある健康器具のことだろうが。何を大袈裟な」
『ふふん。俺が使用しているのは普通の健康器具ではない。
聞いて驚け! なんと全世界で30万人が愛用しているという、
ものすごい世紀の大発明品で……』
「一国内ならいざしらず、全世界で30万人というのは、
世界人口68億人の何パーセントだと思ってるんだ?」
『え? えっと……0.4%くらいか?』
「0.00004%だ。日本の人口に引き直せば5000人程度といったところか?
まあ、お前の日常生活なんて、
俺には全く興味もないから好きにすればいいが、
今まで散々ハルヒには『ウザい』と言われ続けてきたんだから、
こういうときは素直に喜ぶべきでは?
……これで『父親』としての面目躍如だろう?」
散々余計な話をした後、
最後に付け足した言葉には、多少の悪意もあったかもしれない。
『……そ、そうか……うむ、そうだよな!
これで俺もついに、可愛い娘に心から愛される、
真の「お父さんみたいなお父さん」になったということだな!』
「……」
何故、お父さん「みたい」なのに「真」なのか、
そもそも「お父さんみたいなお父さん」とはなんなのか……、
ともかく相変わらず呆れるくらい意味不明な単語を、
力いっぱい言い放った環は、
そろそろ寝ないと肌が荒れるとかなんとか言い始め、
『じゃあな、鏡夜。また明日、学校で!』
挙句、鏡夜の返事を待たずにぶつりと電話を切ってしまった。
「……」
ハルヒのことを話すとき、
環が落ち着きがないのはいつものこと。
ハルヒに礼を言われたかなんだか、
細かいことはよくわからないし、知りたくもないが、
いつもよりは神妙な様子で会話がスタートしたものの、
最後にはハイテンションで家族設定を叫んだりするところは、
一見普段と全く変わらない光景に見えた。
けれど、鏡夜は気付いていた。
自分たちを取り巻く状況が、
これで決定的に変化してしまったということに。
ずっと……続いてくれていても良かったんだけどね。
* * *
続