『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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ホワイトデー企画短編
切なき秘め事 -2- (鏡夜&蘭花)
ホワイトデーの前日に、鏡夜は彼女の部屋に行く予定だったのが、
彼女の父親が風邪をひいたために、この週末は看病のために実家に帰るというメールが入って……。
* * *
これは一体どういうことだろう?
「ふぁ~い、どちら様?」
「え……蘭花、さん?」
昨日の夜に彼女に電話をかけたときには、
仕事が忙しかったのか出てくれなかったので、
代わりに送信したメールの返信には、
翌朝になって気がついたのだが、
それによれば、彼女の父親が風邪をひいたから、
今日はその看病にいく、と言われていたような気がするのに。
「あら~鏡夜君じゃない! いらっしゃい、って、
嫌だわ、あたしったらこんな格好で」
鏡夜の前には、明らかに寝起きのようではあったが、
とても風邪をひいて寝込んでいたとは思えない、
元気な様子の蘭花が立っていたのだ。
「え、えっと……蘭花さん、体調のほうは大丈夫なんですか?」
「え? 体調?」
「風邪をひいた、とハルヒから……ハルヒさんから聞いてたんですが……?」
彼女……ハルヒの家は、父と娘、二人きりの家族だから、
例えホワイトデー云々理由をつけたところで、
父親が病気で具合が悪い時まで、
鏡夜のことを優先させろとは言う気もなく。
そうはいっても、週末に彼女に会えないのはそれはそれで悲しいので、
鏡夜は、土曜日の午後一番、
取引先へ向かう道すがらちょっと寄り道して、
蘭花の様子を見舞いに来たのだ。
おそらく、そこに看病にきているであろう、ハルヒとも会えるだろうと思って。
「あたしなら全然元気だけど、ハルヒがそんなこと君に言ったの?」
「ええ……実は、今日会う予定になってたんですが、
蘭花さんの看病をするから、実家に帰るとかどうとか……」
「あら? あの子も彼氏に嘘をつくなんてやるわねえ。
明日はホワイトデーだっていうのに……まさかの『浮気』かしら?」
「そんなことは……!」
「うふふ。うそうそ、冗談よ。そんなにマジにとらないでよ。
鏡夜君、相変わらず可愛いわねぇ」
「……」
蘭花としゃべると、こちらのペースが、
とことん乱されてしまうのが悔しい。
いくら主導権をとろうとしても、
いつも鏡夜の思考を先回りされていて、全くお手上げの状況だ。
「まあ、あの子が嘘をつく理由なんて、ひとつしか考えられないけど」
「ひとつ?」
「ええ。ちょっと待ってて、鏡夜君」
蘭花は玄関先に鏡夜を残して、部屋の奥にいくと、
携帯電話を取ってきてどこかに電話をしながら戻ってきた。
「……やっぱり、出ないわね」
「ハルヒにかけてたんですか?」
「ええ。これはちょっと重症かもね」
「重症?」
「あの子ってほとんど嘘を付かないけど、
人に気を使って嘘をつく場合には、全部を嘘で固めることができなくて、
どうしても本当のことが混じっちゃうのよ」
「本当のこと?」
「要するに、今回でいえば、
『風邪をひいている』ってところが本当のことってことね。
きっと今頃自分の部屋で寝込んでるんじゃないかしら。
鏡夜君に心配かけたくなかったのね、きっと」
「……! すみません、蘭花さん、失礼しま……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいって、鏡夜君」
慌てて車の方に戻ろうとした鏡夜を、
蘭花が肩を掴んで引き留める。
「電話に出れないくらいなら、あの子、どうなってるか心配だし。
あたしも行くわよ。一緒に乗せてってくれる?」
「ええ、それは構いませんが……」
「じゃあ、外で待ってて。すぐ着替えるから」
すぐ、と言われた割には、
三十分以上は優に待たされた気がするが、
普段の仕事に行く時よりは、
若干薄めのメイクと、そこそこおとなしい服装をして出てきた蘭花と一緒に、
鏡夜はハルヒのマンションへ向かうことになった。
蘭花を見舞ってから向かう予定だった取引先には、
約束通りの時間には、とても到着できそうになかったので、
代理を派遣するよう社に電話をかけて手配していたら、
土曜日なのに大変そうね、と蘭花に慰められてしまった。
忙しさは増す一方だったけれど、
それでも、もうすぐハルヒが自分の仕事を、
手伝ってくれると思えば、どんなに忙しく困難な仕事でも自然と精が出る。
道路があまり混雑していなかったこともあって、
ハルヒのマンションには、
一時間もしないうちに到着することが出来た。
若干早足でエレベーターを降り、
蘭花がハルヒの部屋のインターホンを押す。
「あら、出てこないわね」
三回ほどインターホンを押したが、中から反応は無い。
「まさか本当に浮気……?」
「そういう冗談はもう勘弁してください。
見たところ、今日の新聞が郵便受けに差しっぱなしですから、
おそらく、中にいるとは思いますが。寝てるのかもしれませんね」
「そっか、どうしよう。管理人さんに言って鍵を借りてこようかしら?」
「それなら『これ』で」
あまり父親の前で見せびらかしたいものではなかったが、
こういう状況では仕方ない。
「あら? 鏡夜君、合鍵なんて持ってるの?」
鏡夜がポケットから鍵を取りだすと、蘭花にぎろりと睨まれた。
「父親のあたしでさえもらってないのに、なんだかムカつくわね」
「す……すみません。
でも、出来るだけ事前に連絡してから、使うようにしてますし……」
「その言い方だと『勝手に』使ったこともあるってことよね?
一体どういうシチュエーションよ!?」
「それは……」
状況が状況だったとはいえ、
勝手に合鍵を作って、無理矢理部屋に押し入ったという、
あの『一度目』の使用状況は、流石に蘭花には告白しづらい。
「……クリスマスに、フランスへの出張から帰ってきて、
空港から直接ここに来たんですが、
どうも寝ていたみたいで呼んでも出てこなかったんで、仕方なく」
「ふうん、それだけ?」
「ハルヒさんに鍵をもらってからは、
断りなく使ったのはその一度だけですよ」
蘭花に嘘をついても、すぐ見抜かれてしまうので、
仕方がないから、言いたくない部分だけを切り取って伝えることにした。
蘭花は完全には納得してないような感じだったが、
鏡夜がドアを開けると、合鍵はもらってなくても先には行かせない! とばかりに、
鏡夜の前に割り込んで、先にハルヒの部屋の中に上がり込んでいった。
玄関にはハルヒがいつも履いている、
見慣れた黒いパンプスがきちっと置かれていて、
部屋の中は昼間なのに照明が点いていたから、
彼女が中にいることは間違いないようだ。
蘭花の言うように、ハルヒが風邪をひいて具合が悪いのなら、
きっと電気を点けっぱなしで、ベッドで熟睡しているのだろうか……、
などと考えながら鏡夜が蘭花に続いて部屋に上がると、
「ハルヒ!?」
ハルヒは部屋の中央の炬燵の脇、
絨毯の上に倒れるようにして横たわっていたので、
驚いた鏡夜と蘭花は、揃ってハルヒの名前を呼んだ。
「おい、ハルヒ……」
鏡夜はすぐに彼女の元へ駆け寄ろうとしたのだが、
自分よりも前にいた蘭花に先を越されてしまった。
「ちょっとハルヒ、大丈夫!?」
ハルヒはなぜかスーツを着たままだ。
どこかに出かけようとして着替えたのか、
それとももしかして昨日の夜からスーツを着たままなのか。
「……お……父さん……?」
蘭花がハルヒに近寄って肩を揺すると、ハルヒがゆっくり目を開ける。
「もう、何やってるのよ……って、
ハルヒ、あんたものすごい熱じゃない!」
ハルヒの顔は熱のせいなのか真っ赤になっていて、
おでこに手を当てた蘭花が、その温度に驚いて叫び声をあげた。
「蘭花さん、すぐにうちの病院に運びましょう」
「そうね、ハルヒ? 立てる?」
蘭花がハルヒの脇の下に腕を入れて支え起こそうとしていたので、
先程は割り込まれてしまった鏡夜が、
「すみません、失礼します」と断って、横から手を出し、
ハルヒを、俗に言う「お姫様だっこ」の状態で抱え上げた。
抱え上げたハルヒの額が、
ちょうど自分の首筋に当たって、
それだけで彼女の体温が、いつも以上に熱いのが分かる。
一体、どのくらい熱が出ているのか。
ハルヒの意識は朦朧としているようで、呼吸も荒い。
ぐったりとした彼女の体の全体重が、自分の腕や胸元にかかる。
「全く、お前はいつもいつも……」
いくら、こちらに心配をかけたくないからといって、
こんな状況になっているにもかかわらず、
あんな嘘を付かれて隠されたことには不満が募る。
今、この場に蘭花がいなくて、ハルヒと二人きりだったら、
どうして連絡してこなかったんだと、
思いっきり愚痴をこぼしていたかもしれない。
「流石に若い子は力があるわね。簡単に抱き上げてくれちゃって」
両手がふさがっている鏡夜の代わりに、
合鍵でドアを閉めてくれた蘭花は、
ハルヒを軽々と抱き上げて、階下へ運ぶ鏡夜の姿を見て、
鏡夜の後ろで恨めしそうにぼやいていた。
* * *
続