『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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* * *
「お前、今日あったことを一方的に喋っただけで、
俺が許す……とでも思ってるのか?」
座っていた鏡夜に腕を引っ張られて、
バランスを崩してそのまま鏡夜の方へ転倒して、
丁度、彼の膝の上に乗っかってしまうような格好になったハルヒを、
ハルヒの手首を握りしめたままの鏡夜が、下から睨みつけている。
「あの……それは……本当に申し訳ないと……思って……」
ネックレスをもらったことをすっかり忘れて、
ずっと使わないで放置してしまったのも、
今日一日を無駄にしてしまったのも、全て自分の所為だ。
喜んでもらうために、良かれと思ってしたことではあったけれど、
こんな体たらくでは、鏡夜が怒るのも無理はない。
さぞかし鏡夜は怒っているのだろうと、
ハルヒは目を閉じて身構えた、のだが。
「……全く、お前は相変わらず……」
しかし、想像していたよりも遥かに力の抜けた、
落ち着いた声が聞こえてきたので、
こわごわハルヒが目を開けると、
鏡夜は微かに笑っているようにも見えた。
「先輩?」
ハルヒの手首から手を離した鏡夜は、
その両手を彼女の肩に回し、そっと自分の方へ抱き寄せた。
「もう、とっくに捨てられているのかと思ってた」
彼の胸にぴたりと触れた耳に届くのは、
空気を伝わる音だけではなく、直接、耳の奥に響く低い振動。
そして彼の指が、ネックレスのチェーンの上をなぞっていく感触。
「そ、そんな、せっかくもらったものを捨てるなんて、私、しませんよ」
鏡夜からもらったものに限ったことではないが、
例えば、ホスト部の部員達から共同でプレゼントされた、
部員達全員の綿密肖像画入りの、
ロシア王朝時代の装飾品をモチーフにしたブレスレットのような、
ありがたすぎてとても身に付けられないものとか、
色々用途に困るものは多多あったけれど、
使う、使わないはともかく、
他人の心がこもったものというのはやはり捨てられない。
初詣の日に環からもらったオモチャの指輪も、
(どこで売っていたのか宝石に当たる部分が大トロの握りずしの形状のもの)
机の引き出しの奥にちゃんとしまってある。
「だが、お前は一度も付けてくれたことがなかったじゃないか?」
「それは、だって!」
ハルヒは両手で鏡夜の肩を押して、
少しだけ身体を離すと、顔を上げてふうっと息をついた。
「だって、これ、ものすごく高そうだったし。
こんな高価なネックレス、つける場所がなかったですし、
だからずっとしまってて、それでつい忘れてて……」
「そんなに高くもないぞ? 高校生が土産に買える程度のものだからな」
「一体、いくらしたんですか」
「それは……」
鏡夜からなんとか逃れようと、
身体を引いていたハルヒの首の後ろに手を回し、、
鏡夜はハルヒの顔をぐいっと自分に引き寄せると、
彼女の耳元に唇を近づけて、何事かひそひそと囁いた。
「えっ!?」
鏡夜が囁いた金額を聞いて、
ハルヒは驚いて飛びのきそうになってしまった。
もっとも、鏡夜がしっかり自分の肩と首に手を回していたので、
顔を数cm離すことができたくらいで、
彼の膝の上から逃げることはできなかったのだけれど。
「そ、そ、それは、どう考えても『安い』とは言わないと思うんですけど」
「なら、一度も使われずにいる贈り主の身にもなって欲しいものだな。
大体、お前、男が女にアクセサリーを贈るのが、
どういうことか分かってないだろう」
「それは……どういう意味があるんです?」
そういえば環先輩からもらった大トロリングも、
一応アクセサリーっていえるのかな?
なんてことを、ぼんやり考えながら、
特に深くも考えず、ざっくり聞き返した途端に、
鏡夜に額を小突かれてしまった。
「真顔で聞くな。しかも、よりにもよって、
蘭花さんに使われていたとはな……少し目眩がしてきたぞ」
「そ、それは、でも、いいじゃないですか。
鏡夜先輩はお父さんと恋人同士だったんでしょ?」
「…………おい」
鏡夜はハルヒを小突いた指で、
今度は自分のこめかみを押さえると、
ものすごく困った様子で顔をしかめる。
「その噂のことを、今、持ち出すか?」
ハルヒがかつて、鏡夜と喧嘩して別れるということになった時、
それを知って大激怒した蘭花が、
仕事着で鏡夜のオフィスに押し掛けてしまい、
そのことで、鏡夜の女性関係について職場であらぬ噂が広まって、
退院後も鏡夜は色々大変だったらしいのだが、
そんな状況を、鏡夜は最近になるまで一切ハルヒに話してくれなかったのだ。
「だって! そりゃ忘れてたのは私も悪いですけど、
でも、鏡夜先輩だって同じくらい悪い事……、
今まで一方的に私に隠し事をしてたじゃないですか!?」
「……」
蘭花との噂の件を相談してくれなかったことと、
ネックレスの件は全くの別問題で。
どれだけ論理的に話を組み立てようとしても、
鏡夜の言っている事の方が正しいとは思う。
けれども、あまりに一方的に苛められすぎたために、
ハルヒには、そう反論するしか手が残っていなくて、
なんだかこんな無理矢理なことを言っている自分が、
段々恥ずかしくなってきて、頬の辺りが火照ってきた気がする。
「……まあいい……百歩譲って、
お前がこのネックレスのことを忘れていたことと、
俺が蘭花さんとの噂を放置していて、
それをお前に隠していたことが、
同じくらい悪いことで、イコール、相殺されるとして、だ」
鏡夜は、彼のいつもの癖、
眼鏡の位置を指先で、すっと直す仕草をしてから、
あからさまな作り笑いを浮かべると、
とても『爽やかな』様子でハルヒに、こう問いかけた。
「今日、半日以上俺をここで待たせたことについては、
これからきっちり、埋め合わせはしてくれるんだろうね?」
『問いかけ』ならぬ『確認』。
久しぶりに間近で見る悪魔の微笑みに、
ハルヒの表情はぴきぴきと凍りついていき、
「ま、まあ、それは自分にできることだったら……」
魔王状態の鏡夜に、言い返すことなんてできるはずもなかったから、
ハルヒは鏡夜の言葉を、そのまま受け入れざるを得なかった。
「じゃ、とりあえずは食事からだな。
ああ、ハルヒ。折角だから、その服は着替えるなよ?」
「え!? このまま作るんですか? ドレスが汚れちゃいますよ」
「作るのに都合が悪いなら、ケータリングを頼んでもいいし、
何なら今から外へ出かけてもいいぞ。ホテルのスイートでも取るか?」
「は、はい? 今からってそれは……」
「おや、嫌なのか? できることなら『何でも』してくれるんだろ?」
……なんだか微妙に内容が変わってきている気がするけれど……。
こんな高そうな借り物のドレスを、
汚してしまう危険を冒してまで、キッチンで食事を作れるはずもないし、
かといって夜中にケータリング(要するに出前の一種?)を頼めるかどうかも、
そういうものを使ったことがないハルヒにはわからなかった。
「先輩、相変わらず、卑怯ですよね」
彼がもっとも得意とする技、
すなわち『選択肢の無い問いかけ』をしてくる鏡夜の様子を見て、
ハルヒは、明日の休日、自分は一体どうなってしまうのだろう? と、
ただただ、我が身を心配するのだった……。
* * *
恋人達の休日・了……?