『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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熱海からヘリコプターで常陸院邸まで戻ってきて、
恥ずかしがるハルヒをトータルコーディネートして、
母親の新作のドレスを着せて、
髪のセットまでして送り出した後、
ハニー先輩とモリ先輩を、それぞれ自宅まで送っていこうとしたら、
「折角、きょうちゃんの誕生日なんだから」
と、強引に誘われたというか一方的に押し切られて、
結局、皆でハニー先輩の家にお邪魔して、
ケーキをご馳走になることになってしまった。
今日は夕方から、ずっとハルヒのネックレス探しを手伝っていたから、
お腹が空いてないことはなかったけど、
夜中に甘いものを大量に食べさせられたせいで、
なんだか、胃がずしんと重くて気持ちが悪い。
「……だけど。……ねえ、聞いてる? 光」
「え?」
帰りの車の中で、右手で胃のあたりを軽く押さえて、
気分を紛らわせるために外を見ていた僕の肩を、
右隣に座っていた馨が揺すってきた。
「ごめん、聞いてなかった。何?」
馨の言葉は全く聞いてなかったので、
正直に聞き返したら、馨はやれやれと首を横に振っている。
「だーかーら。光が率先して今日みたいなことするなんて、
僕としては、かなり意外だったんだけど、
一体、どういう心境の変化なの? って聞いたんだよ」
「変化?」
「だって、光はまだハルヒのこと好きなんでしょ?
ハルヒと鏡夜先輩とのことは一応認めてるにしても、
積極的に応援する必要はないじゃん?」
そういって僕を見つめる馨は、
まるで僕がこっそり何かを企んでいるんじゃないかとでも言いたげだ。
そりゃ、馨には内緒で、
例のタヌキ型貯金箱への貯金を再開してたりはしてたけど、
別に今のハルヒと鏡夜先輩との間に無理やり割り込もうとか、
そういうつもりは僕には一切無かった。
あくまで今の状況が続けば、の話だけど。
「いや、別に今日のことに何も裏はないけど。
ただ、俺は高校の時に自分にされたことを思い出しただけなんだよ」
「高校の時?」
「うん」
「されたことって、一体何を思い出したの?」
惨めな気分がぶり返すことになりそうだったから、
本当は、あんまり詳しく説明したくは無かったんだけど、
馨があんまりにも教えて教えてとしつこいので、
結局、全部喋る羽目になってしまった。
「あのさ。馨、覚えてる? 高校の時に、
俺達からハルヒに携帯を貸してたことあったじゃん?」
「ああ、あったね、そんなことも」
「あの時のハルヒってさ。
折角、俺らと同じ、最新機種の携帯電話を貸したっていうのに、
いつも家に忘れてきたり、
持ってきてても電源入ってなかったり、
しかも、全然、俺達に電話もメールもしてこなかったじゃん?」
ああ、確かにそうだったね、と、
馨は、ぽりぽりとほっぺを掻いている。
「なんか渡してる意味全然ないって感じだったよねえ」
「そうそう……でもさ、ハルヒの奴、
殿に対しては全然態度が違ったんだよ」
「ん? 殿?」
馨がピンとこない様子だったので、僕が説明してやると、
「ああ、『あれ』のことのね」
と、馨は口元をにやっと歪めて、
ちょっと複雑な笑顔を浮かべていた。
「あいつさ、殿からもらったものは、あんなふざけた物でも、
すっごい大事にしちゃってさ!
でも、僕らがあげたものは……しかも携帯なんて、
毎日、持ち歩きやすいもののはずなのに、
全く無視っていうか相手にしてないっていうかさ」
「まあ、確かにハルヒの天然な態度って、
あまりに無自覚すぎて、時々ものすご~く残酷なときがあるよね。
でも、それがなんで今日のことと……ああ、そっか!」
馨は何かに気付いたように声をあげると、
にやっと笑いながら僕の肩に寄りかかってきた。
「もしかして光は、その時の自分の気持ちと、
今の鏡夜先輩の状況を重ねちゃった……ってわけ?」
大切な人にプレゼントしたものを、
使ってもらえないだけでも、
あんなに寂しくて、苛々した気持ちになったのに。
まして、それを一度も使わないままに忘れていた、とか、
無くしたかもしれないなんて、言われたら、
そりゃ、『絶対探さなきゃだめだ』って、ハルヒを怒りたくもなる。
「まあ、そういうこと!」
馨に見事に考えを読み取られてしまった僕が、
自棄になって頷くと、馨に、
「光……本当に……大人になったんだねえ」
と、僕の方が兄貴のはずなのに、
なんだか子供を見守る保護者みたいな言われ方をされてしまった。
「ちょっと馨、ハルヒと同じようなこと言うなよ」
「あれ? ハルヒにも言われた?」
「まあね。ああ、なんだか思い出したら、
自分の馬鹿さ加減にますます落ち込んできた」
そう言って頭を抱える僕に向かって、
「愚痴なら僕がちゃんと聞いてあげるから。ほら、元気出せ! 光!」
馨はめちゃくちゃ力いっぱいに僕の肩口を叩いてきた。
「うぐっ……馨、今の痛いって……」
余りに本気で叩かれたから、僕は変な呻き声をあげてしまった。
「あはは。ごめんごめん。まあでも光が落ち込んでると僕も辛いからさ」
そんな優しいことを言ってくれる馨の顔には、
穏やかな笑顔が浮かんでいたけれど。
「……馨」
いつだって、馨は僕の味方で、
いつだって、馨は僕のことを心配してくれてる。
でも。
馨だってハルヒのことが大好きだったはずなんだ。
それでも僕のことを心配してみせる馨の心遣いに、
胸がじわっと熱くなって涙がこみあげてきそうになる。
「それなら……今日は一晩中、馨に愚痴に付き合ってもらおうかな」
「うん。まかせといてよ!
あ、でもお酒は飲まないでね。光、酒癖悪いから」
馨は大袈裟にどんっと胸を叩くと、
僕の気分を軽くするために冗談まで交えてくれて、
そんな馨の様子を見て、僕は自然と笑顔になっていた。
「それじゃあ、今日は久しぶりに光と一緒のベッドだね。
帰ったら用意させなきゃ」
「そうだね」
馨の言葉に頷きながら、
僕は再び車の外の景色を見るフリをして、
窓枠に顔を寄せ、頬杖をつくために頬に手を添える前に、
左手の指をそっと自分の唇に近づけて。
馨には気付かれないように、
僕はその人差し指の先に……そっとキスをした。
ほんの一時間ほど前。
大好きな彼女の髪に触れていた、その指先に。
* * *
続