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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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聖夜の願い事 -5-

クリスマス特別企画短編
聖夜の願い事 -5- (ハルヒ&鏡夜)

12月25日、夜九時過ぎ。ハルヒの部屋にて。

* * *

数日間、ほとんど睡眠もとれない状況で、
今日一日仕事をこなしたために、
家に帰ってきたら流石に頭痛が酷くなって、
鏡夜からの電話を今か今かと待ちながら、
頭痛を散らすためにコタツ布団で横になっていたら、
あまりの疲れに、そのまま意識が飛んでいたらしく、
うっかり転寝してしまっていたというよりも、
『気絶していた』と表現したほうが正確な気もする。

揺り起こされて気が付いたら、目の前に鏡夜がいて、
最初はコタツに入ってごろりと横になっていた、
そんな怠惰な状況をからかわれてしまったけれど、
鏡夜にはすぐに、ハルヒがこの数日間どんな心境にあったのか気付かれてしまった。
 
「それにしても『忘れてる』って、一体何のこと言ってるんだろう?」
 
シャワーの音を扉の向こうに聞きながら、
鏡夜の着替えを脱衣所に持ってきたハルヒは、
半透明の扉越しに動く影を、不満そうにちらちらと見つめていた。

一旦、ああいう態度ではぐらかされたことを、
鏡夜から聞き出すことはなかなか骨が折れる。
 
「先輩ここに着替え置いておきますからね」
『……ああ』
 
そう声かけてから、
鏡夜が脱ぎ捨てたスーツやワイシャツを手にリビングに戻ったハルヒは、
右手に衣類を持ったまま、
先ほど付けてもらった左腕の時計を、腕を持ち上げてじっと見つめた。
 
薄いピンク色の滑らかなバンドは光沢も美しく、
四角い文字盤の周りには細かく宝石が散りばめられている。
ファッションには全くと言っていいほど明るくなかったから、
なんという宝石かは全然分からなかったけれど、
綺麗にカットされた淡くピンクがかった透明の石を見れば、
かなり高価な時計らしいということだけは流石に分かった。

それでも変に派手でもなく、
すっきりとした上品な趣のデザインの時計を選んでくれたのは、
ごてごてしたものを嫌うハルヒの性格を考えてのことだろう。

「そういえば、クリスマスだから願いは叶えてやらないとと、とか言ってたけど……」

こういうプレゼントを贈られると、
以前は「高価なものはもらえない」と言ってなかなか受け取らなかったハルヒも、
今回は事前に電話で「遠慮はするな」と念を押されていたから、
このプレゼントを付き返すようなことをする気は無かった。

けれど、別にハルヒは鏡夜に、
クリスマスプレゼントを買って欲しいなんて願っていたわけではなく、
この連休中、ただひたすらに願っていたのは、
鏡夜に「いつも自分の傍に居て欲しい」というシンプルなもので、
口に出すのはかなり恥ずかしかったけれど、
そんなハルヒのささやかな願い事は、
鏡夜に伝えられた(無理矢理言わされた)と思っている。

そんなハルヒの願い事を、
出来るだけ叶えたいと言って、
鏡夜が渡してくれたプレゼントがこの時計なのだが。

でも、どうしてこの腕時計が自分の願いを叶えることになるんだろう?

小首を傾げつつ、腕に抱えていた鏡夜の背広を、
ハンガーにかけようとして持ち上げた時、
彼の上着のポケットから、何か小さなものが絨毯の上に転げ落ちて、
拾い上げてみると、それはこの部屋の鍵だった。

以前、鏡夜が勝手に複製して、
その後で別れるということになった折に、一旦ハルヒに返されて、
その後改めてハルヒから鏡夜に手渡した、この部屋の合鍵。

「あ、そっか……」

その鍵を見て、ハルヒはようやく鏡夜の意図を理解した。


鏡夜は、ハルヒがかつて彼にしたことと同じことをしてくれたのだと。


ハルヒが鏡夜に改めてこの鍵を渡そうと思ったのは、
鏡夜の両目の手術が行われる日に、
手術室へと続く銀色の冷たい扉が、
交通事故の直後のように、二人の間を遮っても、
心だけは手術中も、ずっと彼の傍にいたいと、そういう意味を込めてのことだった。

この鍵は自分の心の欠片でもあり、分身でもある。

かつて心から大好きになった人がいて、
でも、はっきりと気持ちを伝える前にその人はいなくなって、
真っ暗な自分だけの世界に深く閉じこもって、
それをじっと見守っていてくれた鏡夜先輩に告白されて、
断り切れずにそれを受け入れて、
なのに、自分の気持ちを全然整理しきれていなかった二か月間、
鏡夜は何も言わずに、ずっとこれを持っていてくれて、
そして、ハルヒの手から正式に渡した後も、
常にスーツの胸ポケットに入れて持ち歩いてくれているようだ。

恋人同士、どんなに近い場所にいたとしても、
四六時中一緒にいる……なんてことは不可能な話で、
でも、傍に居られないなら、
せめてその代わりになるものをお互いに持つことができれば……。

先程は鏡夜の言い方に、
ついついむくれてしまった部分もあったのだが、
確かに鏡夜が言っていることにも一理あって、
ハルヒが普段付け慣れないアクセサリーを贈られるよりは、
時計のほうが、毎日身につけて持ち歩くにはうってつけだったかもしれない。
 
「そういえば、プレゼントのお礼、言ってなかったっけ……」

実は。

包装紙の下から出てきた布張りの高級そうな箱を見た時、
掌に乗るくらいの大きさのそれを見て、
一瞬、指輪でも贈られるのかと不覚にも想像してしまって。

(そこで、大トロ指輪くらいしか想像できなかった自分もちょっとどうかと思ったけど)

ちょっぴりドキドキしながら蓋を開けて出てきたものが、
意外といえば意外な『時計』だったから、
若干、拍子抜け……というか、ふっと緊張が切れてしまって、
「ありがとう」という言葉を忘れてしまっていたのだ。

鏡夜がバスルームから出てきたら、
ちゃんとお礼を言わなきゃ、などと考えながら、
ハルヒは、数日間付けっぱなしのテレビの電源をようやく落とすと、
ベッドの端に腰を降ろした。
 
* * *

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