『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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クリスマス特別企画短編
聖夜の願い事 -2- (ハルヒ&鏡夜)
明けて12月24日朝、ハルヒの部屋にて。
(この作品は、旧ブログでクリスマス企画として07/12/23~25に公開したものです)
* * *
……結局、全然寝れなかった。
少しウトウトとしただけで、夜を過ごしてしまったハルヒは、
ぐらんぐらんと回る重い頭を起こしてカーテンを開け、
窓から入ってくる光の眩しさに目を細めた。
「先輩が帰ってくるまで、あと、一日か……」
今日は二十四日月曜日。振替休日のクリスマスイヴ。
世間は色とりどりのイルミネーションに飾られる華やかな一日のはずなのだが、
ハルヒの気分は街の様子とは全く正反対だった。
外出する気にもならず、家のことをする気にもならない。
かといって、漫然とベッドの上で横になっていても、眠ることもできない。
鏡夜のことが心配で身体ががんじがらめに縛られてしまっている。
「そうだ、明日の仕事の予定を確認しとかないと……」
中学、高校とハルヒは勉強ばかりしてきたから、
机に座るという行為で、ある程度は落ち着くことができた。
けれどもいざ手帳を開いて仕事の計画を練ろうとしても、
結局、それにも上手く集中することができない。
目が向いてしまうのは、机の片隅に置いた携帯電話で。
耳が追ってしまうのは、流れ続けるテレビの音声だ。
そんな時間を二時間ほど過ごしただろうか。
ぶるるるる。
「鏡夜先輩!」
『……ハルヒ?』
午前九時過ぎに、やっと携帯に着信があって、
待ち構えていたハルヒは、ワンコールも鳴りきらないうちに
素早く携帯を握り締めていた。
『随分……出るのが早いな』
そんなハルヒの慌てた様子に、鏡夜はかなり戸惑っているようだ。
『連絡が遅くなって悪かったな。
少し前にホテルには戻ってきていたんだが、
シャワーを浴びてやっと落ち着いたところでな。そっちは、朝か?』
「丁度九時を過ぎたところですよ。パリは夜中ですか?」
『ああ。もうすぐ夜中一時になる。帰ってきたのは十二時少し前だったが』
「そんな遅くまで、お仕事大変そうですね」
『まあな。だが、順調に提携の話が進んでいるから、
明日……いやもう今日か。午前中に話が詰まれば、
予定通り、午後にはこっちを発てそうだ。
折角の連休に会えなくて悪かったな。
詫びに、ちゃんと土産を買っていくからな』
「え、そんな……」
『要らないとか、そういう遠慮はもうするなよ?』
鏡夜からの提案に、ハルヒがすかさず拒否の言葉を発してしまうのは、
彼に遠慮しているとか、壁をつくっているとか、
そういうことではなくて、
単に「他人に甘えずに遠慮する」という仕草が、
これまでの生活で身体にすっかり染み込んでしまっているからだ。
そんなハルヒの反射的行動の理由も、
最近は鏡夜も充分理解しているようで、
ハルヒが完全に鏡夜の提案を否定する前に、
先手を打って言葉を被せられてしまった。
『これは、クリスマスにお前と一緒にいてやれないことに対して、
俺が買っていきたくて、やっていることなんだからな?』
「わ……わかりました」
『一応聞くが、何かリクエストはあるか?』
折角、名実ともに……恋人同士になったのだし、
クリスマスという年に一度のイベントに、
何か欲しいものをねだっても良かったのかもしれなかったけれど。
「リクエスト、ですか……?」
私はただ、先輩に帰ってきて欲しいだけなんです。今すぐに。
それだけがハルヒの心からの願望だったのだが、
今回の出張は、随分前から決まっていたことなのだし、
これからも、鏡夜が仕事上、海外にいく機会はいくらでもあるだろう。
その度にこんな風に落ち込んで自分勝手に我侭を言うわけにはいかない。
ハルヒが黙り込んでしまったのは、
そう考えて本音を言えなかったためだったのだが、
鏡夜はそうは取らなかったらしく、
まだ無理か……と小さく笑う息遣いが耳に届いた。
『ま、受け入れてくれるだけお前にしては上出来といったところか』
「え?」
『まあいい。今日はそろそろ休む。また起きたら連絡するよ』
「あ……先輩、待ってください」
通話を切られそうになって咄嗟に、
ハルヒは鏡夜を引き止めてしまった。
『ん? 何だ?』
「あ……」
本当は、もっと長く話しをしていたいんです。
「あの」
本当は、鏡夜先輩に私の傍にいて欲しいんです。
「あの……その……」
本当は、たとえそれが仕事のためなんだとしても、
フランスになんて、行って欲しくなかったんです。
「その……あまり無理せず……お仕事がんばってくださいね」
結局言いたいことを言えないまま、
ハルヒは最後にそう付け足すだけが精一杯だった。
『……ああ、わかった。それじゃあ、またな』
こんな感じに鏡夜との通話を終え、
すっかり脱力してしまったハルヒは、
勉強机に両腕を乗せ、その上に顔を突っ伏してしまった。
あなたのことが心配で、私は夜も眠れないんです。
なんて、正直に伝えたら、
子供っぽいと笑われてしまうだろうか?
それとも、仕事に集中しなければいけない時に、
余計な心配をかけるだけだろうか?
鏡夜先輩。
電話もメールもお土産も、鏡夜先輩の気遣いは本当に嬉しいんです。
それは嘘じゃないんです。……でも、本当は。
自分の傍に鏡夜先輩がいてくれたら、それだけでいいのに。
クリスマスイブの鮮やかさとは対照的に、
灰色にくすんだハルヒの不安は、いつまで経っても綺麗に拭えないまま、
長い長い独りの陰鬱な時間はまだまだ続いていく。
* * *
「あの……馬鹿が」
電話を切ったあと、
鏡夜は濡れた頭を乱雑にタオルで拭きながら立ち上がり、
無作法に椅子の背もたれにタオルを掛けると、
仕事の書類を枕元に放り投げて、それから自分もベッドの上に倒れ込んだ。
鏡夜は心の中で彼女に向かって毒づく。
不安なことがあるならはっきり言えばいいものを。
あんな心配そうな声で「仕事をがんばれ」だと?
鏡夜がフランスに行くことをぎりぎりまで言わなかったのは、
ハルヒが極端に心配することを恐れていたからだ。
案の定、出張先を伝えた後のハルヒの様子は明らかにおかしくなって、
それならそれで、寂しいとか、辛いとか、多少甘えてくれたほうが、
堂堂と彼女を慰める優しい言葉をかけてやれるし、
そうしてハルヒが少しでも落ち着いた答えを返してくれれば、
鏡夜も安心できるというのに。
「全く……こっちの気も知らないで……」
* * *
続