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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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聖夜の願い事 -1-

クリスマス特別企画短編
聖夜の願い事 -1- (ハルヒ&鏡夜)

12月23日深夜、ハルヒの部屋にて。


(この作品は、旧ブログでクリスマス企画として07/12/23~25に公開したものです)

* * *

今年は二十三日の祝日が日曜日に上手く重なって、
クリスマスイブの月曜日は振替休日になっていた。

今年は月曜日が休日になって、
土曜日から数えて三連休となることが
例年以上に多かった気がする。

二十二日の土曜日から始まる週末の三連休を、
一緒に過ごせる人がいれば、
それはきっと楽しい三日間なのだろうし、
実際、今のハルヒにはそういう相手がいるはずだったのだが。

年内最終の連休、しかもクリスマスという、
恋人達にとっては特別なイベントが絡んだ連休だというのに、
ハルヒは独り、布団の中で身体を小さく丸めて、
時が過ぎるのを黙々と待つ寂しい休日を過ごしていた。

……眠れない。

布団の中で何度寝返りを打ってみても、
一向に睡魔が自分を支配してくれない。

身体の中心で、きりきりと自分を蝕む痛みが、
時間が経つにつれて少しずつ大きくなって、
身体を内側から食い破っていくような最悪な気分のままに、
ハルヒが眠れない独りの夜を過ごすのは、
二十日の木曜の夜から数えて、今日で四夜目を迎えていた。

時計の針は深夜一時を周り、
室内の照明の明るさは落としている。

けれど、何故か部屋の隅のテレビの電源は入れっぱなしで、
テレビの映像が切り替わるたびに、
微妙に色彩を変える淡い光が、ベッドサイドまで届いていた。

……昨日も全然寝てないんだから、今日はちゃんと寝なきゃ。

そう言い聞かせて目を閉じるものの、
耳はテレビのノイズを意識的に拾ってしまう。
明らかに睡眠の妨げの一つの要因はテレビにあるのだが、
それでも、ハルヒはテレビを消すわけにはいかなかった。

何故、ハルヒがこんな状態になっているか。

そのきっかけは四日前の木曜日、
鏡夜と交わされた電話の内容にあった。

鏡夜からは十二月に入った当初から、
クリスマスには仕事で出張しなければならないから、
せっかくの連休だけれど一緒に過ごせないと言われていた。

ハルヒはもともと、
それほどイベント事に固執するタイプではなかったし、
クリスマスに会えないなら別の日に会えばいいのだからと、
取り立ててがっかりしたということもなかった。

もちろん鏡夜に数日会えないということは、
クリスマスであることを差し引いても、純粋に寂しくはあったけれど、
鏡夜が仕事で何日か出張して、
週末会えないことは珍しいことではない。

だが、今回の鏡夜の出張には一つ不審な点があった。

いつもなら何時の新幹線でどこに向かうとか、
帰ってくる予定まで細かく教えてくれるというのに、
今回の鏡夜は「会えない」ということは伝えてきても、
ずっと「どこに出張にいくのか」をハルヒに教えようとしなかったのだ。

「え……フランス?」

流石に出発の日が近くなって、
ようやく行き先を明かしてもらえたのは、
鏡夜が出発する前日の、二十二日の木曜日の夜のことだった。

「出張って……海外出張……だったんですか?」
『ああ。向こうを二十四日には発つ予定だから、
 日本に着くのは二十五日になると思うが、平日だからお前は仕事だよな?』
「ええ」
『じゃあ、その日の夜にでもお前の部屋に行くよ』

鏡夜はそう言って多くは語らずに、
会話は表向きあっさりと終わってしまったのだが、
その日から、ハルヒの睡眠不足が始まってしまったのだ。

……鏡夜先輩が、フランスに行く。

そのことを想像するとハルヒの全身に寒気が走る。
海外出張と聞くと、どうしても目の前にちらつくから。


あの事故の残像が。


過去に起こったしまった不幸なことも、
失ってしまった大切なものも、
もう、全てちゃんと受け入れてはいるものの、
受け入れることと綺麗に忘れてしまうことは別問題だ。

海外出張、しかも行き先がフランスだと聞けば、
どうしてもあの事を思い出さざるをえない。

何度も繰り返して、胸が痛む。何度も、何度も……。

航空機の事故なんて、世界の統計的にも数えるほどで、
交通事故の死亡率より低いとか、
航空力学的には落ちるなんてありえないとか、
そんな確立一般論を自分に言い聞かせて、
何度も心を納得させようとするけれど。
これは理屈では解くことのできない感情論だ。

あの日、自分と鏡夜から大切な人を奪っていった飛行機事故。

その衝撃は多少薄らぐことはあっても、
その事実はいくら時間が経とうとも消えるものではない。

……明日なんて来なければいいのに。

週末にならなければ、鏡夜が出張することもなく、
フランス行きの飛行機に乗ったりすることもない。
時間を止めることなどできないのに、幾度そう願っただろう。

それでも、無情に時は進む。

『今、フランスに着いた。こっちは随分寒いが東京はどうだ?』

出発前に成田のロビーから、
そして、シャルルドゴール空港についた直後など、
ことあるごとに、鏡夜はまめにハルヒにメールや電話をくれて、
彼と繋がる瞬間瞬間には、ハルヒの心の闇は薄れる。

けれども、流石に日本時間が深夜になると、
鏡夜もハルヒを気遣って連絡をしてこなかったから、
ハルヒは何か起きていないか心配で、
テレビのニュースから目を離せなくなってしまっていたのだ。

……鏡夜先輩。無事に帰ってきてくださいね。

そうして、満足に睡眠が取れないままに過ごす一人の夜は、
ハルヒの心を黒く塗りつぶしながら、粛々と進んでいくのだ。

* * *

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