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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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私の心の半分 -9-

君の心を映す鏡 番外エピソード
私の心の半分 -9-

温かく柔らかい時の中で、私の心の半分を支配するのは貴方。

* * *

一つ目の目覚まし時計のベルは、
低血圧魔王様の前に、見事に敗北してしまったけれど、
アラームを止めるために彼の腕が自分から離れた瞬間に、
ハルヒはなんとかそこから逃れることに成功して、
朝食の準備にとりかかることができた。

味噌汁を作っているところで第二のベルが鳴り響き、
それを止めるためのガタガタという音や、
寝起きの悪い彼の唸るような低い声が聞こえてきた後、
のそのそと起きてきた彼が、無言のまま洗面所に向かうのが見えた。

あんなに寝起きが悪いなら、せめて、夜はさっさと休めばいいと思うのに。

とは思うものの、口に出せば何をされるか分かったものではないので、
その言葉は飲み込んでしまうことにする。

ハルヒがそんなことを考えている間に、
顔を洗って部屋に戻ってきた彼は、
不機嫌な表情のままコタツに入ると、ノートパソコンを立ち上げている。

まだ、寝起きのぼんやりとした様子に見えるから、
パソコンの操作をしているのは、ほぼ惰性に近い行動だろう。

とりあえず。


触らぬ魔王に祟りなし。


そう悟ったハルヒは、敢えて彼に声をかけることもなく、
朝ごはんの準備を進めながら、
彼の好きな紅茶でも淹れようとお湯を沸かし始めた。



鏡夜が目覚めたのは、
二つ目の目覚まし時計のアラームが鳴った後だったが、
本当のところ、そのベル自体で起きたのではない。
二度目のアラームを止める際に、
自分の隣に眠っているはずの彼女の方に手を延ばしたら、
そこに彼女の姿が無かったから、驚いて飛び起きてしまったのだ。

ぼんやりとした頭で部屋の中を見渡すと、
扉の向こう側、キッチンスペースのほうから、
カチャカチャと食器の擦れるような音が聞こえてきたので、
そこで鏡夜はやっと安堵の溜息をもらした。

時計を見ると、午前八時半を過ぎたあたりだった。
二度寝したい気分は勿論あったが、
仕事のメールのチェックをしなくてはならない。

だるい身体を引き上げて、洗面所に向かい顔を洗ってから、
リビングに戻り、ノートパソコンを開くとメーラーを起動する。
新規メールの受信が終わると、未読メールは優に100件は超えている。
毎朝のこととはいえ、目眩を覚えそうな数字だ。

片っ端からメールを開いて処理していると、
彼女が紅茶を淹れて持ってきてくれた。
喉を通り抜ける熱い感触が、頭の中をすうっと覚ましていく。

「おはようございます。鏡夜先輩」
「……ああ、おはよう」

寝起きの悪さ自体は、もはや自分の性格のようなもので治しようもないだろうが、
起きぬけの軽い頭痛のようなものだけは、
特効薬か何かで、どうにかならないものかといつも思ってしまう。

「朝ご飯、作りましたけど食べます?」
「ん……ああ」

半分はメールに集中していたのと、
まだどこかぼんやりとした気分が残っていた所為で、
随分愛想のない返事しか出来なかったが、
彼女はあまり気にしてないらしい。
流石に免疫が出来ている、といったところだろうか。

鏡夜とは対照的に爽やかな笑顔を残すと、
食事の準備をするために再びキッチンへと向かっていった。

その後ろ姿を見送りながら、食事を持ってきてもらう前に、
もう少しメールのチェックを進めてしまおうと、
鏡夜は再び画面に視線を戻した。



二人分の朝食の準備をして、
リビングに戻ってきたハルヒを見ると、
彼は、ぱたんとパソコンを閉じた。

「メールチェック、大変そうですね」
「今、大きな提携話が進んでいるから、その調整で少しな。
 年末まで会議や交渉が立て続いているし……」

彼は何気ない調子で答えてくれるけれど、
グループ関連会社、三社の役員を兼ねている彼は、
毎日ものすごい量のメールの処理をしなければならないはずで、
彼の事務処理能力をもってしても、決して楽な作業ではないと思う。

「鏡夜先輩。ところで今日はお休みなんですか?」
「……そのつもりだったんだが。午後から会社にいかないといけなくなった」

恨めしげに彼はパソコンを睨む。

「そうですか。なんだか退院してから、ずっと忙しそうですよね」
「まあな。だが、今回の提携さえまとまれば一段落するから、
 遅くても年内には片が付くだろうし、そしたら少しは時間ができると思うぞ」
「年内……ですか……」
「ん、なんだ? その反応は」
「いえ、そうすると……その、クリスマスも当然仕事なのかなあって思って……」
「……」

ハルヒの言葉を聞いた彼は、急に食事の箸を止めると、
なんとも奇妙な顔つきでハルヒと見つめた。

「な、なんですか?」
「いや。お前の口からそういうイベントの単語が、
 出てくるとは思わなかったんでな……今日は大雪か?」
「珍しくてすみませんね。
 クリスマスは、その……恋人というのは、
 一緒に過ごすものなんじゃないかなと思って、
 ちょっと言ってみただけですよ」

昨日の夜、彼が『共有』とかいうから、
少しは自分の感情を上手く表せるようにしたほうがいいと、
そう思って言ってみただけなのに、
すぐにからかわれてしまったから、
ハルヒは拗ねた様子で口をつぐむと、ごはんをぱくぱくと食べ始めた。

余りに長い間、条件反射的に感情を押し込めてきた自分だから、
なかなか素直に自分の気持ちを話すのは難しい。

だから、まずは素直な感情表現の特訓その一ということで、
素直に表現するには積極的になるべきなんだろうと、
ハルヒはアクティブに行動してみたというのに、実際、行動に移してみればこの有様。

結局、自分が感情を上手く表せないのは、
彼が逐一、自分の行動を面白がるからじゃないかと思ってしまう。

「別に嫌ならいいんですよ。ほんとに、似合わないのは分かってますし」



イベント事には高校の頃から全く無関心だった彼女が、
いきなり『クリスマス』がどうの、と言い出すから、
一体どういう風の吹き回しかとも思ったが、
もしかすると自分が昨日『もっと環とのことを話して欲しい』とか、
彼女に頼んだ事と関係しているのかもしれない。

彼女の真意は、鏡夜にはよくは分からなかったが、
敢えて深入りする必要も今はないと考えて、
鏡夜は彼女が作ってくれた朝食をとりうつ、普段通りに対応することにした。

「嫌なわけがないだろう? というより、
 そもそも、お前が『クリスマス』とか全く構わずに、
 仕事に没頭するんじゃないか、と心配していたくらいだ」
「さすがにそんなにデリカシーがないことはしません!」
「どうだか」
「本当ですってば!」
「くくく……」

ムキになって反論を続ける彼女があまりに可愛い様子なので、
まだまだ、からかっていたい衝動に駆られてしまう。

全く、悪い癖だ。

「まあ、さすがに連休が取れるとは思えないが、
 なんとかクリスマス当日にはお前と過ごせるように調整するつもりだから、
 また何か旨いものでも作ってくれ。
 ……本当は夜景の綺麗なレストランにでも行きたいところだが、
 どうせ、お前は外に出るのは嫌がるだろうしな」
「だって、クリスマスは街も混みますし、
 家のほうがのんびりできるじゃないですか?」

予想通りの彼女の反応に、鏡夜は苦笑いする。

「別に通りを歩くわけじゃないんだから、
 街が混雑してようが影響はない、と思うんだがな」
「それは、そうかもしれませんけど、
 鏡夜先輩が選ぶお店って、
 ちょっと自分には敷居が高いといいますか、落ち着かないといいますか……」
「ま……お前に『環のようにアクティブになれ』というのも無理だろうし、
 変に意識されて、妙な方向に人格変更されても困るからな。
 クリスマスはお前の手料理に期待することにするよ」

鏡夜としてはそれなりに彼女を褒めているつもりなのだが、
彼女は軽口の部分だけを捉えて、むくれているようだ。

「なんですか? その妙な方向っていうのは」
「高校の時に一度経験があるからな。
 部活動にはどちらかといえば無関心で消極的だったお前が、
 急に積極的にホスト部のコスプレの企画の案を俺に話してきたときに、
 ええと、なんだったか……皆で『たこやき』の衣装を着て箱に入るだの、
 『大トロ』の着ぐるみコスプレだの、
 採用不可能なアイディアを、次々と俺に持ち込んでくるから、
 あの時はさすがに俺もどうしていいか分からなかったぞ」
「そっ……そんな昔のことを今更持ち出さないでくださいよ。
 それについては、もう、光と馨にも散々からかわれてるんですから。
 もう、鏡夜先輩。自分をからかうのもいい加減に……」
「からかってるわけじゃない。無理はするな、と言っているだけだ」
「……無理?」

先ほどから鏡夜があまりにからかいすぎた所為で、
かなり、むすっとした様子だった彼女が、途端に困惑した表情を浮かべる。

「自分は、無理をしているように見えましたか?」
「……少し、な。お前が無理をしようとしているときは、
 その歪が表に出るから分かりやすい」

人が変わりたいと願うことは一般的には悪いことではない。

けれど、彼女の場合は、
今まで感情の起伏が極端に抑えられていた分だけ、
『単に思っている事を話してくれ』という単純なことを要求するだけでも、
それなりに負担をかけてしまうことは分かっている。

彼女と想いを共有したいけれど、
無理をさせることは、鏡夜の本意ではない。

「俺は、お前にはもっと色々な話をして欲しいと思っているが、
 無理矢理、別の性格になれと言っているわけじゃない。
 ゆっくり、お前のペースで、話せる時に話せることから、
 俺に話してくれればいいと思ってるだけだ。
 前にも言ったかもしれないが、ハルヒ……」

だから、その負荷のコントロールをしてやるのは、
自分の役目だと鏡夜は考えていた。



「あくまで、お前はお前のままで、変わる必要なんてないんだからな」



* * *

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