『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 番外エピソード
私の心の半分 -7- (ハルヒ&鏡夜)
この想いを伝えなければならない人と、伝えなくても分かってくれると信じている人と。
* * *
「実はさっき、久しぶりに大学の合格発表の時の夢を見たんだ。
久々にあの馬鹿のはしゃぎっぷりを思い出したよ」
再び、布団の中に戻ってきた鏡夜は、
ふうっと息を吐き出しながら、枕にどさっと頭を乗せた。
「それは、もしかして炬燵を出してたからですか?」
環が日本文化、特に炬燵に強い憧れを抱いていたことは、
ハルヒも良く知っていたから、そう聞いてみると、
「まあ、それもあるかもしれないが、
多分、この間、部屋の整理をしていたときに、
懐かしいものを発見したから、そのせいもあるだろうな」
「懐かしいものって……あ、それって受験の時の手作りお守りですか?」
「ん、どうして分かった?」
「さっき先輩が寝てたときに、スーツを片づけたようとしたら、
鍵がポケットから落ちてきて……赤いキーホルダーなんて珍しいなって思ったら、
見覚えのあるものだったんで」
「引き出しにしまってあったものを、姉に発見されてね。
折角なんで、お前に見せようと思ったんだ。
確か、環は色違いで白いお守りを持っていたんだっけな……」
彼の穏やかな低い声は、
まるで子守唄用が流れているような柔らかいトーンで、
ハルヒの耳元に滑り込んでくる。
「あの……すみませんでした。鏡夜先輩」
「何故、謝る?」
「いえ……急に環先輩の話とか……してしまって……、
色々思い出させてしまったというかなんというか……」
元気がなさそうに見えたから、
辛いことを思い出させただろうかと、ハルヒが謝ってみたら、
鏡夜は何故か笑って軽やかに答えた。
「いや? むしろ嬉しかったよ。
お陰でずっと引っかかっていたことも、すっきりしたしな」
「引っかかっていたこと?」
「それに、ハルヒ。考えてみれば初めてじゃないか?」
話を逸らされたことは分かったものの、
次の言葉も気になってしまったので、ハルヒは反射的に聞き返していた。
「初めてって、なにがです?」
「俺に……こうしてお前から、環の話をしてくれるのが」
「そうでした?」
「ああ、そうだよ」
一年前の自分は、
鏡夜に対して……いや自分の周りの誰に対しても、
環についての話題を話せるようになるなんて、
思ってもいなかったし、簡単に話したいとも思わなかった。
誰かに環とのことを話すこと。
それを繰り返す内に、自分と環との全てを一つの思い出として、
まるで、セピアな写真をアルバムに貼り付けて棚の奥にしまいこむように、
過去に置き去りにしてしまうのが怖かったから。
「そう……そういえばそうだったかもしれませんね……」
そう、今でも、その怖さは残ってる。
なのに、今日の自分はごく自然に、
環から聞いた言葉を、鏡夜に話してしまっている。
別に隠し事をするような仲では、もうないけれど、
環のこととなれば話は別だ。
温かさと、ほんのちょっとの眠さとでぼんやりとした視界の中、
気の所為だろうか、暗闇に包まれているはずの室内の色が、
微妙に変わった気がする。
遠くで明滅する光が、天井を朧に照らす。
あの光は幻?
こんな時間に携帯電話に着信なんてくるはずもないのに、
炬燵の上に置き去りの携帯電話が、
あの夜と同じように光った気がする。
そして、心の声がハルヒに静かに問いかける。
これで、いいの? ……と。
「ハルヒ。俺は環とのことを、
単なる思い出にして欲しい、なんて思ってないぞ」
「え?」
また、心を読まれてしまった……と、
咎めるように目を見張ったら、
お前は分かりやすいんだよ、と、鏡夜に鼻で笑われた。
「お前が今でも半分……いや、それ以上……かもしれないが、
環のことを想っているのは分かってる。
だが、それでも俺と生きたいと言ってくれた、お前の言葉を俺は信じてるし、
環のところにあるお前の心まで、全部欲しいと言うつもりもない。
……だが、せめて、お前があいつのことを大事に思っているその気持ちを、
俺にちゃんと共有させてほしいんだ」
「共……有?」
「お前が負担にならない程度でいいから、
時々、あいつの事を……俺が知らないあいつの言葉を、
お前の口から俺に聞かせてほしい。
俺達の中で、あいつの記憶が単なる過去にならないためにも」
「鏡夜先輩は、それで、良いんですか?」
「ああ」
鏡夜は迷いなく頷いた。
「少なくとも、俺はこれからのお前の時間は、
全部独り占めできるんだから、
それだけでも奴に対して、充分なアドバンテージだろう?
だから、せめて環が今までお前とどう過ごしていたか、
時々、聞かせてもらわないと、
『俺のことを忘れるな!』と枕元に立たれて愚痴られそうだ」
そういって顔を歪めた鏡夜を見て、ハルヒも苦笑いをする。
「なんだか、改めて思い返すと、環先輩って、
尊敬するところも多かったけれど、面倒なところも多い人でしたよね。
無駄にエネルギーを溢れさせて大騒ぎするところとか。
いつまでも子供っぽいところとか?」
「本当にな。全く、あんなに手のかかる男を愛しているというのは、
少し男の趣味が悪いようにも思うが」
「……」
鏡夜の冷やかしにハルヒは口を尖らせて、
掛け布団の下から横目で鏡夜を睨んだ。
「悪趣味といえばそうかもしれませんね……だって」
いつもは口ごもってしまうことが多いけれど、
なんだか、このまま冷やかされっぱなしなのも癪なので、
今日は、ちょっと言い返してみることにした。
「鏡夜先輩も、充分『面倒』な人ですし?」
「………………」
絶句した鏡夜が、とても間抜けた表情をしているのを見て、
よし、珍しく上手く切り返せた、と、
勝ち誇ったハルヒは笑いを噛み殺しながら、
そろそろ眠ろうかと、掛け布団を手で引き上げて、
暖かな空気の中に潜り込もうとした。
その矢先。
「……ふうん……なるほど?」
鏡夜が、ごろりと体を横にすると、
ハルヒの肩に手を回して、その体をぎゅっと鏡夜の方へ引っ張った。
「では、俺に素晴らしい『褒め言葉』をくれたハルヒには、
ちゃんと『お返し』をしてやらないと、ね?」
「お、お返し……って、あの?」
「さっきの俺は『優しくて物足りなかった』んだろう?」
「や、優しいとは言いましたけど物足りないなんて言ってな……」
……ああ、大失敗。
優しいなんて言うんじゃなかった……。
* * *
続