『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 番外エピソード
私の心の半分 -5- (ハルヒ&鏡夜)
自分の彼女への想いは、本当に誰にも負けないだろうか?
* * *
最初は、特定の誰かのことを、
指しているようには聞こえなかった。
そう、単なる一般論からスタートしたはず。
けれど、最後の環の言葉が、
特定の誰か、たった一人だけのことを指し示すように、
表現が変化していたから、
「環先輩、それって、誰のことを言ってるんです?」
疑問に思ったハルヒが突っ込んで聞いてみると、
どうやら環はそのことに気付いていなかったらしい。
「え?」
ぎょっと目を見開いて戸惑った環は、
首を微かに振ると、窓に背を向け、寄りかかりながらハルヒを見た。
「ああ……ま、まあ……今のは言葉のアヤというかなんというか……、
と、とにかくだな。俺が言いたかったのは、
その……ハルヒを大事に思っていた人達が沢山いるのに、
最近、やっと自覚したばかりの俺が、
急に横取りみたいにハルヒに気持ちを伝えてさ、
それでハルヒに応えてもらおう、なんていうのが、
少し……気が早すぎるというか、卑怯な気がして、
なんとなく自分が許せなくてさ」
一方的に捲くし立てたあと、環はこほんと咳払いする。
「だから、もう少し時間が欲しいと思って」
「時間……ですか?」
「うん。俺が本当に『誰にも負けない』って、自信を持って言える時まで、ね」
そう言って、環はにこりと笑った。
「だから、まずは、ハルヒのことを大好きな人達が、
今までハルヒを傍で見ていた時間と同じだけの長さの時間を、
俺もハルヒの傍で過ごしたいんだ。
ハルヒのことをちゃんと一人の女の子として大切に考えて、一緒に過ごして、
それで……俺が本当に勝てるって、誰にも負けないって確信できたら、
ちゃんとハルヒに言うから。
だから、もう少しこのままで、一緒にいさせてくれるかな?」
「それは構いません……けど……」
けど……。
その後は言葉にならなかった。
深く考えないままに、口を付いて出てきてしまった接続詞に、
実は自分が何を言おうとしたのか、分からなくなってしまったから。
漫然と流れる日常の生活のすぐ真裏にある、
『虚無』の存在に気付かないまま。
「だからね。ハルヒ。その時が来たら……」
今でも心に鮮やかに残る、穏やかな優しい……私が一番大好きな笑顔。
「その時には、はっきりと、ハルヒの気持ちを俺に聞かせて欲しい」
*
少し思い出話が長くなりすぎたかもしれない。
「……もちろん環先輩は、誰のことだって、
はっきり言ってたわけじゃありませんけど、
今から考えれば、あれって、
鏡夜先輩のことを言ってたんじゃないかって思えるんです。
だから、私たちが『お友達』からスタートしたのは、
鏡夜先輩の所為ともいえるんじゃないかと……」
おそらくは眠ってはいないと思う。
「……」
けれども、ぴたりと寄りそっている鏡夜は、
静かにハルヒの話を聞いている。
話終えても鏡夜の反応は無かったけれども、
これ以上続ける話題も無くて、
ハルヒが鏡夜の言葉を待って、口を閉じていると、
薄暗い部屋の中で、遠く、時計の秒針の音だけが聞こえてくる。
時は二人の周りをゆるゆると流れている。
前へ、前へ、と。一秒も止まることなく。
「……なるほど」
沈黙の降ろした帳の内で、少しばかりウトウトしていた頃に、
彼の胸元が、ゆっくり上下したかと思うと、
溜息交じりの低い声が聞こえてきた。
「奴が、そんなことを考えていたとはね」
あまり抑揚の無い単調な喋り方だったから、
ハルヒは少し不安になった。
部屋の薄暗さのに加え、
ベッドの中で抱きしめられてしまっているために、
彼の表情はよく見ることができない。
一体、彼はどんな気持ちでこの話を聞いていただろう?
* * *
続