『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 番外エピソード
私の心の半分 -4- (ハルヒ&環)
無自覚な二人が「お友達カテゴリー」からスタートしたのには理由があって……。
* * *
環と鏡夜の志望大学の二次試験も無事終わり、
合格発表を待つまでの期間、
環との「お友達カテゴリー」の進展のためと、
四月からの部の運営の相談を兼ねて、
ハルヒは週末に、須王本邸を訪れていた。
「鏡夜が俺のこと呆れてたって?」
先ほどまで、環の愛犬のアントワネットと一緒に遊んでいた時は、
アントワネットが嬉しそうに飛び掛ってくるから、
終始笑いっぱなしでゆっくり話すこともできなかったのだけど、
午後のティータイムの時間になって、
テーブルについたハルヒと環は、
紅茶を飲みながら、やっと落ち着いた会話を交わしていた。
「ええ。センター試験前に鏡夜先輩から電話があったんですよ。
環先輩が家に入り浸って困るからなんとかしろ、的な」
「入り浸って困るって……、
俺はあいつを応援しようと必死だっただけなのになあ」
「あ、でも呆れてたってのはそのことじゃなくてですね、
その時に、話の流れで、自分と環先輩が、
とりあえず『お友達カテゴリー』から始めてるって話したんですけど、
その時に、なんだか、ものすごく呆れられてしまったんですよ。
あれだけ騒いだくせに『単なるお友達』なのか……みたいな……」
「……む?」
ハルヒの言葉を聞いた環は、
お友達を馬鹿にするな! とか、
お友達だって俺にしてみれば十分すごいことなのに! などと、
ぶつぶつ不平をもらしている。
「……まあ、だが、鏡夜には色々迷惑かけたからなあ。
多少は呆れられるのも仕方ないか」
手に持った、ティーカップの中で、
薔薇色の紅茶の表面が小さく揺れる。
「本当にそうですね」
あの日。
自分が彼を拒絶して、手を振り払った瞬間に、
目の前に流れ落ちた血の色も。
二人っきりの第三音楽室で、
何かを『返してくれ』と表現した苦しそうな彼の言葉も。
朱く痕が残るほどに、
自分の手を強く握り締めた彼の指先の感触も。
全てが嘘なのだと、演技なのだと言われた今でも、
胸の奥を叩くような歪な感覚は、全く消えていない。
けれども、鏡夜との間の出来事は、
環にだけは言ってはいけない気がして、
ハルヒはひっそりと、その感覚を独り心の中に押し込めている。
……この手を離さなかったらどうなるんだろうな……。
不意に記憶の波が泡だって、ハルヒの体を震わせる。
「鏡夜の奴が呆れる気持ちも分からなくはないけど」
環はそんなハルヒの心境の変化に特に気がついていないようだ。
「でも、俺がハルヒと、まずはお友達から始めたいって思ったのは、
理由があるわけだしなあ」
「自分が、その……どうお付き合いしたらよいか分からないって言ったから……?」
「いや、そうじゃないよ。俺がハルヒと、こうしてゆっくり時間をかけて、
一緒に過ごしたいって思ったのは、実は……、
俺が、すごく卑怯な人間のような気がしたからなんだ」
「環先輩が卑怯……ですか?」
「うん」
環は、はにかんだ笑顔を浮かべて頷いた。
「俺は思ったんだ。
今まで、ハルヒの周りには、俺みたいに『娘』とかじゃなくて、
ハルヒのことをちゃんと一人の『女の子』として、
大切に考えてきた奴が沢山いただろう?
新井君とかボサノバ君とか……他にも……」
「新井君のことは自分の勘違いでしたけど、
でも、カサノバ君はただの友達ですよ?」
「それは違うだろ、ハルヒ」
「え?」
環の物腰はあくまで優しかったが、
笑顔は真顔に切り替わって、静かにハルヒを諭してくる。
「ハルヒが俺と一緒に居てくれるのは嬉しいけど、
でもそれは、他の人たちの気持ちを無視して欲しいってことじゃない。
ボサノバ君はハルヒのために、ずっと友達でいようって言ってくれたのだろう?
ハルヒにもそれは分かってるんじゃないのか?」
「そ、それは……」
「それに俺が思うに、ホスト部のメンバーは皆、
ハルヒのことが好きだと思うぞ。
先輩方も、双子達も……それから……鏡夜も」
唐突に環が変なことを言い出すから、
手が震えてしまって、紅茶を零しそうになってしまう。
「他の人はともかく、鏡夜先輩に限ってそれは無いと思うんですけど」
確かに、第三音楽室で、
俗に言う「告白」みたいなことはされたけれど、
あれは、こっちの本音を聞き出すための演技だったわけだし。
これまでの経緯からして、
鏡夜が自分を好きということだけは無いはずだと、
素直にハルヒが感想を述べたら、環は少し不自然な笑顔を浮かべた。
「……聞いて、ハルヒ。
俺はさ。そんな風にハルヒを真剣に想ってる人たちの前で、
ずっと、『部活は家族だー!』、って騒いでいた。
ハルヒへの気持ちを、ちゃんと自覚している奴らに比べて、
俺は自分の本当の気持ちにも、
そして自分の気持ちを気付かないでいた原因も何一つ分かってなくてさ。
そんな、父親気取りの馬鹿な俺の前で、
ハルヒへの本当の気持ちを隠したまま、
ずっとずっと、ハルヒのすぐ近くで、ハルヒを見守っていた奴がいるのに、
俺は、最近やっとその気持ちに気づいたばかりだろ?
だから……俺は少し心配になったんだ」
「何が心配だったんですか?」
窓一枚を隔てた向こう側の世界には、
二月下旬の真冬の寒さに覆われた空気が満ちている。
「俺がハルヒを大切に想う気持ちが」
ティーカップを置いて立ち上がった環は、
窓の傍に近づくと、窓ガラスに手を当てて、外の白い景色を見つつ呟いた。
「あいつがハルヒを好きだという気持ちに、本当に勝てるんだろうか……って」
* * *
続