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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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君の心を映す鏡 -52-

君の心を映す鏡 -52- (鏡夜&環)

恋愛事に免疫のないハルヒと環は、まずはお友達として付き合い始めているらしい。
そんなハルヒに、鏡夜はセンター試験までの一週間、環を自分の家には来させるなと依頼して……。 


* * *

ハルヒの『お友達カテゴリーから始めてる』発言には、
心底脱力した鏡夜ではあったが、
ハルヒへの電話は功を奏して、センター試験までの一週間、
環の突然の来訪に勉強が中断されることもなく、
鏡夜は独り静かな時間を過ごしていた。

さらに、予想以上に喜ぶべき展開なのは、
環とハルヒがここ一週間ばかり、昼休みは第三音楽室に行って、
どうやら一緒に食事をしているらしいのだ。

表向きは部の引き継ぎ、ということだったが、
双子の話によれば、ハルヒは毎日環の分も、
手作りの弁当を持参しているとのことだ。

しかも、放課後は放課後で、なんとあのハルヒが、
環と一緒に須王家の送迎車に乗り込んでいくのを見た時には、
焚き付けた張本人とはいえ、鏡夜は自分の目を疑った。

ここまで急激に変貌されると、
それはそれで、反動が怖い気もするんだがな。

余りの二人の様子の変化に、
鏡夜は少なからず戸惑いを感じていた。

そして、同時に……心の奥に走る一筋のノイズ
言い換えるなら、一種の不快感。

二人が自分を置いて進む、その状況を見て、
見守ると決めた心には、何も嘘は無く、
何一つ後悔はしていないはずなのに、
一人きり部屋ででぼんやりと思いに耽る時、
時折、発作のようにちりちりと焼かれるような痛みを感じるのだ。


この嫌な気分は一体、何だろう……?


こうして一週間は瞬く間に過ぎて、
センター試験を明日に控えた金曜日。

今日も環はハルヒと一緒に第三音楽室で昼食を食べるらしい。

流石に明日は本試験なわけだし、
きっと、お節介に暑苦しく応援でもされるのかと思ったら、
環は「それじゃあ、鏡夜またな!」と言っただけで、
そそくさと教室を出て言ってしまった。

一週間前には、「センター試験まで毎日応援にきてやる」なんて言っていたくせに、
ハルヒとのデートに浮かれているのか、すっかりこちらのことなど忘れているようだ。

試験前日ということで、今日はもう午後の授業は無い。
鏡夜は帰宅する前に2-Aの教室に立ち寄って、ハルヒを呼び出すことにした。

「ハルヒ、順調そうじゃないか。悪かったな、環のお守を押しつけて」
「あ、鏡夜先輩。いよいよ明日ですね。調子はどうですか?」

丁度、ハルヒも第三音楽室へ向かうところだったらしい。
おそらく手作りの弁当が入っているのだろう、重そうな手提げを持っている。

「ああ、お前のおかげで勉強に集中できたよ。
 それにしても、休日だけでなく、平日も須王邸に行くなんて、
 お前にしては随分がんばっているな」
「え? あ……だって……その、
 鏡夜先輩の命令を聞かないと後が怖いじゃないですか」
「ふふ、まあいい。これは俺からのだ」

そう言って、鏡夜はハルヒに平べったい白い紙袋を手渡した。

「なんですか?」
「うちの家族が取り寄せてくれたものなんだが、
 俺には不要なものだったんでね。
 お前だったら役立ててもらえるんじゃないかと」
「え、ご家族からの贈り物なんて、もらうの悪いですよ」

そう言って、ハルヒは紙袋を返そうとしたが、
鏡夜は制服のズボンのポケットに手を入れて、それを拒否した。

「そうは言っても、俺には使えないものなんだから仕方ないだろう?
 お前がもらってくれなかったら捨てるしかないんだ。
 この一週間、環の相手をしてくれた礼としてもらってくれ。
 それに、全く値段的に高価なものではない庶民的な一品だから、安心しろ」
「そ、そうなんですか? まあ捨てるくらいなら……ありがたく受け取っておきます」

そんな、ハルヒの背後では、
鏡夜からなにやらプレゼントされているハルヒの姿を見て、
「鏡夜様からハルヒ君に贈り物をしてますわ!」などと、
いつものように、きゃーきゃーと、れんげが騒ぎながらメモを取っている。

そんな光景にくすくす笑いながら、鏡夜は2-Aの教室を後にした。

何ら変わりない、普段の景色。


……自分の隣に、環がいないことを除いては。




いよいよセンター試験当日がやってきた。

センター試験の日には何故か大雪が降ることが多いが、
この日の空は、とても綺麗に晴れていた。

受験会場の大学前には、
普段の学院への登校のように、送迎車を横付けすることはできなかったから、
大学に向かう道のりの、若干手前で車を降りた鏡夜は、
マフラーに顔を埋めると、正門へと一人歩いていった。


【受験会場前で鏡夜を待っていたもの】 


「あ、来た来た。鏡ちゃんだあ~」

大学の敷地内へと続く受験生の人混みの向こうから、
聞き覚えのある声がして、鏡夜が顔を上げると、
人垣の向こうに頭一つ出た形で、
崇の姿と、その上に肩車されている光邦の姿が見えた。

「ハニー先輩、モリ先輩。わざわざいらしてくださったんですか?」

近づいて声をかけると、
光邦はぴょんと崇の肩から地面に軽やかに飛び降りた。

「うん。応援にこなきゃと思ってさ。鏡ちゃん、いよいよだねえ~」
「鏡夜。調子はどうだ?」
「ここ一週間静かに勉強できたので、まあ、悪くはないですね」

まだ試験説明開始までには、時間に余裕がある。
鏡夜が時計をちらちらと確認しながら、二人の先輩と話していると、
今度は自分の背後から、再び知っている声が聞こえてきた。

「あ、いたいた。馨、こっちに鏡夜先輩居たよ!」
「待ってよ、光!」

息を切らして駆け寄ってきたのは光と馨だ。

「お前達も来たのか?」
「うん。だってホスト部で受験するのって鏡夜先輩が初めてだしさ。
 ちゃんと応援しないと、と思って」
「本当は光と一緒に横断幕でも作って、
 チカとか悟とかも呼んだりして、盛大に応援しようかと思ったんだけど、
 道路使用許可が下りなかったんだよね。
 さすがに試験日ともなると、規制が厳しいよね」

大学の正門前には、各高校の教師だろうか、
沢山の大人達(頭に鉢巻きをしたり、のぼりを持ったり)が激励に訪れていて、
その間を学生が歩いていき、次々と正門の中へと入っていく。

列の邪魔にならないように、
五人は、人の流れから外れて、正門の脇に陣取った。

「でも、鏡夜先輩なら楽勝でしょ?」
「そうそう。なんてったって、うちの学院の主席だしね」
「鏡ちゃんなら、絶対絶対大丈夫~!」
「がんばれ、鏡夜」

そんな四人の励ましの言葉に頷きつつも、
鏡夜は周囲の人ごみに視線を投じて、
残る二人の姿を、無意識の内に探してしまっていた。

「そういえば、環とハルヒは来てないんですね」

まただ。

また、気味の悪いノイズが聞こえる。

最初は、ハルヒを独占状態の環に対する無意識の嫉妬の現れなのか?
とも考えてみたわけだが、一週間考えてみて、
そういう類のものではないと結論付けた。

大体、自分から二人がそうなるように仕向けておいて、
嫉妬も何もあったものではない。

この不快感は、どちらかといえば焦りとか、怖さとかいった、
自分の心の内側に、するすると落ちていくような冷たい感情に思えた。


なんだろうな。この『何かを忘れている』ような、変な気分は。


「いや、本当は今日僕らに『ここに来い』って言ってたのは殿なんだけどさ」
「なんかね、殿が忘れ物したとかで、
 ハルヒと一緒に取りに戻るってメールがあったんだよ、ほらこれ」

光は鏡夜に携帯電話のメールの文面を見せる。

「忘れ物ねえ」

ただ応援にくるだけなのに、
いちいち取りに返らなければならない忘れ物とはなんだろうか。

それこそ、先ほど馨が言っていたような横断幕やら、
派手なのぼりやらを持ってこられても逆に迷惑だな、と考えつつ、
鏡夜が再び時計を見ると、試験説明の時間が間近に迫っていた。

「まあ……あと10分ほどで着席時間になりますし。そろそろ俺は行きますね」

環とハルヒの姿を探すのを諦めて、
鏡夜が正門に足を一歩踏み出した時だ。



「うあああああ、鏡夜は何処だあああああ!!」



着席時間が近づいているために、
全体的に小走りになって会場へ向かう学生達が、
皆、思わず足を止めて振り向くくらいの大声で、
猛然とこちらにダッシュしてくる男がいる。

「ちょ、ちょっと環先輩、騒ぎすぎですってば……」

その後から、もたもたと走ってくるのはハルヒだ。

「鏡夜! はあ……良かった……間に合った……か!」
「殿。全然間に合ってないじゃん。もう9時になるよ?」
「遅くても8時半には正門前に来ておけって僕らに言ってたのに」
「たまちゃんは、本当にしょうがないねえ」
「環、遅刻」
「全く相変わらず騒々しい奴だな」

皆がチームワーク良く一斉に環を責めると、環の顔が急に青くなって、

「ちょっと……全力で……走ったから……息……苦し、ごほごほほ」

どうやら相当必死に走ってきたらしく、
環は前屈みになって太ももを押さえると、ごほごほと咳き込み始めた。

「何をしてるんだ……ほら、大丈夫か?」

鏡夜が仕方なく環の背中に手を回して摩ってやっていると、
やっと、ハルヒが追いついてきた。

「はあ。やっと着いた。鏡夜先輩、おはようございます。
 なんだかギリギリになってしまってすみません」
「環が何か忘れ物をしたって?」
「ええ、よりにもよって一番重要なものを忘れたとかいうんで……、
 あ、そうだ鏡夜先輩、これを……、
 自分、お弁当作ってきたので、良かったら昼休みに食べてください。
 お茶も入ってますし、それから皆からの応援のお守りが……」

ハルヒはそういって大きめの手提げ袋を鏡夜に差し出した。

「お守り?」

受け取りながら、手提げ袋の中を覗き込むと一番上に、
赤い布で作られた小さな長方形の……、
いわゆるオーソドックスなお守り袋らしきものが入っていた。

「横断幕は無理だったけど~、
 せめて皆で鏡ちゃんを応援してるって気持ちが、
 伝わるようなことができないかなって、考えててねえ」
「一応、布の準備とデザインと裁断は僕と光でやって、
 縫ったのはハルヒなんだよね。絵は描けなくても裁縫はできるってことで」
「お守り作ろうってアイディア出したのは、珍しくハルヒだったし」
「ちょっと、馨も光も! 絵のこととか、珍しくとか言わないでよ。
 まあ、正確にはモリ先輩が、以前にホスト部のミーティングで言ってた、
 『家内安全のお守り』って意見を思い出して、
 今回作ろうって思いついたんですけどね」

ハルヒが言う崇の意見というのは、
依然、れんげから頼まれて、れんげが発行している同人誌につける付録を、
ホスト部で企画していたときに、そのミーティングで崇が出したアイディアのことだ。

「というと、中にはもしや……」
「うん! ピヨちゃんの羽根が入っているんだよ~。
 鳥の羽根っていいでしょ? 高くとんでけ~みたいなご利益がありそうで」

鶏は空を飛べただろうか……などと鏡夜が考えていると。

「安心しろ、鏡夜」

崇の低い声がそんな鏡夜の思考を遮った。


抜け落ちていたものを拾って入れたから、動物愛護的にも問題はない」


確か、雑誌の付録につけようという話をしていたときは、
そんなにたくさんの羽根をお守りに入れるために取ったら、
動物愛護的にどうなんだということになって、
速攻、却下になった意見だったから、
そのことを気にして崇は発言してくれたようなのだが。


「……ちょ、モリ先輩。この場で『落ちる』って言葉は厳禁じゃ……」


当然と言えば当然のハルヒの突っ込みに、黙り込む一同。

「あはは」

試験前だというのに、
あまりといえばあまりの周囲の緊張感の無さに、
鏡夜は笑いだしてしまった。

「ま、俺は別にそういうことは気にしませんよ。わざわざ有難うございます」

なんだか、良い意味でリラックスできたようだ。

「ところで、ハルヒ」

受け取った手提げ袋があまりに重いので、
鏡夜が中を確認すると、お守りのほかに、
ステンレス製のポットと、ハンカチで包まれた弁当箱が入っているのが見えたが、
なぜか弁当箱の数は一つではなく、
ざっと見た感じでは、三、四個ほど入っているようだ。

「お守りはともかく、なんだか妙に弁当の量が多くないか?」
「それは俺の分も入っているからだ! 鏡夜」

お守りをつくったとか騒いでいるときには、終始静かだった環が、
突然大きな声で、ハルヒとの会話に割り込んできた。

「お前の分?」

まさか、開始前の応援だけじゃなくて、
昼休みにも来るつもりなのか、と考えていた鏡夜の目の前に、
環はコートのポケットから一枚の紙を取り出し、鏡夜の鼻先に突きつけた。

「ほら、鏡夜、これを見てみろ!!」

環がそういって出したのは、
紛れも無くセンター試験の受験票で……、
そこには『須王環』の名前と、環の写真が貼ってある。



「俺も今日、センター試験を受験するからな」



* * *

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