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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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君の心を映す鏡 -5-

君の心を映す鏡 -5- (鏡夜&ハルヒ)

鏡夜が、環とは別の大学への進学するのは、ハルヒと環の二人の傍に居たくないからではないか。
そんな、馨の追及を否定しつつも、心中穏やかでない鏡夜。そこへハルヒがやってきて……。

* * *

ハルヒが環への恋心に自覚さえしなければ、
環の設定した『家族ごっこ』に付き合い続けても、
それほど苦ではなかったかもしれない。

ハルヒに密かに想いを寄せる、鏡夜にとっても、双子にとっても。

けれども、ハルヒの周りを取り巻く環境は、
彼女の心を無自覚のままに留まることを許してくれなかった。

まだ、ハルヒが入部して間もない頃。

ハルヒに向かって「俺たちだけのお姫様でいてください」と言ったのは環だったはずで、
夏休みに皆で、ハルヒのバイト先の軽井沢に押しかけたときも、
環の知らないところで、皆がハルヒを個々に誘っていたことを聞いた途端、
自分は皆で楽しめるプランを考えていたのにと、不満を漏らしていた。

環は、「俺達」とか「皆で」という言葉をよく使う。

フランスに居た頃は、父親と会えるのは年に数回で、
日本に来てからは今度は母親に会うことを禁じられ、
そして現在は、本邸に入れるようになったとは言っても、
かつては、祖母からは妾の子として疎遠に扱われていた。

その経験が、環を異常なほど家族の絆に執着させている。

「幸せな一家団らん」の絵図は、環の夢の一つで、
彼が部活動にそれを投影しているということを鏡夜はよく知っていた。

そして部活動における「一家団らん」、環が作った家族設定が、
壊れることを極端に嫌がっているということも。

「すみません、遅くなりました。あれ? 鏡夜先輩ひとりですか?」
「ハルヒ」

双子から遅れること十数分、鏡夜は準備室の戸口から、
中を覗き込んでいた人物の名を呼んだ。

藤岡ハルヒ。

桜蘭学院で稀な特待生として入学してきた平凡な一庶民が、
ホスト部に入部したことは、最初はなんの因果かと思うときもあったものの、
彼女の飾り気ない態度や鋭い観察眼には驚かされることも多く、
半年もたたないうちに、部員達にとって、なくてはならない存在になっていた。

だが、鏡夜も含め部員達全員が、ハルヒの魅力に影響されていくに従って、
それまで同じ立場で結びついていた部員達の輪が、どこか歪になり始めた。

そして、なんと皮肉なことに、
部を家族に見立て、部員同士の絆に一番気を使っていた部長の環自身が、
ホスト部員たちとハルヒとの関係を壊す嚆矢を、
無自覚に放ってしまったのだ。


ハルヒの心をいつのまにか捉えるという行為で。


「文化部連合での話し合いが長引いてしまって、
 ミーティングはもう終わっちゃったんですか?」

そのことを、環が自覚したら、奴は一体どういう反応を見せるだろう?

鏡夜の考えていることなど知る由もなく、
ハルヒは小首を傾げて準備室に入ってくる。

「いや、今日のミーティングは中止だ。環が急に帰ると言い出したんでな。
 光と馨も、ついさっき帰ったところだ」
「急にって、環先輩、何かあったんですか!?
「……」

環が突然帰ったと聞いたハルヒの声が心なしか上ずった。
鏡夜はパソコンの画面に顔を向けたまま、
一瞬だけ、上目遣いに瞳をちらりと動かす。

環の前では、赤面したり、ぎこちない動きになったり、
不自然に避けたりすることもあるというのに、
本人がいないところでは他の誰よりも環のことを心配してみせる。


『鏡夜先輩が敢えて他の大学を選ぶ本当の理由は、
 あの二人のことを傍で見ていたくないから、なんじゃない?』



先ほどは馨の言葉に乱されかけた心の表層が、
再びゆらゆらと微かに震えた気がする。

いや、何を惑うことがある?

無自覚に環のことに肩入れするハルヒの言動は、
今までだって散々見慣れた光景のはずで、今日に限ってのことではない。

何を今更、苛立つ必要があるというんだ。

「特に環に何かあった、というわけではないが……」

鏡夜は、心の中でぼんやりゆらめく炎を消し去るように、
先ほど双子に話したのと同じ理由を、口早に説明する。

どうせハルヒにも、双子達と同じように非難されるんだろうと覚悟の上で。

「ああ、道理で……。
 環先輩、鏡夜先輩の受験のことをちっとも騒いでいないから、
 なんだかおかしいなあって思っていたんですけど、
 やっぱり話してなかったんですね」
「お前は以外に冷静なんだな。光と馨からは酷いだのなんだの散々言われたが」

ところが、ハルヒは拍子抜けするほどあっさりと頷いた。

「まあ、確かに、直前まで内緒なのは少し酷かったかもしれませんけど、
 進路って他人に遠慮とかして決めるものではないと思いますし、
 自分で自分のやりたいことを考えて選ぶのが一番だって思うんですよ。
 でも、もし鏡夜先輩が国立受験って知ったら、
 環先輩、ものすごく反対しそうじゃないですか?」

ハルヒの父であり、鏡夜のメル友でもある蘭花から、
桜蘭学院への受験について、
ハルヒは一人で勝手に決めてしまったと聞いたことがある。

感情論ではない、冷静な物言いは嫌いではない。

だから、「なるほど、いかにもハルヒらしい考えだ」と、
鏡夜は少なからず感心しながら聞いていたのだが、
その直後、ハルヒが準備室の戸口で腕組みして、
うーんと唸っていたので、鏡夜は作業の手を止めると彼女に声をかけた。

「どうした?」
「いえ、実は部費の補助の届けを出すにあたって、
 部の活動状況を記入してくるようにって申請書を渡されたんで、
 環先輩に記入事項を確認しようかと思っていたんですが」
「申請書? どれ、見せてみろ」
「あ、はい。これです」

手に持っていたA4の用紙一枚を鏡夜に手渡すと、
ハルヒはそのまま鏡夜の隣の席に腰掛けた。

「なるほど。年間の部活動の実績の記入が必要なわけか」
「うちは運動部みたいに大会があるわけじゃないですし、
 文化部みたいにコンクールとかもありませんしね。
 でも、一通り記入しないと部費の補助が出ないというわけでして」
「そうか……ま、お得意様限定のシークレットイベントについては、
 正規の活動としては認められにくだろうから、
 一般生徒向けのダンスパーティーとか、桜蘭祭での一般公開とか、
 そのあたりをまとめておけばいいんじゃないか。
 今までのイベントについては記録をとってあるが、今、見ていくか?」
「はい。お願いします」

結局、環に中断された作業は出来そうにないと鏡夜は判断して、
作業中のデータを閉じると、イベント関連のいくつかのファイルを開いて、
ハルヒの方にノートパソコンの画面を向けてやった。

【鏡夜はノートパソコンのキーに手を伸ばす】 

「でも、環先輩が機嫌悪くなる理由もわかる気はしますけどね」

椅子を少し鏡夜の近くへ寄せながら、
パソコンの画面を覗きこみ、イベントの実施時期や内容を転記しつつ、
ハルヒは再び先ほどの話題を口にした。

「何故だ?」
「だって。ほら……鏡夜先輩って『お母さん』だから」
「……」

鏡夜の問いに対する、何気ないハルヒの答えに鏡夜は絶句する。

環の無自覚な家族設定には、ほとほと呆れ果てているというのに、
ハルヒおまえもそうなのかと、軽い目眩さえ覚えた。

「ハルヒ。お前まであの馬鹿の妄想を引き合いに出すのか?」

なぜ十八にして三人の子持ち設定で、しかも俺が母親役なんだと、
憮然と答えてやるとハルヒはくすくすと笑う。

「ハルヒ、お前はそう笑うが……、
 そもそもお前はこの家族設定のことを、どう思ってるんだ?」

ハルヒに悪気はないのは分かっているし、
単なる言葉のあやだったのかもしれない。

けれども無自覚に笑う彼女の表情が、
余りに無邪気でありすぎたために、鏡夜の心をちくりと突いた。

「お前はこのままで構わないのか?」
「このままで構わないかって、何がです?」

ハルヒは時折パソコンのキーを人差し指で押しながら、
画面を切り替えつつ、さらさらとペンを動かしている。

「環がお前の『父親』で、お前が『娘』という設定が続けば、
 結局、家族ごっこの馴れ合いのままであと数ヶ月で環は卒業するんだぞ

記入を続けるハルヒの表情は、
それほど変わったようには見えなかったが、
卒業という言葉を出した時に、
ほんの少し動作がぎこちなくなったようだ。

「それは……環先輩のテンションには、
 時々ついていけないときもありますけど、
 まあ、楽しくていいんじゃないかと思いますよ」

ハルヒの答えの焦点が、鏡夜の質問の意図から微かにずれているのは、
無意識にやっていることではなく、故意にやっていることだろう。

鏡夜が先ほど、馨の質問に答えたときと同じように。

「お前は確かに天然で、それはお前の中学校時代の友人の、
 新井君との件でも充分わかっているが……。
 だが、お前が恋愛に疎いということと、
 あの馬鹿が家族設定を続けていることは、同じ無自覚でも、少し意味が違うと思うが」
「鏡夜先輩、あの……何のことを言ってるのか……」
「わからない、と?」

ハルヒ、お前はとっくに気付いているんだろう?

今、自分にとって誰が一番大切で、
誰のことが、自分の心の中でもっとも大きな比重を占めているのかを。

「環は未だに本気でお前のことを、
 『娘』として大事なんだと思っているようだが……、
 少なくとも、お前は環の事を、あの馬鹿の家族設定に乗って、
 『父親』として慕っているというわけではないだろう?」
「……」
「環のことをどう想っているのか、
 ハルヒ。お前はもう自覚しているんじゃないのか?

鏡夜の指摘が図星だったのか、
ついにハルヒは完全に手を止めてしまった。

「じ、自分は……環先輩が楽しそうにしているのを見ていると、
 すごく優しい気持ちというか嬉しい気持ちになりますし……」

ハルヒは右手のペンをぎゅっと握ったまま俯いて、
あるところからぴたりと記入が進んでいない、書類のほうをじいっと見つめている。

「家族のことも、あんなにつらいことがあってもそれを全部消化していて、
 正直、凄い人だなって思っています。
 もちろん『父親』だとか、そんな風には当然思ってませんけど、
 環先輩のことをどう思っているか、という質問なんでしたら、
 あくまで先輩として尊敬しているとしか……
先輩として尊敬、ね」

鏡夜は眼鏡の縁を微かに持ち上げながら、
ハルヒを見て意地の悪い笑みを浮かべた。

「俺は、てっきり、お前は環に対して、
 恋愛感情があるんだと思っていたんだが、それは俺の勘違いか?」
「れ、恋愛感情なんて……そ、そんなことは……、
 じ、自分は環先輩のことをそんな風には……」

鏡夜の直接的な質問にハルヒは慌てて首を振ったが、
しかし、赤面してしどろもどろに答えている態度は、
まるで否定になっていない。

ハルヒ。お前がそういう態度をとるというのなら。

「そうか。なら、恋愛対象としては考えていないということか」
「そ、そうです……」

環への想いを『尊敬』という言葉で片付けようとするなら。

「では、ハルヒ。今、俺がお前のことを好きだと言ったら、どうする?」
「鏡夜先輩に好きだと言われたら……って、え?

あくまで無自覚を装うなら、それでもいい。

椅子から立ち上がった鏡夜は、
机の上でペンを握っている彼女の右手首を、
鏡夜の右手で押さえるように握り締めると、
左手は彼女が座る椅子の背もたれに添えて、ハルヒをじいっと見下ろした。


俺も自分の思うようにするだけだ。


「ハルヒ。俺と付き合ってくれないか?」
は、はい? きょ、鏡夜先輩?」

環のことを語っているときは、照れて真っ赤だったハルヒの顔は、
間近に迫った鏡夜の鋭い眼差しに若干蒼ざめたようだが、
鏡夜は押さえつけた手を離すことなく、もう一度、彼女に向かって囁いた。


「環のことを、お前が本当になんとも想っていないのなら、
 俺と『恋人』として付き合ってくれないか、と言っている」



* * *

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