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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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君の心を映す鏡 -4-

君の心を映す鏡 -4- (鏡夜&馨&ハルヒ)

鏡夜の隠し事に落ち込んだ環が先に帰ってしまった後、一人残された鏡夜の元に双子がやってくる。
部長がいないので引継ぎのミーティングは中止と告げる鏡夜に、帰り際、馨が突然質問をしてきて……。

* * *

「……鏡夜先輩。僕ね、思ったんだけど」

どこか物憂げな表情で、馨は鏡夜と視線を交錯させる。

「鏡夜先輩が敢えて他の大学を選ぶ本当の理由は、
 あの二人のことを傍で見ていたくないから、なんじゃない?」
「あの二人?」

馨が誰と誰のことを言っているか。
そして馨が何を確かめたいのか。

鏡夜はすぐに分かったが、どことなく含みのある馨の物言いに、
素直にその言葉の意味を理解した素振りをする気にはならなかった。

「とぼけちゃって。殿とハルヒのことに決まってるでしょ?」

予想通りの二人の名前を並べ、
馨は鏡夜を問い詰めてきたが、
それでも、鏡夜は少しも動じた様子を見せることはなかった。

そう、あくまで表面上は。

……馨は、俺があの二人に嫉妬をしている、とでも言いたいのか?

ぴくりとも動かさない表情の下で、
鏡夜は少なからず怒っていたのだ。

……そんな理由で、俺が環と別の大学へ行くと決めた、と?

彼の本心を明かした覚えなど全くないというのに、
考えはお見通しだと言わんばかりの馨に、
鏡夜は苛立ちを覚え始めていた。

「ああ、あの無自覚カップルのことか?」

……馬鹿馬鹿しい。

他人を上から見下すような嘲笑を浮かべながら、
鏡夜は馨の視線から目を離すと、パソコンの電源を入れなおす。

「確かに、どうみても明らかにお互い意識してるんだから、
 いい加減どうにかならないかとは常々思っているが……。
 まあ、そういう意味では、傍で見ている分には、
 少々面倒かもしれないな、あの二人は」

ノートパソコンの小さな起動音を聞きながら、
画面が立ち上がるのを待っていると、
馨が、はあーっと意味深に息を吐き出す音が聞こえてきた。

「そういう意味じゃないけど。僕が言ってるのは」
「他にどういう意味が?」

キーボード上に指を置けば、
カチャカチャというキーを叩く音が普段の自分を取り戻させて、
小波が立つ心を自然と押さえ込んでいく。

「へえ。じゃあ、鏡夜先輩は何もしないで諦めるんだ?

……諦める?

「何を言いたいのか、よくわからんな」

……何を?

「大体俺は……」

涼しい顔つきを保っていた鏡夜だったが、
終始、自分を軽蔑するような口調の馨に、
さすがに反論をしようと口を開きかけたとき。

「おい、馨。何してんだよ? 帰らないのか」
「ああ、ごめん光。今行くよ」

光の声が第三音楽室に戻ってきたので、
馨は慌てて準備室の扉の向こうに返事した。

「鏡夜先輩。言っとくけど、
 無自覚なのはあの二人だけとは、僕は思ってないからね?

最後に鏡夜を鋭く睨みつけた馨は、
納得できないような顔つきのままそう言い捨てて、
準備室を出て行ってしまった。

……無自覚なのは環とハルヒだけじゃない、だって?

二人の足音と声が次第に遠のいて、再び静寂が訪れた後、
鏡夜はキーボードを打つ手を止めて、眼鏡を外すと前髪を掻き揚げた。

……その言葉を、俺に向かって言ってくるということは、
馨は、この俺自身も無自覚だと言いたいのか?

この俺がハルヒのことを好きなのに、
それに自分で気付いていないと。
気付かないままに無自覚に嫉妬して、
二人の前から消えようとしていると。

そういう風に、馨は俺のことを思っているということか。
以前の光や、今の環と同じように。

見当違いも甚だしい。

恋愛なんて面倒なだけで、何のメリットもない非生産的行為。
全ての人間は何らかのメリット、
主に経済的なそれがあるからこそ結びついているものだと。

そう教えられ、生きてきた昔の俺だったら、
ハルヒのことは、桜蘭学院には珍しい奨学生、ということで多少興味は持っても、
それ以上に深く関わろうとする気も無かっただろう。

だが、俺は知ってしまった。

もしかしたら知らないほうが、
全てをメリットだけで片付けてしまったほうが、
およそ非論理的な、別の苦しみを味わうことなく済む分、
幸せだったのかもしれないが。

それでも、俺は気付いてしまった。

環と出会って、そして環が立ち上げたホスト部のおかげで、
メリットというものが家柄同士や仕事上の取引関係とか、
そういったものだけが利益なのではなく、
他にもいくらでも大切なものはあるんだということ。

それこそが自分にとっての本当のメリットなんだということに。

環のことを、最初はただのふざけた奴だと思っていた。
だが、奴に諭されなければ、
そんな簡単なことさえ気付かずにいた自分こそが、
ただ親の手のひらで踊らされていた道化だったのだと思い知った。

人の心を赤裸々に暴く不思議な魅力をもった男。

環みたいな奴は、この世界には二人といないと思っていたのに、
高校二年の春、予想外の事態が起きた。


もう一人、俺を見抜く奴が目の前に現れたからだ。


それが……。

「すみません、遅くなりました。あれ? 鏡夜先輩ひとりですか?」

【準備室と音楽室をつなぐ白いドア】

鏡夜の考え事を中断したのは、
準備室と音楽室を繋ぐ扉の隙間から、
ひょこっと顔を覗かせた人物の呼びかけだった。

余りに思索に没頭していたせいで、
さすがに一瞬どきりとして、鏡夜は慌てて外していた眼鏡をかけ直した。
いつものように眼鏡のフレームを指で押し上げれば、
その間になんとか落ち着きが戻ってくる。

そして、鏡夜は現れた人物の名前を呼んだ。

「ハルヒ」

環以外で……自分の心に入り込んできた『もう一人の人物』の名を。

* * *

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