『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
君の心を映す鏡 -49- (鏡夜&環)
環はハルヒに想いを伝えて、ハルヒは環を選び、
ホスト部員達はそれぞれが抱えていたハルヒへの想いに、決着をつけて二人を見守る。
そして、新しい年を迎えた一月。センター試験を一週間後に控えた日のこと……。
* * *
「……で、なんでお前は、毎日毎日俺の家に来ているんだ?」
十二月後半から一月にかけて、センター試験当日までの間、
三年生は通常授業ではなく、入試用の特別カリキュラムが組まれていて、
鏡夜も含めセンター試験を受験する生徒達は、
内部進学するクラスとは別枠で、特別授業を受けていた。
環も鏡夜も、まだホスト部には在籍している。
卒業のギリギリまで部を引退しないのは、
桜蘭学院特有のものだと思うが、
この時期は、当然、ホスト部の活動も休みだったし、
環と授業も重なることも無くなって、帰宅時間も異なっていたから、
顔を合わせる時間も減るだろうと思いきや、
鏡夜と仲直りをして以来、
環は何かと理由をつけては鏡夜の家に遊びに来るようになっていた。
須王グループの後継としての勉強も、
年明けから三月までのこの時期は、
年度末の決算前で事務手続きが繁忙期にあるということもあって、
しばらくミーティング見学などは休みということらしい。
「おかえり、鏡夜!」
今日も嬉しそうに炬燵に入って、
満面の笑みを浮かべて環は鏡夜を向かえる。
「補講は大変だったろー。今、お茶を入れるからな!」
すっかり鳳家の使用人とも顔なじみの環は、
使用人に指示して、日本茶と茶菓子を持ってこさせると、
急須から湯飲みに日本茶を注いで鏡夜の前に置いてくれた。
ここは、うちの家じゃなかっただろうか?
なのに、何故、自分がもてなしを受ける側なのかと、
鏡夜はなんだか理不尽なものを感じると同時に、ちらりと腕時計に目をやった。
「……環。今日は何月何日だ?」
「ん? 1月11日だろう~?」
「……で、来週の土日は何がある?」
「来週というと、1月19日か?
一月の日本の行事といえば正月三箇日に成人式だよな。
あ、でも、成人式は1月14日だし……何があったっけなあ」
環はもう一つの湯飲みにもお茶を注ぎつつ首をかしげている。
「センター試験」
湯飲みから立ち上る緑茶の薫りは、
本来ならリラクゼーション効果もありそうなのだが、
鏡夜は不満げに、ぼそっと答えを明かした。
「おお、そうだな、来週はいよいよセンター試験だな!」
「そういうことだ。だからお前も毎日のようにウチに来るのは……」
「そうかそうか。いよいよ試験か。
鏡夜もいよいよ追い込みということになるだろうし、
俺も毎日全力で応援にきてやるるからな!」
なるほど。
試験前は遊びに来るなと言いたかったが、
これは、こいつなりの応援の形だったわけか。
「今日も鏡夜にリラックスしてもらおうと、色々とお菓子を買ってきたのだ!」
と言って、環は炬燵の天板の上で、
持参した手提げの袋をがばっと逆さまにした。
途端、ざらざらざらっと大小様々な箱やら包みやらが、
机の上にぶちまけられる。
「……」
その量とその中身を見て鏡夜は絶句した。
そこに広げられたのは、環がハマっている、
大量のオマケ付き庶民菓子だったからだ
なんだろう……物は若干違う気がするが、
ごくごく最近、同じような光景を目にしたような気がするんだが。
あまり良いイメージのない既視感に、
鏡夜は軽い目眩を覚えてこめかみに手を当てた。
「最近の庶民菓子はすごいぞ。
このオマケはシリーズになっていて、
中でも特に『シークレット』と言われるものが、なかなか出なくて貴重なのだ。
ほら、これなんて鏡夜は好きそうじゃないか。
日本の武将シリーズ、戦国時代編!
兜と鎧のセットになっていて組み立てて飾ることができるんだぞ」
「……」
歴史物が好きなのは、モリ先輩の間違いでは?
鏡夜は明らさまに引いていると言うのに、
環は楽しそうに説明を続けながら、次々と菓子を開けていく。
「それに、この動物シリーズ、日本の野鳥編を見てみろ!
お菓子も含めて290円という、こんなにも廉価な品物なのに、
なかなか精巧な作りだとは思わないか!」
最近はずっと、こんな調子で、
環に夜遅くまで粘られた挙句、
家では勉強らしい勉強が出来ない日が続いていた。
「おい、環」
「ん?」
「お前が俺の家に来る理由は分かったが、
それにしても、土日も最近は殆どうちに来ているだろう。
ハルヒのことを放っておいて構わないのか?」
オマケのオモチャを組み立てながら、
にこにこしていた環の顔が一瞬にして曇る。
「……それがな……」
どうやら、久々に地雷を踏んでしまったらしい。
「……俺もハルヒと一緒にどこか遊びにいきたいとは思っていたのだ。
ハルヒの手作り弁当でピクニックへ行ったり!
手と手をつないで、波打ち際をお散歩したり」
「今は冬だが」
「う……まあ、単なる例えだ! 例え!
だけどな、ハルヒが言うんだ。
『今、三年生は受験前の大変な時期なのに、
自分達だけ遊びに行ったりするのは良くないと思う』ってさ」
確かに、ハルヒが言うことには一理ある。
実際に各大学の入試を受験するかはともかくとして、
3-Aの生徒のうち半数以上は、
来週実施されるセンター試験は一応受験することになっていたから、
この時期に理事長の息子が、
浮かれた行動をするのは、避けるのが賢明だろう。
「なら、遊びに行くのではなくて、
家にでも呼んで、一緒に勉強でもすればいいじゃないか。
もう、ハルヒを本邸に招待しても、
会長から文句を言われることはないんだろう?」
「まあな……そりゃ『ハルヒと一緒にお勉強計画!』は、
俺も考えてはいるのだが、ハルヒから提案されるならまだしも、
あんまり俺からばっかり『ハルヒと一緒にいたい!』と言い過ぎたら、
ハルヒに鬱陶しく思われやしないかと不安なのだ。
大体、俺は毎日ハルヒにメールをしているというのに、
ハルヒからはあんまりメールもくれないし……」
「……」
それはハルヒが、単に『メールと打つ』という手間がかかることが、
苦手なだけなのではないだろうか。
と、鏡夜は思ったのだが、環の悩みは深刻なようだった。
「とりあえず状況は分かった。
まあ、ハルヒと上手くいってないというわけではないなら、
そんなに落ち込むことはないだろう?
受験や卒業試験が終わったら、
春休みに京都あたりに、二人で旅行にでもいけばいいじゃないか」
「おお、それは名案だ! 今からプランを考えておこう。
鏡夜、京都のガイドブックを貸してくれ」
「……はいはい」
鏡夜は腰を上げると、
自分の部屋に行って、本棚から数冊のガイドブックを引っ張りだしてくると、
和室に戻って、環に手渡した。
すると環は、先ほどまで集中していた、
ミニチュアのオモチャ作りをそっちのけで、
ガイドブックを広げ始める。
「鏡夜、この寺にはまだ行った事が無かったよな」
「ああ。そこはルート的に少し外れにあったから、
今までの旅行には組み込まなかったんだ」
「ふうむ……ああ、ここは確か去年行ったよな。懐かしいなあ」
「そうだな」
再び楽しそうにテンションが上がり始めた環の様子に、
鏡夜は適当に相槌を打ちながら、湯飲みに口を付ける。
それにしても、
ハルヒに今の時期に遊ぶべきじゃないとか言われているにも関わらず。
何故、こいつは、センター試験を受験する、
俺の勉強を邪魔することについては、全く無頓着なのだろう?
「環、そろそろ遅いし、今日はもう帰れ。それとも夕食をうちで食べていくのか?」
一通りガイドブックを見て、
旅行プランを練るのを手伝っていたら、もう夜七時を回っていた。
「ん、ああ、もうこんな時間か。
いや、うちで用意されてると思うから、今日は帰るよ。
あ、ガイドブックは借りていっていいか?」
「お好きにどうぞ」
「おお、ありがとう。それじゃあ、鏡夜。また明日な!」
……明日……また来るわけか。
環を見送ったあと、鏡夜は深い溜息をつく。
全く、あの無自覚カップルは、
『付き合う』というところまで持っていくのが、
一番大変だと思っていたというのに……。
鏡夜は、炬燵の上に散らかされた細々としたものを、
ざざっと袋に押し込んで、一旦、自分の部屋へ持ち帰り、
メインフロアの棚においてある、個性的な万年カレンダー(環の土産物)の横に、
その袋をどさっと放置すると、
携帯電話を取り出して、ハルヒの自宅に電話を入れることにした。
『はい、藤岡です』
「ハルヒか。俺だ」
『鏡夜先輩、どうしたんですか?』
「悪いが……」
まさか、付き合いだしてからも世話を焼かされるとは思わなかったな。
「明日から一週間、環の相手をしてやってくれないか?」
『……は?』
* * *
続