『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -48- (馨&光&鏡夜)
鏡夜が依頼したのはあくまで馨一人。それは光の気持ちに配慮してのことだった。
しかし、馨は何故か光と一緒に鳳邸にやってきた。馨は昨日の夜の出来事を話し始める……。
* * *
「友達って……履歴は鏡夜先輩になってるけど、
何、これ。俺に黙って二人で何か企んでるわけ?」
「そ、それは、え、えーっと……」
【鳳鏡夜】
と、はっきりと表示されている画面を、
目の前に突きつけられては隠しようもない。
「それは……そうそう、引継ぎのことで電話をかけたんだよ。
鏡夜先輩、昨日、帳簿のファイル送るとか言ってたのに、
全然送ってこないから、その確認でさあ……うん、それだけ」
付け焼刃にしては、なかなか上手い言い訳を言えたと思っていたが、
光はしらっとした表情で馨を見つめている。
「それなら、俺に隠すことないじゃん。なんで最初に友達なんて言ったんだよ」
「え、あー、いや……それは……」
「馨……お前さあ……」
光は馨の肩に手を伸ばすと、馨の体を小突くようにして壁に押し付けた。
「ちょっと俺のこと、馬鹿にしすぎじゃない?」
「え?」
「そりゃ、俺はお前に言われるまで、
ハルヒのこと好きだとかそういうことも気付けなかったし?
そのハルヒからは『馨より性格が一割増し悪い』とか言われるくらいに、
お子様かもしれないけど」
馨が体勢を立て直す前に、光は馨の顔の横に掌を付いた。
「でも、こう見えても俺はお前の兄さんなの。
馨が俺のこと考えてくれてるのは嬉しいけど、
今までずっと、ハルヒのことで俺に気を使ってきただろ?
だから、そろそろ俺のことを信用してよ。
俺はそんなにもう子供じゃないし、それに……もう、そんなに弱くないよ。
ちゃんと修行だってしてきたんだし。
もし、殿とハルヒに何かあったって俺に隠す必要なんてない。
俺はちゃんと全部受け入れる」
正直、僕は驚いた。
「……」
一年前の冬の日。
遊園地でハルヒに告白して玉砕してから、
僕はいつだって、光を幸せにするためにはどうしたらいいんだろうかって、
それだけを考えて先手先手を打ってきたはずだった。
一年前、僕がハルヒに告白をした直後、
少し、光と距離を置こうとしていた僕に向かって光が取った態度は、
僕が想像していたよりも全然強くて、涙が出そうになった。
それでも、それが「僕以外の人」の感情に対しても、
同じように吸収できるほどの強さかと考えたとき、
実は、僕は『NO』という答えを出していた。
それはきっと、今、光に言われたように、
僕がまだ光の心の強さを完全には信用していなかったからかもしれない。
「光……なんで、殿とハルヒのことだって?」
光は怒った顔のまま手を離すと、大きく溜息をついた。
「だって、馨が俺に隠し事するのってハルヒのことだけじゃん。
今まで散々それやられてきたんだから、流石にバレバレだって。
大体、本気で俺に隠し事なんて出来ると思ってるの?」
「それは……出来るとは思って……ないけど」
「じゃあ、話せよ。鏡夜先輩から一体何の連絡があったわけ?
もしかして『ついに殿がハルヒに告白をした!』とか?
まあ、流石に今朝のあんな様子でそれは飛躍しすぎ?」
「それが、ねえ……」
結局、馨は鏡夜に話してもらった事の経緯を、
つぶさに光に伝える羽目になってしまった。
「……そっか、殿がやっと告白したんだ……そっか。そうなんだ」
受け入れる覚悟があると宣言していたって、
いざ本当にその結論を目の前に突きつけられると、
その衝撃は思いのほか強かったようで、
光の視線がふっと宙に泳いだのが分かる。
それでも、光は馨が想像していたよりは取り乱さなかったし、
鏡夜が立てた作戦の話を馨がしてやったら、
光の方から進んで『自分も参加する』と言い出した。
そういう経緯で、今日のこの場に光を連れてくることになったのだ。
「……って感じで携帯の履歴見られて、
鏡夜先輩と電話してたことがばれちゃったからさ。隠しておけなかったんだよね」
「なるほど。そういうことか」
ソファーに座りなおした鏡夜は、眉間に少し皺を寄せている。
「光はまだハルヒのことが好きなんだろうし、
環とハルヒのことを、光がああも平然と受け入れられるとは、
俺は思ってなかったんだが……」
昨日。
鏡夜先輩が敢えて僕に電話をかけてきたのは、
そして僕だけに依頼してきたのは、
一年前に、僕がハルヒへの好きって気持ちに、
区切りをつけていたことを知っていたからだと思う。
まあ、僕の気持ち自身は隠すつもりも無かったから、
鏡夜先輩が僕のことを、どう見抜いていたとしても全然構わないんだけど。
でも、光がまだハルヒを好きだっていうその気持ちも、
ちゃっかり読んでるんだよね、鏡夜先輩って。
「どうやら俺は、光を少し見くびっていたようだな」
「そうだねえ。光って思ってたよりも成長してたみたい。
もちろん全然ショックじゃないってわけじゃないとは思うけど、
『これも一つの修行』とか言って、昨日の夜、張り切ってたから」
「修行?」
「いい男になるための試練ってことだよ」
余りに沢山喋ったので、馨は一度ふうっと息を吐いて呼吸を整える。
「光は、まだまだ殿の足元にも及ばないって、
本人が一番分かってると思うんだよね。
だから、殿がハルヒへの恋心に自覚して告白して、
それを受けて、ハルヒが殿を選んだとしても、
二人を見守るのも、自分を磨くための試練だと考えてると思うよ。
もちろん、光はハルヒに、一度ははっきり振られてるわけだし、
二人が付き合いだすのを邪魔をしようとかは思ってないだろうけど、
でも、思い続けるのは自由でしょ?」
ここまで話してやっと、
馨は目の前に置かれたプリントに手を伸ばすだけの余裕を持てた。
手にした紙の上には、沢山の数字が羅列されている。
数行、目で追ってみたのだが、
学校の成績は良くても、会計帳簿や売上実績なんて、
今まで見た事もなかったから、
鏡夜の説明なしでは、到底その数字の意味を理解できそうになかった。
「修行、ね。物は言いようだな」
独力で読み解くのを諦めて馨が顔を上げたら、
楽しそうに目を細めている。
帳簿を見て首をかしげている馨の、
もやもやとした表情を面白がっているのかもしれない。
「だってさ、先のことは誰にも分からないでしょ?
今、ハルヒが殿を選んでも、
後々になって、ハルヒが殿のことを『うざい』とかて思って、
別れる可能性もないとはいえないし」
「あいつらに限ってそれは無いと思うが」
鏡夜は、笑顔を少し曇らせつつも、しっかり反論してくる。
「でも、僕はいつだって光の味方だからね。
可能性がある限り応援し続けるつもり。
僕は殿とハルヒに幸せになってもらいたくないとか、
そういうことを言ってるわけじゃないけど、
もしも、ハルヒがこの先、殿と離れて一人になる時が来たとして、
ハルヒの傍に、今よりもっと成長した光がいることができたら、
その時は……ハルヒが光を選んでくれるといいなと思ってる」
「……そうか。お前は何があっても光の味方か」
「まあね、生まれたときからずっとそうだもん。これからもずっとそうだよ」
「それなら……」
パソコンを操作していた鏡夜は、
手を止めて、にやりと意地悪い笑みを浮かべた。
「今後も、お前は俺の『敵』ということになるな」
敵、という攻撃的なフレーズに眉を顰めて、
馨が上目遣いで鏡夜を見たら、
その視線が鏡夜のそれとぶつかった。
「敵? 今後も?」
「お前の、さっきの質問に対する俺の答えだよ。
俺は、この先もずっと『環』側に付くと決めているからな」
その言葉で、唐突に時計の針が巻き戻される。
「ああ、やっぱりそうなんだ。それが鏡夜先輩の答えなんだ」
答えが与えられないまま、放置され続けるのでは、と思っていた質問に、
ようやっと、一つの決着が着く。
「なんだかんだいって、やっぱり鏡夜先輩は、最後には殿の味方なんだね」
鏡夜は微笑みながら頷いた。
「俺は、環にとっても、ハルヒにとっても、
あの二人が一緒にいることが一番だと思ってる。本当に、心から。
……後悔なんて、するはずがないだろう?」
その笑顔は、今までで見た中で一番優しくて穏やかで、
いつもみたいな、どこか裏のある笑顔ではなくて、
透き通るように清清しい笑顔に見えた。
後悔してるか、なんて……愚問ってわけ、か……。
鏡夜があまりにも幸せそうな笑顔を浮かべるから、
釣られて馨も笑ってしまった。楽しそうに声を上げて。
こうして、馨の疑問もすっきりと解消したところで、
それじゃあ会計の引継ぎでもするか、ということになり、
鏡夜は橘を呼びつけて、馨のために紅茶と茶菓子を用意してくれた。
「ああ、そうそう。馨。大切なことを一つ、言っておこう」
そして鏡夜は紅茶を少し口に含んで、
そのティーカップをソーサーの上に静かに置くと、にこりと笑った。
「口約束も約束のうち、だからな?」
「え?」
「オーダーメイドの服は……そうだな、
あいつらの結婚式に出席するときの礼服にでもしてもらうか。
実際、使うのはまだまだ先のことになりそうだがな」
目の前のクッキーを取ろうと手を伸ばしていた馨は、
思わずぽろりと、行儀悪くクッキーを取り落としてしまった。
「そ、そりゃあないよ!
だって、勝負してたってのは、昨日作った嘘の設定じゃん!
罰ゲームだって当然無効でしょ?」
「今回の勝負を無かったことにするなら当然そうなるだろうが、
お前らが罰ゲームを履行しないってことになると、
当然、環に今までのことや、今のお前らの気持ちを全部話すことになるぞ?
そしたら、光がまだハルヒを好きで、お前がそれを応援しているということも、
告白したばかりで浮かれているあの馬鹿に説明することになると思うが、
お前はそれでいいのか?」
「そ、それは……」
もしも、この時の馨が、
買い物に出かけた光と環の会話を知っていたら。
『ねえ殿。もしも、殿がハルヒを悲しませるようなことしたら、
俺、殿のこと許さないからね? もしもそんなことになったら、
遠慮なく俺がハルヒを攫っていくから。覚えておいてよ?』
光が環に向かって、堂堂と、
『ハルヒをかっさらっていく宣言』をしていたことを知っていたら、
少なくとも、光の気持ちを守るという意味で、
この偽りの勝負を続ける必要は無いということは分かったのかもしれない。
「もっとも、環に暴露されて、また嘘だったのかと騒がれて、
機嫌を取り直すのも面倒だから、
できたら、きっちり罰ゲームを受けてもらえると有難いんだけどね。
まあ、馨が良いと思うほうを選べばいい」
しかし、不幸なるかな、馨は光の言葉を知る由もなく、
そしてさっきほど一瞬見せた清清しい笑顔は見間違いだったのかと思うほど、
鏡夜は『別な意味で爽やかな』笑顔を浮かべているのだ。
「鏡夜先輩……僕、なんか急に分かったことがあるんだけど」
「ん? 何だ?」
「鏡夜先輩が人に何か聞いたりする時ってさあ……」
馨は頭を掻きながら不満そうに口を尖らせた。
「選択権があるように見えて、実は無いよね?」
馨の言葉を聞いた鏡夜は、薄ら笑いを浮かべたまま、
あくまで爽やかに、ずばっと言い切った。
「なんだ、今頃気付いたのか?」
* * *
続