『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -46- (鏡夜&馨)
環と光を送り出し、鏡夜の部屋に残ったのは鏡夜と馨。二人が立ち去った後、
馨は鏡夜に「これで良かったのか」と確認する。馨が鏡夜から依頼されていた事とは……。
* * *
「で、鏡夜先輩。こんな感じで良かったのかな?」
馨の問いかけに、鏡夜は満足そうな笑みで答えた。
「そうだな。上出来だ。
それより、環の世話を光に押しつけて良かったのか?」
環と光が、ぎゃーぎゃー騒ぎながら外に出て行って、
やっと落ち着きを取り戻した室内で、
鏡夜は馨と二人きり、テーブルに向かい合わせに座っている。
馨も当然買い物に付いていくのかと思いきや、
部の会計の引継ぎを済ませたいと言って、鏡夜の部屋に居残ったのだ。
「ん~、多分、大丈夫だと思うよ。
光もさっきの殿の言葉を聞いて、色々考えることはあったと思うけど、
まあ、光と殿なら殴り合いの喧嘩になることはないんじゃない?」
「それは皮肉か?」
「まさか。役者の違いってことだよ。
光には未だ殿と喧嘩は出来ないっていう意味で。
本気で喧嘩できるってのは、少なくともお互い対等じゃなきゃ駄目でしょう?」
「……なるほどね」
「それにしても、昨日電話もらったときは本当にびっくりしちゃったよ。
いきなり殿との仲直りに協力しろ、なんて言うからさあ。
でも、殿がハルヒに告白したことを利用して、
僕らが、前々から勝負してたってことにするなんて、よく考えついたものだよね」
環をダシにして、密かに俺達が勝負をしていた……なんて、
些か陳腐な「種明かし」にも思えたが、
さっきまでの様子だと、環は特に疑問にも思わず納得してくれたようだ。
「殴り合いの喧嘩をした当日に、
いつもは連絡なくうちに来る奴が、わざわざメールまで寄越したんだぞ?
きっと、こういう類の話になるとは思ったんだが、
一対一だと、どうこじれるか分からなかったんでね。
ハルヒから、お前らが俺達の喧嘩を、気にしてると聞いたんで、
裏で、こそこそ動かれるなら、いっそのこと堂堂と働いてもらおうと」
鏡夜には馨を脅かすつもりなど全く無く、
半ば反射的に口元に笑みを浮かべてしまっただけなのだが、
馨は鏡夜の表情を見て、顔をぴくぴく引きつらせた。
「全く、いつもながら人を使うのが上手いんだから」
そんな馨の様子に苦笑しながら、
鏡夜は勉強部屋からノートパソコンを持ってきて、
メインフロアーのテーブルの上に置くと、電源を入れた。
少し前に、馨にメールで送信すると言っておいた会計帳簿のデータは、
ここ数日、かなり慌しかった所為で、まだ送信していなかった。
「でもさあ、鏡夜先輩が別の大学を選んだのは、
僕が考えてたみたいに……あの二人を傍で見てたくない、って意味じゃなくて、
殿の気持ちを追い込んでハルヒに告白させるため、だったんだよね?」
「ああ、そうだが」
片手でキーボードを打つのは、思いのほか大変だ。
普段は右手が担当するゾーンのキーになると、
急にたどたどしく、左手の人差し指でキーを押すことになってしまう。
「でも、僕はちょっと疑問があるんだけど」
「何がだ?」
馨はソファーに深く腰掛けたまま、鏡夜の作業を見つめている。
「だって鏡夜先輩は、あの殿を本気にさせたわけでしょ?
殿って自分のことはともかく、人のことは良く見てるじゃない。
あの殿を本当にただ演技で怒らせることができるのかな?
そこに、鏡夜先輩の本気があったからこそ、
殿は本気で殴るほどに怒ったんじゃないの?」
とりあえず、帳簿をプリンターに転送して、
印刷した紙を見せながら説明しようかと思っていた鏡夜は、
エンターキーを左手で叩こうとしていた所で、
その動作を止めて、馨の顔をまんじりと見つめた。
なるほど、馨が居残ったのは会計の引継ぎのためじゃなく。
俺の本心をを確認することが目的か。
「……そういえば、光もハルヒのことは好きなんだったな。
馨。お前はつくづく光に関わることだと必死だな」
「そりゃあ、誰よりも大事な兄貴ですからね。
だから、ライバルになりそうな芽は、早めに確認しとかないと。で、どうなの?」
そもそも、今回の騒動のトリガーを引いたのは誰か。
直接の原因は、昨日、ハルヒの手をつかんでいるときに、
環が音楽室に入ってきてしまったことだとも思えたが、
そんな状況になってしまったのは、
その前日に、自分がハルヒに突然告白してしまったからで、
環を追い込むために用意していたプランから大幅に外れた、
自分の衝動的な行動には、少なからず馨の一言が影響しているように思う。
『鏡夜先輩。無自覚なのはあの二人だけとは、僕は思ってないからね?』
あの時の馨は、おそらく、鏡夜が、
ハルヒのことを好きだという気持ちに気付けていない、
という意味でその言葉を発したのだと思う。
だが、もう随分前から、
鏡夜はハルヒを愛しいと自覚していたから、
そういう意味においては、馨の言葉は的外れだった。
けれど、もう一つ、別の感情が自分の中には存在していた。
ハルヒへの愛しさと平行して走る、同じくらい大きくて大切な感情。
昨日、環と喧嘩をするまで、
その「もう一つの感情」には気付けていなかったのだから、
その点を考えれば、馨の指摘は的確だったとも言える。
「……昨日、ハルヒから電話があって、
環がハルヒの家にいって話した内容を聞いた時に」
「告白の言葉を聞かされてショックだった?」
鏡夜は微かに首を横に振った。
「いや。俺は安心した」
「安心?」
「ああ。俺は環がハルヒへの気持ちに気が付いたとき……、
こういう日が来たときに、自分でも、
もう少し辛い気持ちになるのかとも思っていたんだが、
自分でも意外なことに、俺はそうは感じなかったんだ。
どちらかといえば……俺は、嬉しかったんだと思う」
それまで、ソファーの背もたれにどさっと寄りかかっていた馨は、
鏡夜の『嬉しい』という単語に反応して、
急にがばっと体を起こすと、じとりと疑いの眼差しを向けてきた。
「嬉しかった? ハヒが殿のものになるっていうのに?
鏡夜先輩だって、ハルヒのことは好きなんでしょ?
じゃなかったら殿のこと怒らせるなんて無理だと僕は思うけど」
昨日、馨に電話したときも、先程環の質問に答える時も、
ハルヒに対する自分の気持ちについては、
鏡夜はわざと直接的な表現は避けていた。
肯定もせず……否定もせず。
光のためなのか、もしかすると馨自身のためなのか、
ほとんど答えは言っている気もするというのに、馨は追及の手を緩めない。
馨は、鏡夜の口からはっきり『ハルヒを好き』と言わせたいようだ。
「環は、いつも訳のわからん行動ばかりするお節介で呆れた奴だが。
昨日、奴がハルヒに告白したと聞いた時、
これまで、あの二人を見ていて苛々していたことなんて、
すっかり忘れてしまうくらい、俺は嬉しく思った。これは嘘じゃない。
そして……俺は気付いたんだ」
「気付いたって、何を……?」
「馨。お前が薄々感づいているように、
俺はハルヒの存在を……とても大事に想ってる。
だが、それと同じくらい、環のことも大事に考えていると気付いたんだ。
もちろん、二人が俺にとって、大きな存在だということは自覚してたが、
友情と恋愛なんて、質が違いすぎて比べたことも無かったし、
もしかしたら、ハルヒへの気持ちの方が上かと思っていたこともあった。
環がハルヒへの想いに自覚する、その時がきたら、
俺はちゃんとハルヒの手を離して、環のところへ、その背中を押してやれるのかと……、
すまない。少し、俺は支離滅裂なことを言っているな」
「ううん。僕、鏡夜先輩の言うこと、分かるよ」
光はソファーの上に足を乗せて、膝を抱え、寂しそうに笑った。
「同じようなシチュエーションで、僕は光を選んだんだ。
ハルヒも大好きだったけど、誰よりも大事なのは光のことで、
最後の最後で、僕はやっぱり光を取って、ハルヒのことは選べなかった。
鏡夜先輩もそれと同じってことでしょ?
兄弟と親友と、ちょっと立場は違うかもしれないけど、
僕と同じで、ハルヒよりも殿を優先したってことなんだよね?」
「いや、それは少し違うかもしれない。
俺にとっては、環もハルヒもどちらも大事で、どちらも同列だ。
どちらが上ということはない……だが」
「俺にとって同じくらい大事な二人が、
一緒に居ることで幸せになれるというなら……、
もう、俺の出て行く幕はないだろう?」
鏡夜はそこまで話すと、エンターキーをガチャリと叩いた。
「……」
馨は鏡夜の話を聞いたあと、
抱えた膝の上に顔を埋めるようにして黙ってしまっていたから、
勉強部屋に置いているプリンターが動く、
その小さな音も聞き取ることができるほど、部屋の中は静かだった。
「ま、そういうことだ。疑問が解けたなら、会計の引継ぎをするか?」
馨が何も言わないので、
鏡夜は打ち出した紙を取りに行こうと立ち上がる。
「……そこまで言うなら……一応、念のために確認するけどさ」
鏡夜の背中に投げつけられた馨の質問が、
メインフロアーから勉強部屋をつなぐ扉へ向かう鏡夜の足を止めた。
「鏡夜先輩は本当にこの結末に、少しも後悔していないんだね?」
* * *
続