『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -45- (光&環)
鳳邸に鏡夜と馨を残し、柚葉のブランドショップまで眼鏡を買いに来た光と環。
さっきまで、環が鏡夜に抱きついて大泣きしていたことを、光はからかっていたのだが……。
* * *
「……まあでも、俺だって、馨と喧嘩した時のこと思い出せば、
殿が大泣きした気持ちも分からなくはないけどね」
環のことを散々からかった後で、
光は最後にぽろっと、真面目な感想を口にしてしまった。
「ああ、俺達が研修旅行に行ってた時の事だな!」
「行ってないでしょ、殿は。
しかも、鏡夜先輩以外の皆に黙っててさあ。すごくショックだったんだから」
「それは悪かった……だが、今回はお前らが俺に隠し事をしていたのだから、
これで、おあいこだろう?」
柚葉社長のご子息とそのご友人、ということで、
店に入ってすぐにVIP待遇で別室に連れて行かれそうになったが、
光は、他の客と同じように、店内を回って、
ディスプレイされているものを見て選ぶと言って、その対応を断った。
環と一緒に混雑する店の中を巡っていると、
光と環の方を見て、ひそひそと噂話に興じる女の子達の声が聞こえてくる。
光だって身長が低いほうではないのだが、
流石に180cm以上もあって、しかもハーフの環は、外見的にかなり人目を引く。
もっとも、見た目とか、須王の家柄とか、
そういった外側の部分じゃなくて、
環の性格、内面的なものが尊敬できるからこそ、
今、光はこうして環と一緒にいることを選べたのだけれど。
つくづく、殿が僕らを見捨てなくて良かったよなあ。
今度は簡単に本心を見せてしまわないように気を使いながら、
光は、ホスト部設立当時の環のしつこかった勧誘と、
それをことごとく拒絶し続けていた、自分と馨の様子を思い出していた。
他人は決して入れない、狭い狭い二人きりの秘密基地。
屋根裏部屋にずっと隠れていた自分達。
「そういえば、光。どうしてさっきは店員さんの申し出を断ったのだ?」
とりあえず、環に眼鏡をかけさせたり、
ついでに新作の服やアクセサリーとコーディネートしてみたりしていたら、
環が不思議そうに尋ねてきた。
「そりゃ、うちの母親を信頼してるからだよ。
はい、次、こっちの縁が太目の奴。付けてみて」
「柚葉さんを信頼?」
「そう」
着せ替え人形の様相で、服と眼鏡のバランスなどを見つつ、
光はつぎつぎと試したいアイテムを手渡していく。
「店の中の商品の展示ってさ、雑然と置いてるわけじゃないし、
かといって、単なる感覚の問題でもなくて、
実はものすごく計算して配置してるんだよね。
新作でも特に力を入れてるものは、
入ってすぐの見やすい位置にもってくるのは基本としても、、
お客さんの視線の高さとか、見るポイントって、男性と女性のでも違うし。
アイテム同士の個性が強すぎて主張しあって戦っちゃう場合もあるし。
まあ、うちの母のディスプレイは、小さい頃から見慣れてるから、
母親が自信があって一番売りたいってものは、
その並べ方を見れば分かるんだよ。
折角、店に来てるんだから、店員が見繕ってくるものを、
別室で椅子に座って待ってるなんてつまんないじゃん。
他のアイテムと組み合わせたときの、印象とかも分からないしさ。ほら、殿、次これね」
「ほう、なるほどなあ」
環はふんふんと頷きつつ、
促されるままにつぎつぎとジャケットや眼鏡を試着してく。
「今はさ、インターネットとかで、
何でも自宅にいながら、すぐ買えちゃう時代でしょ?」
「そうだな。俺も深夜の通販番組は大好きだぞ」
「相変わらず見てるんだ……、まあ、そういう買い方は時間の節約になるし、
世界中のものが自宅で買えちゃうっていうところとか、
すごくメリットはあると思うんだけど、
でも、俺はこういう風に店に実際来て、品物を目で見たり、触ってみたり、
そうした選ぶ過程や、それにかける時間もすごく大事だと思うんだ。
旅行へ行こうとか、遊園地へ行こうみたいな感じで、
今日は、このお店に洋服を見に行こうって、
娯楽の一つみたいに考えてもらってさ、
別にウインドウショッピングでもいいんだよ。
店にきて、品物を手にとって、ディスプレイを眺めたり、
あとは店員さんと話をしたりして?
そうして時間をかけてでも、自分に合う一品を見つけて、
それをずっと愛着持って使えてもらえたら、そういうのって、なんか良くない?」
「なるほど……それが光の幸せに思うことで、
これからの将来の夢につながることってわけだな」
「え? 俺の将来?」
「ん~? 違うのか?」
環はかけていた眼鏡を外すと、
ショーケースの上に並べて、今までに色々と試した中から、
どれにしようか本格的に選びつつ、逆に光に問いかけてきた。
「違う……っていうか、将来だなんて、
俺、そんな大袈裟なことは考えなしで言ったんだけど……」
「将来のことを考えるのは、確かに難しいかもしれんが、
そんなに大袈裟なことではないだろう?
俺達はこれから高校を卒業して、大学にいって、社会人になって、
でも、それは、別にものすごい遠い未来の話でもなければ、
今の自分と全くつながらない、別次元の話でもない。
別に、何かになりたいとかまで、具体的に決まってなくたって、
自分が今、楽しく思うことは何かが分かれば、
やりがいに思うこともはっきりする。
『自分が何が好きなのか』、それをはっきりさせることだけでも、
将来を考えるってことの一つだと俺は思うぞ?
俺は、皆が笑顔で喜んでくれるのを見たくて、
須王グループのホテル事業に興味があるわけだし、
さっきの光は、俺からは、すごく楽しそうに見えたぞ?
きっと光は、洋服を買うために来店してくれるお客様が、
その店にいる時間を幸せだって感じてくれたら、嬉しいと思うんだろうな」
「まあ……そりゃ嬉しくないことはないけど、
でも、ただなんとなく良いなあって思うのと、
実際に仕事としていこうってのは重みが違うじゃない。
うちの母親みたいに自分でブランド立ち上げて店まで出して、
世界的に展開するなら、それなりに専門の勉強が必要になるし」
「それは、そうだろうな」
環は何本かの眼鏡をより分けると、
背後に立っていた光に顔を向けて、にやりと笑った。
「では、今から行きたいところを、鏡夜と一緒に選んでおくことにするぞ?」
「え? 何の事?」
「一年後にはイタリア辺りを、
光と馨の二人に案内してもらうことになるんだろう?」
昨日。
僕らが海外の大学に留学しようと計画しているって、
鏡夜先輩から聞かされて知ったらしい殿は、
皆が離れ離れになることや、自分だけが教えてもらえてなかったことに、
子供っぽく反発してみせた。
でも。
最初はどんなに拗ねてみせたって。
結局は、それを受け入れる懐の深さはちゃんと持っている。
「どうした、光。じろじろと俺の顔なんかみて」
大して気負いもせずに、いや多分何も考えずに、
そういう姿を簡単に見せてくるんだから、
殿って本当にすごいって思う。
「いや。やっぱ殿ってさ。普段、阿呆っぽいこと言ってても、
なんだかんだで、いざって時にはやっぱりすごいんだなって思って」
「それは褒めているのか、けなしているのか?
大体、何がどうすごいのか、褒める気ならもっと具体的に表現するのだ!」
だからこそ……やっぱり今の僕には、全然適わない人だって思う。
「……なんか、くやしいから言いたくない」
さっき、僕が呟いた一言。
もしも、相手が殿じゃなかったら。
ハルヒに告白したのが殿じゃなくて、
ハルヒが選んだのが殿じゃなくくて、
誰か別の人だったとしたら、
僕は絶対にハルヒのことを諦めようなんて思いはしなかっただろう。
でも、今の僕じゃ、殿には全然適わない。
どれくらい頑張って走れば追いつけるのかも分からない。
ちょっと前。
僕と馨が世界を閉ざしていた時は、
未だ周りの事が何一つ見えていなかったから、
「馨」を除いた、その他全てを見下す事だって出来た。
でも、今は違う。
僕らと周りの世界は、今はしっかり繋がっている。
二人っきりの屋根裏部屋から、
かぼちゃの馬車で連れ出されて、
素敵な魔法をかけられて、
あまりに一気に色んなものを見せられたために、
自分の心が、その変化についていけてないだけだ。
僕はハルヒのことが好きだ。本当に大好きだ。
今は、ハルヒ以外の女の子のことは、
誰一人、自分にとっての特別にしたいなんて思えない。
でも、僕は殿のことも大事だ。すごく大事だ。
だから、もしも僕がもう少し大人になって、
殿と同じくらいまではいかなくても、それに近づくくらい大きな男になれたら、
僕にも……『殿にとってのハルヒ』みたいな女の子を、
探し出せる日が来るのかもしれない。
なんだか全然想像つかないけれど。
「で、決まったの?」
「うむ。これとこれと、あとこれにするぞ!
あとは持って帰って、鏡夜に選んでもらうことにする」
「そう……んじゃ、俺は先に車に行ってるよ」
数本の眼鏡のフレームを選んで、
それを店員に包んでもらっていた環を置いて、
光は一人で店の出口に向かって歩き始めた。
「おい。ちょっと待て! 俺の何がどうしたんだ?
秘密にされると気になるだろう、こら、光!」
店員が差し出したショッピングバッグを手にすると、
環は人ごみを掻き分けて、光を追いかけくる。
「ねえ、殿」
外に出た光はそんな環の姿をウインドウ越し見て、くすっと笑った。
「もしも、殿がハルヒを悲しませるようなことしたら、
俺、殿のこと許さないからね?」
追いついてきた環と共に、待たせている車に向かいながら、
光は鋭く責めるような視線を環に向けた。
「もしも、そんなことになったら、
遠慮なく、俺がハルヒを攫っていくから。覚えておいてよ?」
環は少し立ち止まっていた。
驚いたような顔もしていたし、なんなく、また泣きだすのかとも思える、
ちょっと寂しそうな顔もしてた。
けど。
「ば、馬鹿者! 俺がハルヒを悲しませるようなことするはずないだろう」
環は、眼鏡の入った袋をぶんぶん振りまわしながら、
言葉の上では光を非難するような感じではあったが、
顔を赤くして、なんだか嬉しそうなテンションで言い返してきた。
「そうかな? 先のことは分からないじゃん?」
どうして一瞬、寂しそうな顔をしたのか、
ちょっと遠くを見てたのか、光には環の心の中は良く分からなかったけれど、
とりあえず、環は元気いっぱいに、ぎゃーぎゃーと光の横でわめいていた。
「日本風に言うならばあれだ。天地神明に誓って! 俺はそんなことはしない!」
……随分、後になっての話だが、
この時、光と環の二人が交わした誓いは、
意図せず互いに破ってしまうことになる。
環が光との約束を破って、
ハルヒを悲しませてしまったとき。
そのハルヒの心を救ったのは、光ではなかったから。
そんな辛い試練を乗り越えて、
光が本当に大人になるまでには、
まだもうちょっとだけ、時を待つ必要があった。
魔法が解ける、その日まで。
* * *
続