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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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君の心を映す鏡 -43-

君の心を映す鏡 -43- (環&光)

鏡夜と光と馨の三人は、密かに「卒業までに環がハルヒに告白するかどうか」賭けていたという。
そして、環が告白するほうに賭けていた鏡夜は、昨日の喧嘩を、環を追い込むためだと明かす……。

* * *

「ほら、光。どういうものがいいのか、ちゃんとアドバイスしろ!
 お前がここに連れてきたのだろう?」

 【クリスマス前で華やぐショッピングモール】

環と光が居るのは、有名なブランドショップが連なるショッピングモール内の一店舗、
クリスマス前で煌びやかにデコレーションされた店内のショーケースには、
洋服やアクセサリーやバッグが、スタイリッシュに並べられている。

「ちょっと、殿さあ、俺が無理に連れてきたみたいな言い方しないでくれる?
 大体、人間国宝呼んで、蒔絵に螺鈿(らでん)って、
 一体どんなセンスの眼鏡なわけ? 鏡夜先輩だって呆れてたじゃない。
 だから俺が気を利かせて、わざわざウチの母親の店に案内したってのに」

そう、ここは光の母親、常陸院柚葉の自己ブランドを販売するショップで、
内装からショーケースのディスプレイ、そして入荷するアイテムまでを、
柚葉がトータルプロデュースしている直営店なのだ。

柚葉のブランドは若者に人気で、
しかも土曜の夕方とあって、店内は客でごったがえしている。

金曜日の喧嘩の際に、鏡夜の眼鏡を壊してしまった環は、
そのお詫びのために、自分が新しい眼鏡を買ってやろう言い出して、
そのフレーム選びに光と一緒にこの店にやってきたのだ。

「だって、俺は、やはり一流のものがいいんじゃないかって思って、
 ほら、鏡夜は和服が良く似合うだろう?
 だから、ここは一つ眼鏡にも、和風テイストを加えてみては、と思ったのだ!」
「殿の妙に和風に傾倒したセンスは置いといて、
 そりゃ、浴衣や和服に合わせるための眼鏡だったら、
 和風なフレームも在り得ないわけじゃないけど、
 高校生が普段身に付けるものとしては、おかしいでしょ?
 とりあえず、俺がいくつか流行のタイプを選ぶから、
 そこから殿が気に入った奴を四、五本選んで持ってってさ、
 んで、鏡夜先輩に最終的に決めてもらえばいいじゃない」

光が何故こんなことを言うかというと、
今、この店に来ているのが、光と環の二人だけで、
鏡夜と馨は鳳邸に残っているからだ。

「お、おう。そうだな。眼鏡は毎日使うものだし、
 本人の希望も大事だよな。
 では、光! 早速、お前のお薦めの品とやらを持ってこい!」

ホスト部でいつも皆に指示するように光に声をかけたら、
ショーケースの向こう側にいる店員が表情を若干強張らせた。
光が柚葉の息子であるということは知っているのだろう、
坊ちゃまに向かって、こんなにも慇懃無礼な態度をとる男は、
一体何者なんだと、どうやら不審に思われているようだ。

「はいはい。全く……さっきまで鏡夜先輩の前で、
 びーびー泣いてたくせに、すっかり元気になっちゃって」

鏡夜の部屋での環のみっともない行動を、ちくりと指摘されて、
環は恥ずかしさに顔を赤らめると、わざとらしく咳き込んだ。

「そうは言うが、そもそも、お前らが俺とハルヒのことを賭けてたとか、
 そういう事を隠してるからいけないのだろう?
 俺がどれだけ悩んだことか!」

鏡夜との喧嘩で、環の心を支配した怒りと苦悩。
それは今まで生きてきた中で、
恐らく一番と言っていい程、激しいものだった。

恐怖、怒り、悲しみ、疑問……どれも強い感情だったけれど、
その中でも、特に、自分が強い衝撃を受けて引きずっていたのは、ある一つの感情。


鏡夜のことを、憎いと思ってしまった感情。


彼が許せないと、そして、彼に勝つんだと、
そんな、どろどろとした感情に塗れたまま、
今日の午後、自分は、鏡夜の家にやってきたわけだが、
そして、鏡夜には負けないんだと、虚勢で固めた心の中に、
本当にこれでいいのかと、問いかけてくる自分がいた。


本当に鏡夜のことを憎んだままで良いのかと。


だから、鳳邸に着いてから、
鏡夜に対して突っぱねるような強い調子で臨みつつも、
どこか本心でなく、無理をしているような気分のまま、
「ハルヒに告白した」と宣言はしたものの、
実のところ、全然すっきりしていなかったのだ。

でも、さっき、鏡夜は笑った。


『お前が何時まで待ってもハルヒへの気持ちに気付かないから、
 色々とお前を追い込もうかと思ってね』



昨日の全ては、俺を自覚させるためのものだったんだって、
そう言って、大声で笑った。

俺は知ってる。

鏡夜は野心家で、腹黒くて、寝起きが悪い大魔王で、守銭奴で、
時に冷たかったり横暴に見えるようなことをすることはあるけれど、
実のところは、すっごく優しくて、
俺のことをいつも真剣に考えてくれている。

俺を色んなところに連れてってくれたり。
こっそりと炬燵を用意してくれたり。
俺の母親の安否を黙って確認してきてくれたり。

表に出ている計算高い部分だけを見て、
いくら、他の奴らが鏡夜のことを見誤っても、
俺は鏡夜の良いところを、沢山知っている。

だからこそ、鏡夜を憎んでしまった自分自身が、
自分が自分じゃないようで、すごく怖くて……すごく嫌だった。


『高校生活の最後くらい、俺がお前を振り回しても構わないだろう?』


でも、やっぱり……鏡夜は鏡夜だった。

見損なうことなんてない。嫌いになる必要も無い。憎むことも無い。

鏡夜は、いつだって俺のことを考えてくれてる、
俺の知っている、俺が思っている通りの男だった。

それが分かった瞬間、
環は肩に回されていた双子達の手を振り払うと、
鏡夜にがばっと抱きついてしまったのだ。



「うわあああああん、鏡夜ああああ!!」



抱きつきながら、思わず大声で泣いてしまった。
緊張から解き放たれて、安心した感情は、
迷子の子供が母親に出会った時のように、涙を次から次へと生み出す。

「お、おい……環……?」

耳元に鏡夜の狼狽した声が聞こえて、

「あーあ、殿、泣いちゃったよ
よっぽど堪えてたんだねえ。鏡夜先輩と喧嘩したこと」

背後の双子達が、自分を揶揄する声が聞こえてきたけれど、
それでも、環の涙は止まらなかった。


「ううう、えぐ……ごめんよおお、鏡夜あああ。
 お、お、俺、鏡夜の気持ちも気付かずに、
 お前のこと殴っちゃって、ほんとにごめんようううぅぅ……


……とまあ、こんな感じで、
数分は泣きっぱなしだったと思うが、
これが、光の言うところの『びーびー泣いていた』という環の醜態である。

こうして、鏡夜との仲たがいもようやく解消して、
環は殴ってしまったことのお詫びに、
眼鏡を買いに行こうと鏡夜に提案したのだが、
頬に湿布を貼ったみっともない顔で、
外に買い物なんか行けるか、と鏡夜に一蹴され、
環が代わりに見立ててくることになったのだ。

ならば、人間国宝に依頼して蒔絵で眼鏡のフレームを作ってもらおう!
……などと環が嬉しそうに話したら、
自分以外の三人は、なんだか苦いものを食べた後のような、
微妙な顔で環の提案に一斉に溜息をついた。

「とりあえずウチの母親の店行く? 眼鏡も扱ってたと思うけど」

と、見かねた光が、助け舟を出し、

「二人でついてくのもなんだし、じゃあ、僕は鏡夜先輩から、
 部の会計帳簿の引継ぎでもしてもらってようかな」

と、馨が言ったので、
今、この店には環と光の二人しか来ていないというわけだ。

「昨日のことで、俺がどれだけ悩んだと思ってるんだ?
 こんなに若くして頭が禿げるかと思ったのだぞ!
 折角ハルヒに告白したのに、『髪が薄くなった先輩は嫌です』なんて、
 冷たくばっさり言われたら、どうするのだ!」
「……自覚しても、相変わらず妄想は激しいんだ……」
「妄想ではない、事実だ!」
「はいはい。でも、悩んだって言ってもさあ、
 殿は今までずっと、能天気に過ごしてきたんだから、
 いい経験になったんじゃないの?
 大体……偉そうに、『どれだけ悩んだことか』なんて言うけどね、
 ハルヒのことで悩む、なんてね、
 鏡夜先輩のは演技だったかもしれないけど、
 もうずっと前から俺と馨は味わってることなの。
 一人気付かずにお気楽に過ごしてたのは殿だけなんだから。
 自分だけが可哀相みたいに言わないでよ?」
「む、むう……そ、それは………」

光が言うことには心当たりがあった。

一年前のフランス研修旅行中に、
(とはいっても、実際は自分は日本にいたのだけど)
双子達の間でハルヒをめぐって、
ちょっとしたぶつかり合いがあったって、
後で先輩達から聞かされていた。

その後、ハルヒのクラスがスキー教室に行くということになって、
いつもの調子でお邪魔しようとしたら、
光に牽制されてしまった。ハルヒのことが好きだから、ついてきてほしくないと。

そんな風に、周りの皆が恋愛にシフトしていく中で、
それでも俺は依然、ハルヒに対して無自覚で、
ハルヒが誰か一人を選ぶようなこともなかったから、
光からはっきりハルヒへの恋心を明かされた後もしばらく、
父親として娘を嫁に出すのは辛いけど、光は良い奴だし……、などと、
「父」として真剣に悩んだりしていた。
(今振りかえると、本当に間抜けた悩みだったのだが) 

「そうだったな。俺が考えなしだった。本当にすまん

光や馨の気持ちを考えて素直に謝ると、
光は照れくさそうにぷいっと顔をそむけて、
色とりどりの眼鏡のフレームが並べられているディスプレイを眺め始めた。

「もし…………じゃなかったら」

品物を見ながら呟いた光の言葉は、
店内の騒がしさに負けて、ところどころかき消されてしまう。 

「ん? 今、何て言ったのだ? 光」

聞き返したら、光は環をちらりと見たが、
不満げに頬を膨らめながら、
すぐにケースの方へ視線を向けてしまった。



「べっつに、大したことじゃないよ」




* * *

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