『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
君の心を映す鏡 -39- (ハルヒ&環)
大喧嘩をした翌日。予告通り鏡夜の家を訪れた環は、昨日ハルヒの家に行ったことを明かす。
金曜日の夜、環がハルヒに伝えた気持ちとは……。
* * *
……何だか妙な展開になってきた気がするけど……。
ハルヒが、アパートの前にいる環の姿を最初に見つけたとき、
気に掛かったのは、環が変な誤解を引きずってないかな、とか、
鏡夜との喧嘩は大丈夫なのかな、ということだった。
しかし、その話題は宙に浮いた……というより、
環にその話はするなと言われてしまったからなのだけど、
ともかく、ハルヒは今、環に謝られる立場になってしまっているのだ。
環の中で一体どんな心境の変化があったのか。
最初はいつものように、
ハイハイと適当な返事で受け流そうと思ったが、
あまりに環の顔が真剣そのものなので、
ハルヒは環に向かい合うように正座をすると、こくりと縦に首を動かした。
「ゆっくりと、環先輩のペースで話してください。
自分は……最後までちゃんと先輩の話を聞きますから」
聞きたいことは山程あったけど、
まずは環の話を聞くことが大事と感じたハルヒは、そう促して口を閉じた。
「俺はね、ハルヒ」
ハルヒの答えを待って、環は喋りだした。
その声は普段に比べ、一際、優しく聞こえる。
「母さんと離れ離れになってから、
自分が悲しんだりしてちゃいけないって、
そう思ってずっと日本で生活してきた。
離れて寂しいのは俺も母さんも一緒だけど、
日本に来るって決めたのは俺自身だからね。
なのに、俺自身がこっちで悲しんだりしてたら、
母さんに合わせる顔がないだろう?」
さっき環は、母のことを寂しがるなんてハルヒに悪い、
なんて言って謝ってきたけれど、
ハルヒからすれば、そういう姿を間近で見せられても、
またそういう話をされても、嫌な心地は全くしなかった。
環が母親のことを話すときは、
いつだって優しくて温かい気分になるから。
「だから、俺はいつも笑顔でいたいって思ってさ、
で、笑顔でいるには自分が嬉しいって思うことが必要で、
じゃあ、自分は何を見たら嬉しくなるだろうって考えたら、
母さんの笑顔が浮かんできてね。その時に思ったんだ。
俺は周りの人の笑顔を見るのが何よりも好きなんだなって。
よし、じゃあ皆が笑顔になるには、
まずは皆を楽しませて幸せにしなきゃだめだよなって思って。
それで、ホスト部っていう、お客さんと話をして、
楽しませることができる部活動を立ち上げてみたり、
体育祭とか皆でワイワイ騒ぐことができるイベントを企画したり、
日本に来てから色々やってきたんだ」
環の話を聞いて、こんなにも穏やかな気持ちになるのは、
きっと、母親を思いやる環の純粋な気持ちが、
ハルヒの心の中にある母への思慕と共感するからかもしれない。
「そうですね。皆、環先輩の色んな企画のおかげで、
すごく楽しい学院生活が送れていると思いますよ。
自分も、まあ最初は驚くことばかりでしたけど、
今はとっても学院生活が楽しいですし、
それに、ホスト部に限らず環先輩が何かしようとすると、
自然と人が集まってくるじゃないですか。
皆、環先輩がやることなら楽しいに違いないって、
期待してるんだと思いますし、
環先輩の試みが成功してるってことじゃないですか。
環先輩の積極的な行動には正直憧れますし、
とても素敵なことだと思いますよ?」
ハルヒの言葉に環は目を細め、にっと微笑んでくれたが、
何故かその笑顔には寂しげな影が、ちらちらと見え隠れしているように感じる。
「うん……自分でも、そう思ってたんだけどね」
ずっとハルヒを見ていた環の視線が、
徐々に下の方、正座をしている自身の膝元へ降りていく。
「でもね、よく考えてみたら、
俺が率先して『やりたい!』って思って、
今までやってきたことは、全部、
周りの皆を楽しくするにはどうしたらいいかってことを、
ただ、考えてやってたことで、
周りに皆がいてこそ成り立ってたものっていうか、ね。
だから、去年のフランス研修旅行の時に、
俺は一人で日本に残ってたわけだけど、
ハルヒ達にも旅行を欠席してることは隠していたから、
学校にもいけないし、電話もできないし、
それじゃあ、思いっきり家で遊ぶか! なんて思っていたのに、
いざ一人になったら何をしていいか、全然分からなくなっちゃってさ」
環は恥ずかしそうに右手で首の後ろの方をさすった。
「だから、まあ、なんていうか……、
俺が何かやろう! とか考えることの原動力は、
常に周りの皆を楽しませることにあって、
自分自身がこれをやってみたい!
という意味での積極性では無かったんだよね……、
俺の言ってること、分かる?」
ちゃんと話せているか不安だったのか、
環は下に向いていた視線をそろそろっと持ち上げて、
ハルヒの顔色を伺っている。
「はい、大体は……」
自由気ままに行動しているように見えて、
実は周りに気を配って常に行動している。
環の行動の理由を、
ハルヒはそんな風に、自分なりに噛み砕いて理解していたのだが、
今の環の言葉は、それを別の角度から表現したものなのだろう。
「まあ、俺としては、
皆が楽しく思ってくれれば、それが一番だって思ってた。
だから、ホスト部が家族って言い出したのも、
実はそういう考えが基本にあって……、
ハルヒは気付いているかどうか分からないけど、
俺が部活動を家族に例えて言い出したのって、
実は、ハルヒが入部してきてからなんだよね」
「え? そうだったんですか?」
「うん。ハルヒが入部するって決まってから、
鏡夜から色々とハルヒのデータを見せてもらってね。
唯一の奨学生で、しかも高等部からの入学だと、
慣れないことが多くて大変だろうし、
ハルヒがそれまでクラスに馴染んでないってことは、
双子からも聞いていたから、
ハルヒを心から楽しませるには、
まず、ハルヒのことを学院の中で守ってあげなきゃなって。
そしたら自然と、自分が父親で、ハルヒが娘で、
俺のフォローをしてくれる鏡夜はお母さんで、
まだまだ世界が狭かった光と馨はお子様扱いでね。
モリ先輩とハニー先輩は、
こちらを見守ってくれているお隣さん夫婦、ってことにして、
なんかそういう世界を作ってた。……俺、変かな?」
「まあ、最初は……『何言ってるんだ、この人は』と思いましたけどね」
と、ハルヒが遠慮ない感想を述べたら、
環が「ええっ?」と声を上げて、
まるで迷子の子供みたいな目をしたから、
ハルヒは慌てて、フォローの言葉を繋いだ。
「いえ、でも、先輩が『家族』にこだわるのは理解できますし、
それでホスト部が一丸となっているっていうか、
まあ、あんなに個性豊かなメンバーが一つになってるのは、
環先輩のことを皆、信頼しているからだと思いますよ?
環先輩が皆のことをいつも考えてくれていることを、
皆、知ってますから……」
もちろん、自分も……と、付け足しかけて、
なんだか恥ずかしくなって、言葉をそこで止めてしまった。
「そうなのか?」
「いつも、部長らしい扱いは全くされてないですけど、
それも皆の愛情の裏返しだと思いますし」
「それは、ハルヒもかにゃ?」
「ええ」
間髪入れず頷いたのは、ほぼ条件反射に近かった。
「えっ?」
環がびっくりしたような声をあげたことで、
『自分が何を肯定したのか』ということに気づいた時。
「いえ、あの、今のは、ちが……」
ハルヒは、途端におろおろとし始めて、
両手を体の前で振って大慌てで否定した。
「ち……違うのか?」
「いえ、違わないですけど、違うっていうか、いえ、あの……」
「そうか、そうだったのか。
俺はハルヒにも部長として扱われてなかったのか」
環は、くすんくすんと鼻をすすり、目元の涙を拭う仕草をした。
「え、部長? え、ああ、いえ、そういう意味なら、
そう、そうです。環先輩のことは尊敬してますし。
ええ、はい、まあ、そういうことでオネガイシマス」
「何故、棒読みなのだ?」
「いいえ、キニシナイデクダサイ」
ハルヒの明らかに不審な言動を聞いて、環は大声で笑い出した。
「今のハルヒは、なんだかとっても可愛いぞ」
満面の笑顔で、そんなことを言われて、
ハルヒの頬や耳が一気にぶあっと熱くなった。
「そ、そういう言葉を、節操なく垂れ流さないで下さい!」
この人の直球な言葉は、本当に心臓に悪い。
「何故だ? 可愛いものを可愛いといって悪いことはないだろ?」
「か、可愛かろうが可愛くなかろうが、とにかく、ダメです!」
ハルヒはドキドキ跳ねる心臓の鼓動を感じながら、
ぜいぜいと反復する激しい呼吸を、必死で落ち着けようと努力していた。
「っていうか、環先輩。伝えたかったことって、どうなったんですか?
なんか色々お話しを伺ったように思いましたけど……、
結局、環先輩のホスト部に対する思い入れが、
今日、自分に話したかったことなんですか?」
「あ、いや、そうじゃない……ごめんね。
どうも俺は夢中になると、すぐ本筋を逸れる癖があるみたいで、
いつも鏡夜にも注意され……」
それは、環も無意識のことだったのだろう。
笑って気が緩んだせいか、
つい、ぽろりと鏡夜の名前を口にして、
それに気づいた瞬間、環の顔から笑顔がさっと消えた。
そして、その後、突然。
環は自身の胸の中心に、どんっと右手の拳を叩きつけたのだ。
「た、環先輩!?」
そのまま、右手の拳で胸を押えた環は、
胸が急に痛み出したかのように背中を丸め、俯いてしまった。
「環先輩、大丈夫ですか?」
環の様子が急におかしくなったので、
ハルヒは膝を立てて、環に近づくと、その肩に手を触れた。
「どこか気分でも?」
「ううん……ごめん……気分が悪いとかじゃなくて……」
苦しそうに返事をする環の身体は小刻みに震えている。
「……今、すごく……嫌な自分が、
俺の心の中に……出てきてしまってるみたいなんだ。
だから、ごめん、ハルヒ。ちょっと……待って……」
* * *
続