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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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君の心を映す鏡 -33-

君の心を映す鏡 -33- (環&崇)
 
失恋による心の痛みは、すぐに癒せるものではない。けれど、その傷みが、その人を成長させる。
悲しいけれど必要な痛みなんだと、光邦に鏡夜を諭す。同じ頃、環は、ある事実に気がついて……。

* * *

そうだった。俺自身、あったじゃないか。


『先輩はちっともおかしくなんかないです』

 
ハルヒにキスをしたいと思ったこと。
彼女を抱きしめたいと思ったこと。

あの時、俺の中に芽生えた彼女への感情は、
さっきの鏡夜が自分にぶつけてきた心と、一体何が違う?

鏡夜の言葉を借りるなら、
心から大切に、愛しく思う相手には、
キスしたいとか抱きしめたいとか、
そういう衝動的なことを、したくなるんだってことになる。

なら、あの時ハルヒに対して、
そういうことをしたくなってしまった俺自身も、
ハルヒのことを鏡夜と同じように想っているということだろうか。


ハルヒのことを『一人の女性』として愛しい存在だと。


崇は黙って環を見つめている。
その姿は環を見守っているようにも見えた。
その前で、環は小さく呻きながら項垂れて、
自分の心の中から、答えを見つけようともがいていた。

さっきの俺は、鏡夜の行動を、
ハルヒの気持ちなんてお構いなしだ、と責めたけど、
じゃあ俺自身がどうだったか考えてみれば、
ハルヒの気持ちなんて全然気にせず、
あの時は、思わず、衝動的に、理屈なんて一切抜きで、


ただ、彼女に触れたくなった。


それは多分、鏡夜がさっき言っていたのと、
似たような気持ちといえるのかもしれない。

「モリ先輩……でも、俺は……」

ただ、鏡夜の言葉の中に、
どうしても受け入れられない、引っかかるフレーズがある。

そこが、俺が鏡夜と決定的に違うところ。

「でも、モリ先輩、俺には……、
 ハルヒのことを、俺だけが独占するようなことはできません。
 俺は、皆が悲しむようなことはしようとは思いません。
 でも、さっき鏡夜は、ハルヒを自分のものにしたいんだって言ってて、
 だから、俺がハルヒを愛しく思っているといっても、
 それは鏡夜と全く同じってことじゃなくて、
 俺は、ハルヒが周りの皆にくれる幸せも、ちゃんと大事にしたいって、
 そう思っているんです」

ハルヒ。

俺は、君のことは、確かにとても愛しく思っているけれど、
君は『俺だけの君』じゃない。
周りの皆を無意識に救って、幸せをくれる人だから。

だから、俺だけが、『君の傍にいるっていう幸せ』を、
独り占めしてはいけないって思うんだ。


『さっさと告白でもなんでもして、ハルヒをお前のものにして、
 堂堂とあいつを守ってやったらいいだろう!!』



鏡夜は鋭く鉄槌を振り下ろし、
俺が守ろうとしていたものを、容赦なく壊していったけれど。

俺は、それでも守りたい。

俺の周りに居る全ての人が幸せでいる、
この温かい世界を守りたい。

壊れてしまって地面に落ちたそのガラスの破片を、
さらに俺の足で踏みつけて、
これ以上、粉々にするようなことはしたくない。


飛び散った欠片を拾い集めたら、
まだ、元に戻す術はあるかもしれないから。



「環。お前は、周りの人間を信頼していないのか?
「え?」

一方的に喋っているのを、黙って聞いていた崇が、
やっと口を開いてくれたと思ったら、どうにも台詞の脈絡が分からない。

「モリ先輩。それは、どういう意味でしょうか?」

自分がハルヒを好きなのかどうなのか、
そういう話をしていたと思うのに、
どうしていきなり、周囲を信頼していないとかいう話題になるのだろう。

そもそも、自分が周りの人間を、
信頼してないなんてことあるわけがないのに。

「俺は、お前が光邦をホスト部へ勧誘してくれたことには、感謝している。
 それまで光邦は無理をして生きていたから」

唐突な話題ではあったが、とりあえず話を合わせてみることにする。

「俺は何も大それたことはしてません。
 ただ俺が感じたことを、ハニー先輩にお伝えして、
 ハニー先輩がご自分で判断なさったことですから。
 ……ですが、モリ先輩。
 そのことと、俺が周りを信頼してないってご指摘は、
 一体、これまでの話と何の関係が?」

かなり長いこと、冷たい床に正座している所為で、
流石に足の感覚がおかしくなってきている。
環は、ぐっと痺れを我慢して、崇の説明を待った。

「環。光邦を救ってくれたお前に、俺は心から感謝している。だが……」

崇は言葉を続ける。

「俺がホスト部に入部したのは、光邦が入部を決めたからであって、
 お前のことは認めているとは言っても、
 光邦がいなければ俺はホスト部には入部しなかった

環が、崇の所に勧誘に行った時、
一通り勧誘の文句を黙って聞いてくれた後、
一番に帰ってきた返事は、『光邦は?』という言葉だった。

そこで『埴之塚先輩にも、これから勧誘に行く』と事情を説明したら、
『検討しておく』とだけ言われて、その場で明確な答えはもらえなかったのだが、
後日、二人揃って入部してくれることになった。
崇は剣道部との掛け持ちということだったけれども。

鏡夜が集めてくれた情報で、
二人が常に一緒にいることは知っていた。

崇がホスト部へ、兼部という形でも入部してくれたのは、
『埴之塚当主らしい自分』を演じることをやめて、
自分らしく行動する光邦を、間近で見ていたかったからかもしれない。

「俺は、お前のことも、鏡夜のことも、光も、馨も、ハルヒも、
 部の後輩として大切に思っている。だが、一番優先するのは、光邦のことだ
「それは、分かってますけど……?」

そう、入部時のことを持ち出されるまでもなく、
そんなことは最初から分かっている事だ。
なのに、今ここで改めて、環にその話をするのは何故か。

どうにも崇の意図がわからず、怪訝な表情を浮かべる環。

「環」

崇はゆっくり目を閉じ、静かに言葉を紡ぐ。

「お前は、俺が他の誰よりも光邦を優先するところを見て、
 嫌な気分になるか?

「え? そんなこと思うわけないじゃないですか。
 だって、モリ先輩がハニー先輩を、
 すごく大切にしてらっしゃることは知ってますし、
 そういうところを見ていると、こう日本の伝統文化といいましょうか、
 武士道とか忠誠心というか義の心? っていうんでしょうか、
 そういうものを感じて、むしろ清清しいというか……」

途中で何を言っているのか、
よく分からなくなってしまったけれど、
とりあえず、嫉妬とか羨望とか、
そういったものは感じないのだということを、環なりに精一杯表現すると、

「それと、同じではないのか?」

崇は目を閉じたままで、呟くように言った。

瞼も、眉も、頬も、正座をしたその姿勢も、膝の上に置いた拳も、
こんなに冷たい床の上に長時間座っているのにぴくりとも動かないが、
普段はぴたりと閉じられていることが多いその口だけが、
今日はいつもと違う動きを見せる。

「お前は周りの皆を幸せにしたいから、
 自分はハルヒを独占しないのだと言う。
 だが、お前が一人の女性を守ると決める。
 ハルヒに対してちゃんと自分の『立ち位置』を決める。
 その姿を見せられた時、
 お前以外のハルヒの周りの人間が、皆不幸になると思うか?
「そ、それは……」
「周りが受け入れてくれると、信頼もせずに、
 お前が自分の気持ちをいつまでも明確にしないことは……」

滅多に聞くことの無い、崇の長々とした言葉が、
環の不安にずばずばっと切りこんでくる。



「皆を幸せにするどころか、却って、
 周りの人間を傷つけることになっていると、俺は思う




そこまで言い切ると、いつものように崇はピタリと口を閉じた。

「モ……モリ先輩……」

最後まで崇の説明を聞いて、
環にもやっと、崇の言いたいことが見えてきた。


『何が、お父さんと娘だ。何が家族設定だ。 
 お前が何に遠慮してるかは知らないが』



同時に、心の内側の、それも一番深いところから、
湧き上がってくる熱い想い。


『お前は俺を本気で殴るくらい、
 お前はハルヒのことを大切に思ってるんだろう?
 だったら、父親だの娘だの、そういう言葉で誤魔化さずに……』



『遠慮』だとか、『誤魔化す』だとか。
さっきの喧嘩の中で、
鏡夜は俺の行動をそんな風に表現していた。

いつも俺が、何を一番に考えて行動してきたのか、
鏡夜が知らないはずがないのに、
なんで鏡夜がそんな酷い言葉を連ねて、
今と言う幸せを壊すのかが分からなくて、
第三音楽室を飛び出した直後は、涙ぐんでしまったのだけれど。

「俺が決めないと、却って、皆を傷つける……?」

周りの皆のことを考えている、と言えば聞こえはいいが、
それは結局、自分がハルヒに対して行動を起こすことが、
鏡夜や、双子達、それ以外にも沢山の人を傷つけると、
自分が『勝手に』決めつけていただけのこと。

そして、さらに悪いことに、
そのことにずっと無自覚のまま、
自分の描く『幸せの形』を、周りの皆に押しつけてしまっていた。


周りの人間の心の強さを信じもしないで。



可愛らしくて、時には頑固で。
強くて、時には不器用で。
無邪気で、時には的確に物事を追求して。
興味がなさそうな素振りをして、実は周りのことを良く見てたりいる。

藤岡ハルヒ。

今、俺の近くに居る、、こんなにも素敵な彼女の存在は……。


『今のお前の周りには、
 かつての私がなかなか見つけられないでいた大切なものを、
 もう見つけられるだけの条件がちゃんと揃っている。
 だから、お前は私のように、後悔することないよう、しっかり考えなさい。
 これからの自分にとって大切なものが、一体なんなのか』




何にも代え難い、一番大切な幸せの光。



【ほら手を伸ばせば、すぐそこにある】 


もしかしてこれが……父さんからの宿題の答え……?


「モリ先輩。やっと、分かりました。俺は……
「分かったなら、それでいい」

環がばっと顔をあげ、
ようやく整理できたハルヒへの想いを口にしようとしたら、
崇は間髪いれずに言葉を割り込ませると、静かに立ち上がった。

今日、環と南校舎前でぶつかってから、
ずっと無表情だった崇の顔に、
この時初めて、とても穏やかな笑顔が浮かんだ。



「今の言葉の続きは、その『相手』に一番に伝えてやるべきだろう」



* * *

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