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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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君の心を映す鏡 -32-

君の心を映す鏡 -32- (鏡夜&光邦)
 

環との喧嘩の中で、鏡夜が発した言葉の全てが真実で、演技ではないということを、
すっかり見抜いていた光邦は、ソファーに座ってうつむいた鏡夜の頭を優しく撫でて……。

* * *

「だから、鏡ちゃん。平気な振りなんて、しなくていいんだよ?」

いつものように、眼鏡が瞳をカバーしてくれないから、
鏡夜は目元にかかる前髪で、自分の表情を隠してしまおうと俯いた。

「……ハニー……先輩」
「なあに?」

これ以上、みっともない姿は晒したくないのに、
俯いた顔は自然と歪んでしまう。

今にも溢れそうな、心の涙を堪えようとして。

「どうして……」

自然と震える唇を通って、
空気に伝わる自分の声は何処か安定しない。

「どうして……ハルヒ、だったんでしょうね」

桜蘭学院の奨学生として入学してきた人物が、
あの日、第三音楽室に迷い込んできた人物が、

「あの馬鹿が……選んだ、相手が……」

あの夏の夜、自分の部屋に飛び込んできた人物が、
自分の心を、的確に見抜いてきた人物が、

そして、

「俺、が……」


初めて本気で、好きになった相手が。


最後の台詞を嗚咽と共に飲み込んで、
鏡夜はもう一度、同じ言葉を繰り返した。

「どうして……ハルヒ、だったんでしょうね……」

親友が好意を寄せるのと同じ人を大切に想うこと。
その人が選ぶのは自分ではないこと。
彼には出来て、自分には彼女を幸せにできないこと。


全てが、初めて感じる、例えようのない痛み


なんとか最後の堰を切ってしまわないように、
目元に溜まった涙を、唇を噛みしめて堪えていると、
光邦は鏡夜の頭を撫でていた手を離し、鏡夜の前にしゃがみこむ。

「ねえ、鏡ちゃん」

そして、前髪の下に隠していた、鏡夜の顔を下から覗きこむ。

「もしも、鏡ちゃんが、このままずっと何も言わないで、
 たまちゃんとハルちゃんの二人の周りで見守っていたら、
 たとえばこの先、たまちゃんが、
 何かのきっかけでハルちゃんへの気持ちに気付いたとしても、
 今日みたいに、鏡ちゃんやたまちゃんが、
 本気で喧嘩して、ぶつかりあって、
 お互いに心を痛めることはなかったかもしれない。
 ……でも、それじゃ多分、手に入らないものがあるんだ

間近に光邦の視線を感じながらも、
鏡夜は、目を合わせることができなかった。

顔を上げたら、無様に泣いてしまいそうで。

「鏡ちゃんが、今、心の中で感じているような、
 とても寂しくて、とても辛くて、今にも引き裂かれそうな、
 そういう心の痛みを知った人は、
 『誰かを大切にするって気持ち』が、
 どれだけ温かいもので、どれだけ素敵なことなのかを、
 本当に心の芯から実感できると思うんだ」


【ぼろぼろになった心が、自分に教えてくれること】


「大丈夫。鏡ちゃんの心は、ちゃんとここにあるよ。
 どんなに粉々になっても、苦しくて傷ついても、
 無くなってしまったわけじゃない。
 好きな人に、自分の想いが伝わらないのは、確かに辛いし苦しいよね。
 でも、この痛みは、ただ失うためのものじゃない。
 『誰かが誰かを大切に思う』っていうことが、
 どれだけ素敵で幸せなことなのかを、知るために必要な痛みなんだ


昨日から今日にかけて、
自分は、色々と壊してしまったはずだった。
ハルヒへの気持ちも、環の作り上げた幸せの形も。

そんな、ずたずたに切り裂かれた鏡夜の心に、
光邦の言葉が柔らかく流れ込んでくる。

「鏡ちゃんは、たまちゃんに気付いて欲しかったんだよね。
 時には他人を傷つけることがあっても、
 それを乗り越えなきゃ、辿り付けない幸せもあるってことを、
 たまちゃんに、気付いてほしかったんだよね?

鏡夜が返事をしないので、
一方的に話す形になってしまっていたが、
光邦は途中で諦めることなく、
根気よく、鏡夜に対して労わりの言葉を続けてくれた。

それらは、鏡夜の心に生まれていた空洞を、徐々に満たしていく。

そして……。


「俺は……ちゃんと……言えましたかね?」


……ついに一筋の涙が、鏡夜の頬を伝ってぽとりと落ちた。


「うん、大丈夫。たまちゃんなら、きっと分かってくれるはずだよ」


頬を伝った涙の筋を、拳で拭き取って、
鏡夜がようやく顔を上げると、
光邦が鏡夜の視線を、満面の笑みで迎えてくれた。

「……色々と……お気遣いありがとうございます。ハニー先輩」

光邦の無邪気な笑顔に釣られて、
鏡夜もやっと笑顔を浮かべることができた。


心からの笑顔を。


目元をこすりながら、鏡夜が壁の時計を確認すると、
時間が経つのは早いもので、もう午後二時を回ろうとしていた。

「……そろそろ、俺は帰りますが、ハニー先輩はどうされますか?」
「うーん。僕は崇を探してから一緒に帰るよ。
 こっちに来るって言ってたのに、一体、何処で道草くってるんだろうねえ?

第三音楽室の扉に鍵をかけ、
鏡夜と光邦は雑談しながら廊下を歩いていく。

「でも、鏡ちゃん。盗み聞きしちゃって、本当にごめんね。
 このお詫びはちゃんとするからね」

階段を降りて、南校舎の出入り口に差し掛かって別れるときになって、
光邦は本当に申し訳なさそうに謝ってきた。

「いえ、偶然が重なっただけですし、気になさらなくて結構ですよ」
「でも、やっぱり悪いと思うし……うーん……あっそうだ!
「なんです?」
「お詫びに、僕は、鏡ちゃんを救う『伝説の勇者』になってあげるよ」
「……『勇者』……ですか?」

それは以前、ホスト部のグッズでドラマCDとやらを作ったときの、
光邦の配役ではなかっただろうかと、鏡夜は記憶を反芻する。

「いつか、鏡ちゃんが今と同じくらい……ううん、
 それ以上に辛く思うときがあったら、
 その時は、僕が絶対助けにきてあげるからね!

今と同じって……ハニー先輩」

鏡夜は少々呆れ顔で、邦を見下ろした。

「今日のようなことは、そうそう経験したいものじゃありませんが?」
「あ……それもそっかあ」

えへへ、と小さく舌を出して、
恥ずかしそうに頭を掻いている光邦を見て、
鏡夜はふっと笑みを零した。

「まあでも、もしも、そうなったら、その時はよろしくお願いします」

折角の光邦からの提案ではあったが、
この時の鏡夜は、この光邦の申し出は、
単にこちらを励ますための冗談だと思っていた。

「うん!」

光邦自身も、この時は大して深い意味は込めてなかっただろう。

……けれど、五年後の春。

今とは比べ物にならないほどの痛みが、
彼と、彼の愛しい人を襲った、その時に、
この約束は実行に移されることになる。



まだ誰にも、それを知る術はなかったけれど。



* * *

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