『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -26- (環&鏡夜)
ハルヒをめぐり、互いに一歩も引かぬ口論の中、ハルヒを大切に想う気持ちは負けないと言い張る環。
そんな環に鏡夜が問う。自分と同じように、ハルヒを一人の女性として大切に想っているのか、と……。
* * *
「俺がハルヒを、一人の女性として……大切、に?」
大切なものを探せと言われていた。
そう、父さんから出された宿題だ。
昨日の夜、突然父さんから、
ハルヒのことをどう考えているのかと聞かれて、
俺は、ハルヒのことを実の娘のように愛しいと思っていると答えた。
そしたら、父さんは俺に言った。
皆を幸せにするっていう夢は素晴らしいものでも、
その夢を叶えること以外にも大切なものがあって、
それを今、見つけないと後悔するって。
父さんは昔、仕事ばかりに夢中で、
それを見つけるのに時間がかかったから、
俺や母さんに辛い思いをさせたのだという。
でも、今の俺には、もう大切なも何か、見つけることが出来るはずで、
それに鏡夜は気付いてるって、父さんは言ってた。
宿題の答えは、まだ出ていない。
鏡夜の言ってることは、もしかすると同じことなんだろうか?
父さんから昨日聞かれた、俺が見つけなければいけないものと……。
「……」
激しく言い争っていたはずなのに、
何故か鏡夜は黙り込んで、環の返事を待っているようだった。
けれど、なかなか答えを出すことができなくて、
喋ることができない唇と、鏡夜の胸倉を掴んだ手が、少しずつ震えだす。
「……俺に負けないと、そこまで啖呵を切っておいて」
その、環の様子を見た鏡夜は、
答えがすぐに出ないことを悟ったようだ。
「即答……できないわけか?」
「そ、それは……」
ハルヒのことは確かにすごく愛しい。
ハルヒのことはいつだって心配だし、
ハルヒには自分の傍で、いつも笑顔で居てほしいし、
自分にとって大切な存在だと、十分思ってるし、
そのハルヒのことを大事にする気持ちは、
誰にも負けないとも自負している。
でも。
俺は鏡夜みたいに「自分だけのもの」として、
ハルヒを独占したいという風には思わない。
だって、俺は知ってるから。
鏡夜も、光や馨も、ハニー先輩やモリ先輩も、
ホスト部に来てくださるお客様も、
ハルヒのクラスメイトの皆も、
蘭花さんとか美鈴さんとかご近所の方々とか、
中学時代の友達の新井君とか、
皆がハルヒのことが大好きで、
そして、ハルヒは知らず知らずに、
自分の周りにいる皆のことを救ってくれている事。
それを、俺は知っているから。
でも、それを理解する一方で、
ハルヒを誰にも傷つけられたくないって思う気持ちがある。
今、鏡夜にぶつけてしまったような、
ハルヒのために沸き上がる、激しい感情がある。
鏡夜が今、俺に苛立っているのは、
こうした俺の一貫しない気持ちを、見抜いているから?
俺が今、こんなにも鏡夜に怒るのは、
自分でもこの二つの相反する感情を、どう処理していいか分からないから?
「……もう、いい加減にしてくれないか?」
「え?」
「俺はうんざりしてるんだよ。
お前の『家族ごっこ』に付き合うのも。
お前のフォローをし続けるのも……今のお前とハルヒの傍に居るのも!」
一旦は萎みかけていた環の怒りが、
彼の言葉に含まれた、悪意のあるフレーズに突かれて、
再び心の表面に浮かび上がってくる。
「か、家族ごっこって……そんな言い方はないだろう!
俺は皆のためを思ってだな……」
「それが『うんざり』と言うんだ」
鏡夜の質問に、きちんとした返事を返さないまま、
再び口論を始めようとした環を、鏡夜はどんどん追い込んでくる。
「何が、お父さんと娘だ。何が家族設定だ。
お前が何に遠慮してるか知らんが、
俺を本気で殴るくらい、お前はハルヒのことを大切に思ってるんだろう?
だったら、父親だの娘だの、そういう言葉で誤魔化さずに……」
鏡夜は、ぎりっと歯を食いしばって、
見つからない答えに惑い続ける環に、一気に感情を爆発させた。
「さっさと告白でもなんでもして、ハルヒをお前のものにして、
堂堂とあいつを守ってやったらいいだろう!!」
見つからない、宿題の答え。
コントロールできない、自分の感情。
親友が吐露する、隠された想い。
全ての思いがぶつかり合ったとき、
環の脳裏に浮かんだのは『崩壊』のイメージ。
「う……うるさい、うるさい、うるさいっ!!」
からからと壊れていく音がする。
今まで築いてきた幸せな世界が壊れていく音が。
それなのに、答えへの道筋はまったく見出せないまま、
環の心は白い深い霧の中に迷い込んでゆく。
環は鏡夜の制服から手を離すと、
彼に向かって荒々しく言葉を吐き出した。
「お、お前の指図は……受けん!!」
言うや否や、ばっと鏡夜に背を向けた環は、
床に転がったままの自分の学生鞄を慌しく拾い上ると、
第三音楽室の外に走り出してしまった。
「おい、環!」
後ろで鏡夜が自分を呼ぶ声がしたけれど、
立ち止ることも、振り返ることもできなかった。
どうして。
怒りなのか悲しみなのか、強い感情に揺さぶられて、
環の目には徐々に涙が溜まってくる。
どしてなんだよ、鏡夜!
俺が望むことは、そんなに大袈裟なことじゃない。
自分の周りの人間が、常に楽しくあること。
皆がその楽しさで、笑顔を浮かべること。
周りの皆の笑顔で、俺自身も笑顔になって、
俺が心からの笑顔を浮かべれられるように、
自分らしく生きていることこそが、母さんを喜ばせることにつながって、
そして、皆が幸せになれて、幸せなら毎日が楽しくて……。
それが俺の望むこと。俺の描く夢。幸せのリング。
その輪の核になる部分に、今はハルヒがいる。
鏡夜。
お前はそのことを、誰よりも理解してくれてると思ってたのに。
なのに、どうしてお前なんだ?
よりにもよって、
俺が一番信頼していたはずの鏡夜、お前が……。
お前が……壊すというのか? この幸せの循環を。
ろくに前も見ず、俯き加減の前傾姿勢で、
猛スピードで廊下を走り抜け、階段を駆け降りた環は、
南校舎の入り口から外に走り出ようとした。
丁度、その時。
「わ……っ!!」
前を良く見てなかった所為で、
中に入ってこようとした誰かと思いっきりぶつかってしまい、
反動で、環はその場に尻餅をついてしまった。
「……す、すみませ……」
痛さに目を細めて、腰を摩りながら環が謝ると、
「環?」
聞き覚えのある低い声が、彼の名前を呼んだ。
「大丈夫か?」
かなりの勢いでぶつかったはずなのに、
地面に転んでしまった環とは対照的に、
その人物は立ったまま、環を助け起こそうと手を伸ばしてくる。
「え? その声……」
地面に伸びる長い影。
そうっと環が顔を上げると、そこに居たのは……。
「モリ……先、輩?」
* * *
続