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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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君の心を映す鏡 -20-

君の心を映す鏡 -20- (鏡夜&ハルヒ)

城之内女史に引き止められてしまい、遅れて第三音楽室に向かうことになっ環。
扉を開けると、長椅子の上で鏡夜とハルヒの二人が絡み合うように倒れていた。二人に何があったのか?

* * *

環が3-Aの教室で城之内女史のモールス攻撃を受けていた頃。

「あれが、鏡夜先輩の優しさだってことはちゃんと分かってますから」

一足先に第三音楽室に着いた鏡夜は、
ハルヒにそう言われて、言葉を喉に詰まらせた。

どれだけ綿密に計算をしてみたところで、
鏡夜の予測不可能な行動をするところは、
ハルヒは環と、とても良く似ている。

今だって、昨日の愚かな自分の行為を、
優しいなんて、なんとも意外な言葉で表現してみせる。


それが、どれほどこちらの心の中を、
掻き乱すことになるのか、気づきもしないで。



「優しさ、ねえ……」

彼女にキスをしようとした、あの瞬間には、
ハルヒにこんな風に肯定してもらえるような立派なことなど、
正直、何一つ考えていなかった。

ただ、溜まりきっていた苛立ちを形にしただけ。

拒絶されるのはショックだが、
あまりに買い被られすぎるのも、逆に惨めな気分になる。


今、手を差し出せば触れることのできる距離に、彼女はいる。


いっそのこと無理やり捉まえてしまおうかと、心は揺らめいたけれど、
右手に少し力を込めると、
彼女に抉られた傷の痛みが蘇り、それが自分にブレーキをかける。

そう……もう、わかっていることだろう?

自分の抱いている望みは、叶わないものだということ。

否。



決して、叶えてはいけないものだ、ということを。



空虚な心は一向に塞がらないままで、
ハルヒに対するもどかしい気持ちは、
そう簡単に消えるはずもなかったけれど、

鏡夜にはこれ以上、ハルヒを困らせる気は無かった。
……だから、もう一度、笑顔を作ってやった。


「相変わらず、興味深い感想だ」



大切な彼女の目の前で、笑顔を浮かべてやった。

自分の笑顔なんて、
ホスト部の接客でいくらでも見慣れているはずなのに、
どれだけ驚いたというのだろう、
ハルヒは信じられないものを見たように、
ぎょっと目を大きく見開いている。

「何だ、その顔は?」
「い、いえ別に……あ、先輩。昨日見せてもらったイベントの内容、
 一応、家で書き起こしてみたので確認してもらっていいですか?
 よければ新しい用紙に転記しちゃいますんで」
「ああ……見せてみろ」

切ない心をぐっと飲み込んで、
ハルヒが差し出したレポート用紙を受け取った鏡夜は、
音楽室の部屋の一角に置かれた横長のソファーに向かい、
その端に腰掛けて紙面に目を通そうとした。

その鏡夜の耳に、微かな音が聞こえてくる。


きゅるるるる。


「ん?」
「あっ……」

視線を上げると、ハルヒが恥ずかしそうに、
顔を赤らめてお腹を押さえている。

「す、すみません。今日は朝食を食べ損ねて……」
「ああ……食べながらで構わないぞ。弁当なんだろ?」
「はい」

頷きながら、ハルヒは鏡夜の隣に座ったが、
すぐに弁当箱を広げることも無く、
レポート用紙に目を通していた鏡夜におずおずと尋ねてきた。

「あのう。鏡夜先輩、お昼はまだですよね?」
「授業が終わってから直行したから、まだだが、
 まあ、今日は午後の授業もないし、
 この後、食事にすればいいから問題ないが?」

昼食の時間に鏡夜を呼びつけておいて、
一人だけ弁当を食べることに気が引けているのだろう。

だから、鏡夜は全く気にしないという意図で、そう答えてやったのだが、
ハルヒは鏡夜の答えを聞いてもなんだか落ち着きが無い。

「何か問題が?」
「いえ、その、実はですね」

そわそわとした様子で、ハルヒは手提げから弁当箱を取り出し、
その包みを鏡夜の前にすっと置いた。

「何だ?」

自分の目の前のテーブルの上に、
どんっと置かれた弁当の包みを見て、
鏡夜はハルヒのことを怪訝な表情で見つめた。

「あの……昨日怪我をさせてしまったお詫びに、
 鏡夜先輩の分のお弁当を作ってきたので、良かったらどうぞ」
「お前が……俺に?
「自分に出来るのって料理くらいですし
 あ、もちろん先輩達がいつも食べてるような、
 高級食材を使うのは無理ですけど、
 昨日、あの後スーパーにいって、
 食材を買ってきたので、いつもの残り物じゃないですよ?」
「……」

まさか、ここでハルヒの手作り弁当が登場する、なんて、
思っても見ない展開に戸惑う鏡夜の前で、
ハルヒは『鏡夜の分』だという弁当の包みを解いて、
中に入っていた二段の弁当箱をテーブルの上に並べている。

「……昨日のことは俺の所為だといっただろう?
 お前が俺に詫びる必要なんてない」

むしろ謝るべきは自分の方だというのに、
逆にハルヒから謝られてしまうとは、なんという居心地の悪さだろう。

それなのに、自分のくだらないプライドが、
素直になることを邪魔をして、
つい彼女を責めるような言葉しか出てこない。


つくづく、自分はこういうとき不器用だと思う。


この気持ちの悪さをどう扱っていいのか分からなくて、
折角ハルヒが用意してくれた弁当にも、鏡夜が手を出せずにいると、

「すいません。やっぱり自分の弁当なんてお詫びになりませんよね。
 こんど、もうちょっとちゃんとしたものを……」

ハルヒが申し訳なさそうに弁当箱をしまおうとしたので、

「まあいい。ハルヒ、中を開けてくれ」
「はい?」
「片手じゃ開けれないだろう?」

嬉しいとか、有難うとか、悪かった……なんて、
環ほど率直に感情を表すことは、
鏡夜にはできそうにもなかったから、
ハルヒの気遣いを遠まわしに受け入れてやることで、答えに代えることにした。

「あ、は、はい」

ハルヒが開けてくれた弁当箱の中身を、
鏡夜は、ほう、と興味津々で覗き込んだ。

「なんだか妙に、こまごまとした物が多いんだな。
 これが庶民の弁当と言う奴か?」

色とりどりのおかずが、ぎっちりと入った弁当の中身に、
なんだか妙に感動を覚える鏡夜。

「だって、鏡夜先輩、右手を怪我してるから、
 一口サイズのおかずなら、
 左手でもフォークを使って食べれると思いまして……、
 ご飯も、片手で持って崩れないように、
 小さめのオニギリにしてきたんです。
 中身はオーソドックスに梅干とおかかとシャケと……」

【まさかのお弁当タイム!】

「それにしても、何故、こんなに隙間無く詰めているんだ?
 見栄えが悪くないか?」
「歩いたときの振動とかで中身が片寄らないように、
 隙間無く詰めるものなんですよ」
「そういうものか?」
「……もしかして、自分が食い意地が張ってるから、
 出来るだけ沢山、おかずを入れるために、
 こんなふうに詰めた
とか思ってませんよね?」

食べ物で汚してしまわないように、
ハルヒのレポート用紙を机の端に置くと、
鏡夜は差し出されたフォークを受け取り、
ひょいっと、ハンバーグのような色合いの丸い形状のものに手を伸ばした。

「……」

特に感想を言うこともなく、
次々とおかずを食べていく鏡夜の様子を、
ハルヒも隣で弁当を食べながら、じっと伺っているようだ。

「じろじろと人の顔を見て、何か言いたいことがあるのか?」
「いえ、自分の弁当が先輩のお口に合うのかなって」
「別に……充分旨いと思うが」
「本当ですか?」
「ああ、わざわざ手間をかけさせて悪かったな」

二人で並んで弁当を食べる、なんて、
恋人同士でもないのになんの因果かとも思えたが、
しかし、その和んだ空気が、
滅多に素直になれない自分の心を、解いてくれた気がする。


「ありがとう、ハルヒ」


ようやく率直に礼を言うことができたと思ったら、
ハルヒが若干表情を堅くして、びくっと肩を上げた。

「なんだというんだ、さっきから」
「だって、鏡夜先輩に素直にお礼を言われると、逆に怖いっていうか……」
「お前な……」

もしも。

この時、環が第三音楽室に現れてくれていたら、
「ハルヒの手作り弁当を、鏡夜だけ食べるなんてズルい!」 とか、
おそらくいつものような調子で、
鬱陶しく騒がれる程度で、事は済んだはずだった。

だが、環の登場は、まだもう少し先のことで……、
その僅かな遅れが、事態を予想外の方向に進めてしまうことになる。

* * *

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