『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -2- (鏡夜&環)
高校三年生の12月。ホスト部引継ぎの準備をしていた鏡夜と、いつもの調子で話をしていた環。
しかし、鏡夜から内部進学をせず別の大学を受験すると告白され、環の顔は蒼白になって……。
* * *
「おや、話してなかったか?」
鏡夜の視線の先、パソコンの画面の向こうで、
鏡夜の発言に驚いて、環の顔が心なしか蒼ざめている。
「内部進学しないって、鏡夜、それはどういうことだ?」
「言葉通りの意味、だが?」
「……」
一瞬、気まずい沈黙が二人の間に流れた後。
「な、なんだと!! お、俺は、てっきり鏡夜も一緒に、
内部進学するのだとばかり、思っていたぞ!」
黙っていれば整った顔をしているというのに、
一気に顔の表情を崩して涙目になった環は、
情けない大声を上げて立ち上がると、鏡夜の肩にしがみついてきた。
「うちの大学部には、モリ先輩もハニー先輩もいらっしゃるし、
再来年になればハルヒも法学部に上がってくるだろうし、
あのドッペルゲンガーズだって……。
そしたらまた大学部でも、今と同じような何か周りを楽しくさせるような企画を、
ホスト部の皆で一緒にやろうと思っていたのに、
鏡夜、お前……こ、国立受験なんて、
今まで、ひ、一言も言ってなかったじゃないか!」
環の勢いで前後に身体を揺すられた鏡夜は、
眼鏡がずり落ちないように右手で押さえながら、
はた迷惑そうな顔で、環を睨んだ。
「俺は『内部進学する』とも言った覚えはないが?
それに、もともと留学を希望してることは言ってあっただろう?」
「そ、それは聞いてたけど、
卒業後すぐの留学は取りやめたって言ってただろう?
大学に行ってから、在学中に留学するからって。
そもそも、俺とお前の仲で隠し事とは酷いじゃないか!
外部の大学を受験するなら、もっと早くに教えてくれても……」
「隠す隠さない以前に、俺はお前に、
進路のことを聞かれた覚えが全くないんだが」
混乱している環に、鏡夜が冷たい調子で答え続けていくと、
環の声は少しずつ小さくなっていく。
「そ、それは、そう、だったかも……しれんが……、
それは、鏡夜が留学をやめたって聞いてたから、
当然うちの大学部にいくものだって……思って……」
「とにかく。暑苦しいから、離せ」
環の顔を半眼で見つめながら、その腕を払うと、
鏡夜はブレザーの襟元を調えながら椅子に座りなおした。
まあ、この馬鹿がこういう反応をすることは予想の範疇だったがな。
環が話題にしないことを良いことに、
敢えて高校卒業後の進路の話題を、
自分からしようとしなかった鏡夜は、明らかに確信犯だ。
「まあ、いいじゃないか。俺は行かないにしても、
ハルヒは奨学金の件があるから当然そのまま上にいくだろうし。
今度は……ハルヒと組んで何かやったらどうだ?」
そう提案しながら、ちらっと環の顔を見上げてみれば、
鏡夜の言葉の裏の裏にある意味を分かっているのかいないのか、
環は相変わらずおろおろと、戸惑った表情をしているだけだった。
「だ、駄目だ! 駄目だ! 鏡夜がいなかったら、
誰が子供達の面倒を見るというのだ。男手一つで育てろというのか?」
「……」
全く。この馬鹿の鈍感ぶりには、ほとほと呆れ果てる。
もう時期卒業する、この期に及んで、
まだ俺は「お母さん」で、お前はハルヒの「お父さん」だというのか。
「お前のその妄想家族設定については、色々と言いたいこともあるが、
一つ前提として言っておくと、光と馨も内部進学はしないと思うぞ」
「へ? 何故だ?」
「デザインの勉強が本格的にしたいようだから、
海外の大学に行くとかなんとか言って、
二人で色々資料を集めていたみたいだからな」
「な……」
よろよろと後ずさりながら、どさっと椅子に腰を下ろした環は、
机の上にうつ伏せになって茫然と目を見開いて、ぶつぶつと何事か呟いている。
「何故だ……何故、皆、俺の知らないところで、
お互いの進路を相談し合っているのだ……。
俺は一家のお父さんなのに……俺だけ……除け者……?」
体育座りをしたかと思えば、人に掴みかかり、
椅子に座ったと思えば、今度はしくしくと泣いてみせる。
鏡夜を疲れさせる理由の大半は、
環の過剰な感情表現によるところも大きいのではないかと、
鏡夜は常々感じていた。
もっとも。
環が普通にしていられない理由も、
全て分かった上で、
鏡夜は環の言動に付き合っているわけだが。
「営業中でもないのに、無意味にオーバーなリアクションをするな。鬱陶しい」
ただ、客がいるときならともかく、
二人きりのときまで、このテンションを維持されると、
さすがに少しうんざりする。
「別に俺も、双子達も、お互いに相談して進路を決めたわけじゃない。
俺は今後のために桜蘭学院以外の人脈も広げておきたかったし、
ま、俺自身のメリットを考えて決めたことだ」
「じゃ、じゃあ。鏡夜が受験するなら俺も同じところを!」
「センター試験の申込期限は十月だ。もう、とっくに過ぎている」
「う……」
なんのフォローもなく、ざっくりと容赦ない止めを刺された環は、
椅子から転げ落ちるように、ふらふらと準備室の片隅に歩いていくと、
そこにしゃがみこんでしまった。
「おい。まだ合格すると決まったわけではないし、
合格したとしても、俺もすぐに留学するわけじゃないし、
二度と会えなくなるというわけじゃないだろう。
どうしてそこまで落ち込む必要が?」
「……」
「それに、お前が内部進学するというのは、
お前が、自分で考えて、それなりに理由があって決めたことだろう。
俺の進路でどうこうするような問題か?」
「……それは……そうだが……でも……俺は……」
やれやれ。
「済んだことをいつまでもあれこれ言うな」
床に人差し指の先を付いていじけている環の様子に、
鏡夜は作業の続きをすることを諦め、ファイルを保存すると、
ノートパソコンの画面をぱたりと閉じた。
「それはそうと、環。何か俺に用事があったんじゃないのか?」
「……」
鏡夜の質問に、環はふらふらと立ち上がると、
俯いたまま準備室の入り口の方へ、肩を落として歩いていく。
「環?」
「ちょっとハルヒへの部の引継ぎのことで……相談しようかと思ったんだが……」
入り口の前で立ち止まった環は、
鏡夜の隠し事に完全に拗ねてしまったようだ。
「もういい……今日は、先に帰る」
そう、ぼそっと呟くと、
環は鏡夜を残して準備室を出ていってしまった。
散々わめいていた環が居なくなって静かになった教室の中は、
徐々に夕焼けの赤い色も消え始めて、
夜の闇が窓の外を紺に塗りつぶしていく。
その中で、一人残された鏡夜は、
眼鏡の位置を直しながら深い溜息を吐いた。
「……参ったな」
* * *
続