『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -1- (鏡夜&環)
親友を失って二度目の冬。目を閉じれば、思い出すのは高校時代の彼のこと。
夢と現実の狭間を漂う意識の中で、鏡夜の記憶は「現在」から「過去」へと遡る……。
* * *
「鏡夜! おーい鏡夜! 何、ぼんやりしてるんだ?」
いきなり耳元で大声を出されて、鏡夜がはっと我に帰ると、
やや茶色がかった金髪に、青い瞳の男が、テーブルの向かい側に座って、
心配そうに彼の顔を見つめていた。
「……た、まき?」
一瞬、自分が何をしていたのか分からなくなって、
困惑した表情を隠すために意識的に眼鏡の位置を直しながら、
その指の下で、鏡夜はゆっくりと瞬きをした。
「さっきから何度も呼んでいるのに返事がないから来てみれば、
パソコンをぼけっと見てるだけで、一体どうしたのだ?
疲れているんじゃないのか、鏡夜」
そう言われて、目の前に視線を投じれば、
ノートパソコンのディスプレイ上に、ぐるぐると幾何学模様が踊っていて、
鏡夜がぽんと指先でキーを叩くと、その模様が崩れた裏から、
無機質な数字と線で構成された表が画面に出現する。
「いや、別に。少し……考え事をしていただけだ」
素っ気無く答えてみたものの、
鏡夜はさっきまで自分が何を考えていたのか、
全く思い出せなくて、内心、少し動揺していた。
なんだか、随分遠いところに居たような妙な気分がする。
ここは桜蘭学院高等部。第三音楽室の隣の準備室。
斜陽に赤く照らされた室内は、いつも通りの見慣れた風景。
環の言葉で、今まで自分は、
テーブルの上にパソコンを置いて作業をしていた、ということを、
やっと思い出した鏡夜は、再びキーボードの上に両手を置いた。
「部の引継ぎの資料作りもいいが、家の方も最近は忙しいんだろう?
最近ちゃんと寝てないらしいって、芙裕美さんも心配していたぞ」
厳格な鳳家にあって、何故かおっとりとした性格の姉、芙裕美は、
鏡夜の親友である環とフィーリングが合うようで、
鏡夜にとってみれば、全くメリットのないと思われる思いつきイベントを、
たまに二人で企画して遊んでいるらしい。
「まだ飽きもせず、姉さんと一緒に『庶民グルメマップ』作りとやらを?」
一年前にそれを明かされたときに、
「自分の知らないところで何をしているんだ」と、
鏡夜は環を半殺しの目に遭わせたというのに、
まだ凝りもせず続けている様子だったので、
鏡夜が静かに嫌味を言ってやれば、
その意味が分かっているのかいないのか、
環は嬉しそうに頬を紅潮させて喋りだした。
「うむ。鏡夜も今度一緒に行こうな!
先週の日曜に行った下町の甘味所の『焼き餅入りぜんざい』が、
それはもう絶品で……」
「断る」
「まあ、そう言わずに。もうすぐ年末だし、冬休みだろう? 時間ならいくらでも……」
「断る」
諦め悪く誘ってくる言葉に、鏡夜が冷たくきっぱり否定の意思を示すと、
環は寂しそうな顔で、椅子の上で膝を抱えてしまって、
鏡夜のほうにチラチラと視線を送ってくる。
「大体、お前も須王の家のことで忙しいんじゃないのか?
休日は本邸で『お勉強』だろう?」
その視線を直視しないように画面に集中しながら、
鏡夜はキーの上に指を叩きつけて、わざと大きく音を立てる。
「まあ、それはそうなのだが……」
高校二年の終わり頃から、
環は須王グループの後継者としての様々な勉強のために、
須王本邸に入ることが許されるようになっていた。
高校三年になった今も、その勉強は続いていたから、
休日などに、環が以前のようにホスト部のメンバーを集めて、
突拍子もないイベントを行う率は格段に減っていた。
鏡夜としては、落ち着いた休日が過ごせると、
肩の荷が降りた気持ちの一方で、
なんとなく物足りないような気分もあった。
それでも、須王を継ぐと環が心から決意して、
その目標に向かって迷わず進んでいく姿を見ているのは、
親友としては悪い気持ちはしない。
と、俺はそれなりに評価しているんだがな……。
「それに、冬休みといったって、年賀の挨拶周りで結局潰れるだろうし、
それが終われば受験だからな。流石にそんな暇は無いと思うが?」
「受験といっても、鏡夜も内部進学するのだろう?
Aクラスならうちの大学部には自動的に行けるんだから、
受験なんて無いようなもので……」
「いや、おれは国立大を受験するから内部進学はしないぞ。
だから、一月に入ればセンター試験が……」
「え?」
途中まで説明したところで、
明らかに向かい側にいる男の気配がおかしくなったのを察知して、
キーボードを打つ手を止めて鏡夜が顔を上げる。
「おや、話してなかったか?」
鏡夜の視線の先、パソコンの画面の向こうで、
鏡夜の発言に驚いて、環の顔が心なしか蒼ざめている。
「内部進学しないって、鏡夜、それはどういうことだ?」
* * *
続