『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
君の心を映す鏡 -18- (ハルヒ&鏡夜&光&馨)
三年生は受験が近いこともあって、授業は午前中だけ。
そこで、父からの宿題に答えを出すため、昼に、環は鏡夜に相談をすることを頼んで……。
* * *
午前の授業が終わって昼休み。
選択授業の教室から2-Aの教室に戻ってきたハルヒは、
光に声をかけられた。
「ハルヒ、今日も弁当? たまには食堂で食べない?」
学食があるとはいっても、桜蘭学院高等部の食堂は、
一般的な高校の学食からは想像もできないような高級なメニューばかりで、
奨学金で学費の補助を受けている身としては、
とても手が出せるものではない。
そのため、ハルヒはいつも手作り弁当を持参していて、
昼休みは大抵一人で教室に残って食事をしていた。
たまに、ホスト部でハルヒ指名の常連客であるクラスメイトが、
豪華な弁当を持参して一緒に食べることはあったけれど。
「んー、これからちょっと、
文化部連合に出さなきゃいけない申請書の記入事項を、
鏡夜先輩に見てもらわなきゃいけないから、第三音楽室で食べるよ」
弁当箱を入れた手提げを机の上に置いて、
ハルヒは鞄から筆記用具と、
数枚のレポート用紙が入ったクリアファイルを取りだして、
そこへ、選択教室からの帰り道、生徒会室へ立ち寄ってもらってきた申請書を挟み込んだ。
「部費の補助のこと?」
「うん。今日の夕方までに提出してほしいって言われてるから」
「そうなんだ。俺もなんか手伝う?」
「大丈夫。昨日、大体家で書いてきたから、あとは確認してもらうだけで……」
「ごめーん、光」
ハルヒが席を離れようとすると、
昼休みの一つ前の授業で、光とは別の科目を取っていた馨が、
息を弾ませて教室に走りこんできた。
「珍しく授業が延びてさあ……課題まで出されちゃったよ。
あー、ハルヒ、今日は食堂行く?」
「ハルヒ、第三音楽室で食べるって。
鏡夜先輩に部費の補助の件で確認することがあるって」
「そっか」
仕方ないねと頷きながら、馨は教科書を引き出しにしまっている。
「行こうぜ、馨」
「うん。あっそうだ、ハルヒ。一つお願いが」
「何?」
三人揃って廊下に出て、食堂と南校舎へ別れるところで馨が足を止めた。
「鏡夜先輩と殿がちゃんと仲直りしたかどうか探っといてよ。
殿って鏡夜先輩ともめてると、こっちが見てられないくらい落ち込むからさ」
朝は環に対して、散々な言い方をしていたと思うのに、
馨は環と鏡夜のことを気にしているようだ。
「ま、今回は鏡夜先輩のほうがひどいと、俺は思うけどね」
お手上げといった様子で、両手を上に上げながら、
光が環を擁護するような発言をするので、ハルヒはちょっと驚いてしまった。
「あれ? でも光って、今朝は環先輩のほうを責めてなかった?」
「だって、あそこで鏡夜先輩を責めるほうが余計話がこじれるじゃん。
鏡夜先輩プライド高いし、鏡夜先輩から折れることはまあないだろうし。
ま、俺なりに気を使って、普段どおり殿に接したってわけ」
確かに光が言うように、
鏡夜から環に謝る、といった姿は想像できなかったから、
ハルヒも困ったように笑顔を浮かべた。
「まあ、そうだね」
「それにしたって、なんだって鏡夜先輩は直前まで隠してたんだろうなあ。
殿が拗ねて面倒なことになることくらい、分かってそうなものなのに。
俺には、鏡夜先輩の考えることは、さっぱり理解不能だよ」
「……」
鏡夜に対して、光は次々と愚痴をこぼし、
馨はそれを隣で黙って聞いているのだが、
その馨の顔はなんだかとても寂しそうだ。
「馨?」
ハルヒの視線に気付いた馨は、にこりと笑ってくれたけど、
それは、なんだか慌てて作った表情のようにも見えた。
「と、とにかく、もしまだ仲直りしてないなら、
殿の機嫌を直すための作戦考えないといけないし。
二人の様子、後で報告してよね。じゃ……光、食堂行こ」
そう行って、慌ただしく食堂へ向かった光と馨と別れ、
ハルヒは一人南校舎へ向かっていた。
昼休みにはほとんどの生徒は食堂へ向かうから、
第三音楽室のある南校舎付近に来る生徒はまず居ない。
人通りのない廊下を早足で通り抜け、
見慣れた第三音楽室の扉の前に立つ。
扉の鍵は掛かっていなかった。
「鏡夜先輩?」
だから、鏡夜が中にいるのかと思って、
ハルヒは名前を呼びかけながら中に入ったが、
第三音楽室の中はしーんと静まり返っている。
あれ? 居ないのかな……?
接客時に、人が多数出入りしているときならともかく、
誰も居ない教室の中に、
ぽつぽつとソファーやテーブルが置かれていると、
妙に音楽室の中が広く感じられる。
環先輩と鏡夜先輩……大丈夫かなあ。
そんなことをハルヒがぼんやり考えていると、
「ハルヒ、待たせたな」
「ひっ。きょ、鏡夜先輩! あー、びっくりした」
背後から急に鏡夜に呼びかけられたので、
ハルヒは思わず悲鳴を上げてしまった。
「何をそんなに驚く?」
鏡夜にしてみれば、ただ声をかけただけで、
悲鳴まで挙げられるとは思ってなかったのだろう。
ハルヒの過剰な反応を不審に思っているようだった。
「いえ、鍵が開いていたので、
てっきり、もう中にいるのかと思ってまして……、
急に後ろから声がしたから驚いてしまいました。すみません」
「……なるほど」
頷きつつ、鏡夜は微かに笑っている。
「なんで笑うんですか?」
明らかに自分の今の慌てた態度を、鏡夜が面白がっているようなので、
ハルヒがむすっとしたまま聞き返すと、
鏡夜は、足元に視線を落としつつ、静かに答えた。
「いや……昨日の今日だし、てっきり俺に怯えているのかと思った」
「そ、そんなことはないですよ。
あれが、鏡夜先輩の優しさだってことは、ちゃんと分かってますから」
ハルヒとしては、鏡夜を安心させるために言ったのに、
何故か、ハルヒの答えを聞いて、
鏡夜の笑顔が少しばかり曇ったように見える。
「……」
口元の笑みは残したまま、その瞳はどこを見ているのだろう?
なんとも微妙な表情を浮かべたまま、
ふっと小さな息が鏡夜の口から漏れた。
「優しさ、ねえ……」
* * *
続