『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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君の心を映す鏡 -14- (環&鏡夜&ハルヒ&光&馨)
翌朝。睡眠不足で桜蘭学院に登校し、鏡夜にどう話しかけるべきか悩んでいた環に対して、
いつもと変わらない魔王ぶりを発揮する鏡夜。そんな二人の前に現れたのは……。
* * *
「鏡夜先輩。た、環先輩。おはようございます」
環達のように車で送り迎えしてもらうことはない、
目下、桜蘭学院高等部唯一の特待生である彼女……ハルヒは、
寒空の中を駅から歩いてきて、冷たい空気に晒され続けたからだろうか、
頬をほんのり赤くさせて、環と鏡夜に近づいてきた。
「おはよう、ハルヒ」
環の隣で、鏡夜は普段と変わらぬ調子で、
ハルヒに挨拶を返していたのだが、
「ハ、ハルヒ……お、おは……おはよう……」
しかし、鏡夜にやや遅れてハルヒの名前を呼んだ環は、
変に動揺してしまって、なんだか舌がもつれて上手く喋れない。
いつもなら彼女の姿を見れば、向こうから煙たがられるくらいに、
自分からハルヒに構っていくというのに、
ハルヒの前で、こんなに妙な気分になるのは、
やはり、昨日、父さんから変なことを言われたからだろうか?
『お前、以前、藤岡さんにキスをしてただろう? 私の目の前で』
不意に、昨日の父との会話を思い出した環の頬は、
寒さで頬を赤くしているハルヒ以上に真っ赤になってしまって、
環は崩れた表情を誤魔化そうと、必死で口元を手で覆い隠した。
「環先輩、具合でも悪いんですか?」
いつもと違う環の様子を心配したのか、
ハルヒが環の顔を覗き込んできた。
すっと小首を傾げる彼女の仕草に、更に心臓が一度跳ね上がって、
環は不自然に宙に視線を逸らした。
「い、いや、そんなことはない。お父さんはいつでも元気いっぱいだぞ!」
そうだ。俺はハルヒのお父さんなのだ。
たとえ無意識におでこに『ちゅう』をしてしまったんだとしても、
それは父として愛する娘に、親としての愛情を示した行動なわけで。
変に恥ずかしがる必要はないじゃないか。
「それなら良いんですけど……」
なのに、どうしてだろう。
さっきから顔の火照りが止まらない。
一体、俺はどうしたのだ?
ハルヒの言うように、どこか具合が悪いんだろうか。
今日、登校して鏡夜と話せば、
昨日父から与えられた宿題も解決できるかもと思っていたのに、
鏡夜とはまともにまだ話ができそうにないし、
ハルヒが現れればなんだか気分が変になるし、
なんだか、余計に混沌としてきたような……。
「あれ? 殿に鏡夜先輩、それにハルヒも」
「ここで朝からホスト部全員揃うなんて、珍しいね」
そんなもやもやした環の意識に、
突然割り込んできたのは光と馨の声だった。
「光、馨」
ハルヒから視線を逸らす大義名分ができて、
ほっとした環が二人の名前を呼ぶと、
光と馨は二人並んで環の目の前でぴたっと立ち止まる。
「な、なんだ?」
なんとなく嫌な予感がして、
環がやや身体を引きつつ問いかけると、
双子達は、二人とも同じように目を細めると、
環をじいっと睨みつけてきた。
「殿、昨日ひどいじゃん。さっさと一人で帰っちゃってさ!」
「そうだよ、僕らに散々『欠席は許さん!』って言ってたのはどこの誰?」
立て続けに双子に自分の無責任ぶりを追及されて、
環も思わずたじろいてしまう。
「それは悪かった……けど、
それは昨日鏡夜が突然あんなことをいうから……、
その……とてもミーティングするような……気分じゃなくて……」
双子の勢いに押され、一旦は素直に謝ったものの、
どうしても鏡夜への不満は隠せない。
「ああ、鏡夜先輩が内部進学しないって聞いて拗ねて帰っちゃったんだっけ。
それはそれでショックかもしれないけどさあ。
殿の機嫌でミーティングすっぽかされても、僕らも困るんだけど」
「そ、そうは言うけどな、馨。それに光もハルヒも。
鏡夜が国立受験なんて重大なことを、
俺に隠し事してるほうがいけないと思わないか?
それに双子達! お前達もお前達だ!
留学を希望してるだの何だの、俺は全然知らなかったのだぞ!」
なんとか自分の行動を正当化して、
さらには皆の賛同を得ようと、環は声高に叫んだ。
「何? 殿は俺達のことまで怒ってるわけ?
留学希望っていっても、俺と馨の場合はまだ一年も先の、
高校卒業してからの話じゃんか」
「そうだよ、決まったらちゃんと言うつもりだったけどさ、
まだ色々とどこの学校がいいか調べてる段階で、
いちいち殿に報告することでもないじゃない?」
双子は綺麗に足並みを揃えて環に意見に反抗する。
「それに、俺はお前から進路について一言も聞かれた覚えが無いと、
そう説明したと思ったが?」
それまで黙って傍観していた鏡夜も、
左手で眼鏡の位置を直しつつ、
いかにもうんざりといった表情で言葉を付け足した。
そして、極めつけはハルヒの全く悪気のないストレートな発言。
「どうせ、環先輩のことだから、
鏡夜先輩が内部進学すると思い込んでたんですよ。
環先輩、思い込みが激しいタイプですからね」
双子達に責められるまでもなく、
昨日、ミーティングをすっぽかしてしまったことについては、
環はかなり後悔していたのだ。
例えどんなに深刻な理由があったって、
自分がやると言っておいたことを、
無責任に放り投げてしまったことについては、
悪いと思っていたし、皆に素直に謝ろうとも思っていた。
「そりゃ……俺は鏡夜に何も……聞かなかったけど……さあ……」
そう……確かに謝ろうとは思っていたけど。
それにしても、皆、冷たすぎやしないか?
もう少し、俺の落胆した気持ちのことを考えてくれたっていいのに……。
「まあ、鏡夜先輩の進路を昨日初めて聞いた、ってのには、
俺らも同情しなくはないけどさ、
それは鏡夜先輩と殿の間のことなんだろうから、二人で解決してよ。
とりあえず、次のミーティング、いつにするの?」
光のぶっきらぼうな問いかけに、
「そうだな……じゃあ、早速今日にでも!」
環はなんとか沈んだ気分を上昇させようと、
勢い良く提案してみたものの、
「急に言われても無理だよ。
今日は俺達学校終わったらすぐ家に帰らないと。なあ、馨?」
「そうそう。今日はうちの母親が、
留学時代の恩師を家に呼んでるから。
色々向こうの学校の話を聞きたいし、今日は無理」
「自分もスーパーの特売に行きたいので出来れば別の日が、
昨日の買い物でちょっとお金を使いすぎてしまいましたし……」
「俺もここ暫く、引継ぎの資料作りに追われてたからな。
少しは受験勉強の時間を取りたい」
「そ、そうか」
あっさり皆に否定されてしまって、
環の心は再びしゅんと地の底へ沈み込んでしまった。
なんだか俺ばっかり空回り?
そんな環の心を知ってか知らずか、
その時、軽やかな予鈴の音が廊下に響き渡った。
「やばいよ、馨。はやく日誌取りにいかないと。俺ら日直じゃん!」
「あーそうだった。それじゃ僕ら職員室にいくから。
殿、ミーティングいつにするか決まったら教えてね。じゃ!」
双子が慌てて廊下を走っていく背中を見送りながら、
なんだか居た堪れなくなってきた環は、
「ああ、そうそう……今日は、確か……お、俺も日直だったのだ!」
と、思わずぽろっと嘘を吐いてしまった。
「お前が日直?」
解せない様子の鏡夜を無視して、
環はぺらぺらと早口で捲くし立てた。
「そうだ、日直なのだ! とにかく、俺も職員室に日誌取りに行かねば……。
そういうことだから……じゃあな、二人とも!
ミーティングの件はまたあとでちゃんと決めるから」
「おい、環……」
「環先輩?」
なにやら言いたそうな鏡夜と、
不可解な表情を浮かべるハルヒを残し、
環はくるりと二人に背を向けて、
職員室に向かって足早に廊下を歩き始めた。
* * *
続