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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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君の心を映す鏡 -10-

君の心を映す鏡 -10- (環&譲)

大事な話があるからと、久しぶりに環と一緒に食事をしていた環の父、譲は、
突然、環に向かって『藤岡さんのことをどう思っているのか』と問いかけてきた……。

* * *

至上最悪の高熱を出して学校を休んだ一年前のあの日、
ハルヒに無意識にキスをしていたという事実を、
今になって父親から唐突に明かされたことが、環を大混乱に陥れていた。

「だから、私が言いたいのは……、
 お前は藤岡さんのことを本気で考えているのかと、聞いているんだよ。
 父さんはお前の本心を聞かせて欲しいんだ」

本気? 本心?

環には父親の質問の意味が全くわからなかった。

一体、父さんは何でこんなことを質問するのだろう?

答えを待つ父を前に、環の心の中の自問自答は続く。

だって、ありえないだろう?

何か行動を起こそうとする時、誰かのことを考える時、
勉強でも、部活動でも、プライベートな遊びでも、
どんなに些細なことでも、くだらないことと周りから煙たく思われても、
環が手を抜いたりすることは一切なかった。

生きる、ということは、全て『本気の行動』の積み重ね。
そう考えて普段から環は行動していた。

つまり。

『常に本気』の感情しか持ち得ない環にとって、
自分の考えが『本気かどうか』という疑問自体が、
そもそも絶対に成立しえない選択肢だったから、
今回の父の質問が全然理解できなかったのだ。

「あの、父さん。本気とか本心とか聞かれる意味が、
 その、よくわからないですけど……俺は何時だって真剣ですよ。
 さっきも言ったと思いますが、俺はハルヒの『お父さん』として、
 ハルヒのことを、実の『娘』のように本気で愛しいと思っているんです!

自分が考えていることを迷わず口にして、
「どうだ!」と環が父親を得意げに見つめると、
環の勢いとは裏腹に譲の反応は鈍かった。

「あー……環。その、よくわからないのだが」

譲は眉間に深くしわを寄せ、渋い表情を浮かべている。

「藤岡さんが『娘』だとか、お前が『お父さん』だとか言うのは、
 お前が立ち上げたホスト部とやらの……接客上の演出か何かなのか?」
「え? 別にそういうわけではないですが?」

譲は今度は腕組みして、うーんと唸ってしまった。

「つまり……なんだ……それが、お前の
 『藤岡さんのことを本気で考えている』ということなのか?」
「ええ、そうです! 本当に俺は本気で、
 ハルヒのことを大切な『娘』と思って、その幸せを常に願っているんです

自信満々に言い切ると、
父はなんだか憐れなものでも見るように眼を細めていた。

「環……お前のことは……、
 確かにどこか間抜けているとは、わかっているつもりだったが……、
 まさかここまでの馬鹿息子だったとは……涙が出そうだよ」

疲れたように息をふっと吐き出すと、譲は右手の指先で目元を押さえた。
もちろん、本当に涙を流してはなかったけれど。

「な、なんでちゃんと真剣に答えたのに、
 間抜けだの馬鹿息子だの、言われなきゃならんのですか。
 大体、俺が落ち込んでるのは、鏡夜の奴が急に、
 『内部進学しない』となんとかか言い出したせいであって、
 ハルヒのせいではないんですからね」
「鏡夜君のせい?」
「あっ……」

馬鹿にされるのが嫌で黙っていたというのに、
うっかり口を滑らせてしまったことに気付いて、
環は、ばっと口元を押さえたが、時、既に遅し。

「ああ、そういえば、鏡夜君は国立大学の受験をするそうだね」
「……って、父さん、もしかして鏡夜の進路を知ってたんですか!?
「おいおい、環。私は学院の理事長だぞ。
 学生の進路は学院経営において重要な資料だ。報告を受けていて当然だろう」
「知ってたなら、何故俺に教えてくれなかったんですか!
 俺は、今日初めてあいつから聞かされたんですよ?
 もっと早く知っていれば、鏡夜と同じ大学の志望に変える事もできたのに」
「ほほう。なるほど。それを今日初めて聞かされて、
 それでお前の機嫌が悪いわけか」

ふふんと鼻先で笑われて、かちんと頭にきた環が、
酷いじゃないですかとぐちぐち不平をぶつけると、
譲の表情が不意に険しくなった。

「環。公私混同は止めなさい、と、常日頃言っているだろう?
 鏡夜君のことはあくまで理事として、
 経営において利用する目的で得た情報なのだから、
 例え、お前と私が親子だからといって、
 仕事上に得た他人の個人情報を、無闇に教えるわけにはいかないだろう。
 お前は一体、本邸で何を学んでいる?
 まだ、遊び気分が抜けきっていないのか?

「う……」

こういう時だ。自分が父に適わないと思うのは。

時に甘ったれたことを口にしてしまう自分を、
厳しく諭す父には、自分にはまだ出せない、底知れぬ迫力がある。

「それにしても、お前がそこまで落ち込むとは、
 鏡夜君がずっと一緒にいないと不安だとでもいうのか?」

普段、柔らかな物腰や、茶化した振る舞いをするところは、
やっぱり親子で似ているとよく言われてはいたが、
一度スイッチが入り、父親の顔から須王グループの総帥の顔に切り替わると、
迂闊には近寄れない、ぴりぴりと緊迫したオーラを感じるのだ。

「それは……だ、だって俺達は親友ですよ? 
 なのに、そんな重要なことをぎりぎりまで秘密にされてるなんて、
 ショックに決まってるじゃないですか。
 しかも、『大学部にいったらハルヒと組んで何かやればいいじゃないか』とか、
 すっごく俺を突き放した感じで、なんだか冷たくて、
 俺は大学部にいっても、また皆で一緒に楽しくやりたかったんです」

父の威厳に負けないように、ぐっとお腹に力を入れて、
環が思いの丈を最後まで言い切ると、
黙って聞いていた父の目がふっと和んだ。

「なるほど。さすがは鏡夜君、というべきか」
「へ? なんですか?」
「いや。あまり余計なことを言うと、鏡夜君の邪魔をしそうだから、
 お前の気持ちを聞くのは今日はここまでにしておこう……続きは宿題だ」

久しぶりの親子での食事。

会話が弾んだと言っていいのか、無駄に緊張しただけなのか、
楽しかったのか疲れたのかよく分からない雰囲気の中で、
パンパンと手を叩いて使用人を呼び戻した譲は、
食後の紅茶を飲み干した後、
どうやら、環と話をするためだけに、
わざわざ仕事を中断して戻ってきていたらしく、
再び会社に戻ると行って席を立った。

「環。父さんから一つ、お前に助言をしてやろう」

ネクタイの結び目をきゅっと直しながら、
譲は玄関先まで見送りに来た環を振り返った。

「助言……ですか?」
「環、私はね。若い頃は、仕事にばかりしていて、
 夢を追いかけることにばかり夢中で、
 本当に大切なことに気付くまでに、随分と回り道をしてしまった。
 結果としてお前やお前の母親に苦労をかけることになって、
 本当にすまないことをしたと思っている」

【大時計の前で幸せな時間をすごす家族】

「いえ、俺は苦労だなんて……」
「まあ、聞きなさい。お前は確かにまだ若い。
 だが、今のお前の周りには、
 かつての私が、なかなか見つけられないでいた大切なものを、
 もう見つけられるだけの条件がちゃんと揃っている。
 私はお前が、沢山の人を楽しませたいという夢を持っていることは知っている。
 お前の努力次第で、須王グループはその夢を実現する舞台にきっとなるだろう。
 ただ、これから先の長い人生を歩いていこうとするときに、
 必要になる大切なものはそれだけじゃない。 
 だから、お前は私のように後悔することないようにしっかり考えなさい。
 これからの自分にとって大切なものが、一体なんなのか

人の寂しそうな顔を見るのは嫌いだった。

病気の母親がにこやかに微笑んでくれるように、
自分は母の前で、常に笑顔でいようと思った。
母と別れて日本に来てからも、
今度母親に再会するときに恥ずかしくないように、
精一杯、心から楽しく生きていこうと思った。
遠く離れていても、この笑顔が母に届けばいいと。

自分の周りの人達には、
いつも笑顔でいてもらいたいと思っている。

自分も楽しんで、相手も楽しませて、
そうやって全ての人に心から笑ってもらうこと。
そんな「笑顔」に直結する仕事をすることこそが自分の夢なのだと、
気付いてからは、須王グループ傘下の、
ホテルの従業員ミーティングなどに参加させてもらったり、
本邸で、シマからの行儀作法の教育に加え、
経営、サービスなどの専門分野の知識を教えてもらうなど、
必死になって勉強してきた。

でも。


「夢だけじゃなくて、これからの俺にとって大切なもの?」


夢を叶えること以外にも、大事なことがあると父は言う。

「もし、私が言っていることの意味が分からないようなら、
 鏡夜君に相談してみるといい」
「鏡夜に?」
「鏡夜君はそれに気付いているからこそ、
 敢えてお前と別の大学へ行くことを選んで、
 そのことを直前までお前に隠していたんだろうからね


使用人達が玄関の脇、左右に控えていてお辞儀をする中、
その中央を通り抜け、父の背中が玄関の扉の向こうに消えていく。



俺が見つけなければいけない、大切なものって、一体……?



* * *

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