『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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藤岡ハルヒ誕生日企画短編
春色の贈り物 -2- (ハルヒ&鏡夜)
二月四日はハルヒの誕生日。鏡夜に言われるまま、その日、休みを取ったハルヒだったが、
鏡夜は「見せたいものがある」というだけで、具体的なことは何も教えてくれなくて……。
* * *
「み、見せたいものって……一体、何ですか?」
「それは起きてからのお楽しみだ」
*
翌朝、目覚めたハルヒが連れて行かれたのは羽田空港だった。
昨日の悪天候とはうって変わって空は綺麗に晴れている。
関東地方は昨日、二年ぶりの大雪にみまわれた。
その影響で欠航便が多数出たからだろうか、
空港内を行き交う客の流れも忙しない。
そんな中、どういう手配になっているのか、
何故かするすると搭乗口を通過したハルヒは、
自分一人なら絶対に利用することがないであろう、
ファーストクラスのゆったりとしたシートに案内されて、
申し訳ないような心持ちで座った。
やがて聞こえてきた機内アナウンスによると、
どうやら二人の乗った便は沖縄行きらしい。
鏡夜が何故、突然自分を沖縄に連れて行こうとしているのか。
フライト中にも一切明確な答えは聞けないまま、
何がなんだか分からないうちに、二時間ほどで那覇空港に到着してしまった。
空港の外に出たハルヒは、
鏡夜に促されて、空港前に横付けされていた車の後部座席に乗りこむと、
自分の後から鏡夜が続けて乗り込んできた。
車種はいつもとは違ったが、運転するのはいつものように橘だ。
「あの鏡夜先輩、一体何処へ?」
ハルヒがきょろきょろと窓から外を見ようとした矢先。
「う、うわっ」
自分の左隣に座っていた鏡夜が、
何の断りもなくハルヒの肩を掴んで彼女の身体を鏡夜の方へ引き寄せた。
外の景色を見るために窓に顔を寄せていたハルヒにとっては、
背中側に急に引っ張られる形になって、
ハルヒは後ろに倒れながら変な声を挙げてしまった。
鏡夜の膝の上にちょうど頭を乗せるような体制で、
ごろんと横になってしまったハルヒが、
慌てて身体を起こそうとすると、鏡夜の腕が自分の肩を押さえつけた。
「……先輩?」
肩口を押さえられていてはは起きるに起き上がれない。
当惑するハルヒに、鏡夜がにっこりと微笑む。
「何処に行くかは到着するまでのお楽しみだ。それまで横になっていろ」
つまり、どうやら自分に窓の外を見せたくないらしい。
まるで膝枕をされているような……いや、
まるで、ではなくて……まさに膝枕の状態で、
なんとも背筋がこそばゆく、ハルヒが視線を彷徨わせていると、
鏡夜はハルヒの目の上に右手を乗せて、視界を覆ってしまった。
「何なら寝ててもいいぞ? 少し時間がかかるからな」
「は、はあ……」
最近気付いたことだが、
どうやら鏡夜はハルヒの髪をいじるのが好きらしい。
今もハルヒの両目を右手で隠しつつ、
左手は彼女の頭を撫でたり、髪を梳いたりしている。
この体勢はどうなんだろう、と思うものの、
髪を触られる感触はハルヒもそれほど嫌いではない。
車が進む小刻みな振動と、鏡夜の指先の感覚とが、
徐々にハルヒを気持ちの良いまどろみに引き込んでいく。
「……ヒ。おい、ハルヒ。起きろ。着いたぞ」
気付けばすっかり寝入ってしまっていたハルヒの肩を、
鏡夜が揺すって起こしてくれる。
「寝ていいと言われて本当に寝るところが、お前らしいといえばお前らしいな」
「す、すみません。あ、あのう……」
既に車は止まっているのに、鏡夜はまだハルヒを解放してくれない。
「起き上がる前にハルヒ。これを付けろ」
鏡夜がそう言って取り出したものはアイマスクだった。
「あ、あのう……鏡夜先輩?」
「なんだ?」
「アイマスクがあったんだったら、車に乗ったときから付けていれば、
普通に座っていても良かったんじゃないでしょうか?」
「なんだ? 俺の膝枕は寝心地が悪かったか?」
「い、いえ……そういうことではないですけど……」
論理的には自分の方が是とおもうのだが、
相変わらずいいように翻弄されてしまう。
渋々アイマスクを付け、ようやく身体を起こすことを許されたハルヒの左側で、
車の扉の開け閉めする音がした。
どうやら鏡夜が先に外に降りたらしい。
「ほら、ハルヒ。手を貸せ」
そして、鏡夜がハルヒに呼びかけてきた。
「ちょっとこれは……怖いですよ、鏡夜先輩」
前が見えない状態で動くというのは想像以上に怖いものだ。
おずおずと爪先を一歩一歩前に出すハルヒを、
鏡夜がくすくす笑いながら引っ張ってくれている。
「俺が手を引いているから平気だろう……それとも抱き上げて欲しいか?」
「い、いえ、それは結構です!」
周りからは他の人の話し声など聞こえてこなかったけれど、
完全に二人きりの室内ならともかく、
誰の目があるかも分からないところで、抱き上げられるのは、
さすがにハルヒの羞恥心を越える。
もっとも、今、鏡夜に手をひかれている状態も恥ずかしくないのか?
……と、聞かれたら困るところだけれど。
かなりの距離を歩いただろうか。
視界がきかないから随分長い時間歩いていたように思う。
「着いたぞ。ハルヒ」
自分の歩幅に会わせて、
ゆっくりと手引いてくれていた鏡夜の動きが止まった。
「取って、いいんですか」
「ああ」
時折、風が頬に触れていくし、
足の裏の感触も土の上のような柔らかなものだったから、
今いる場所が建物の中ではなくて、どこか外であることは間違いない。
ここまで思わせぶりな態度で、沖縄まで連れてきて、
鏡夜が自分に見せたかったものはなんだろう?
ハルヒは、期待半分怖さ半分で目隠しをとり、ゆっくり目を開けた。
「……え?」
澄んだ青い空の下、ハルヒの目の前にあったもの。
柔らかな陽光に照らされて、軽やかな風に揺られている無数のもの。
これって……。
……桜?
ここは夢の中の出来事で、
現実の自分はベッドの中で眠ったまま、
暖かい夢の続きを見ているのかと思った。
これって……桜……だよね?
ハルヒはパチパチと何度も瞬きして、辺りをぐるりと見渡した。
暦の上では春とは言っても、二月の上旬、東京で言えば冬の真っ只中に、
ハルヒの目の前には春の訪れの象徴である、満開の緋色の桜の木があったのだ。
「鏡夜先輩……これって……」
「これは『寒緋桜』という。日本で一番早く咲く桜だそうだ」
「寒緋桜……?」
都内でよく見かけるソメイヨシノの淡いピンクの花弁とは違って、
色鮮やかな濃厚色の紅の桜が、青い空の中で一際鮮やかに咲き誇っている。
「これが、鏡夜先輩が見せたかったもの……?」
「今日は立春だろう?
春の始まりの日にお前と桜を見るのもいいかと思ってね。
うちの別荘の敷地内に植えさせたんだ」
「わざわざこのために植えたんですか?」
「まあ、本当なら都内のリゾート施設の一角にでも、
桜を植樹して用意してもよかったんだろうが……」
「どうして沖縄にわざわざ?」
ハルヒは、お金をかけてまで、
遠く沖縄まで連れてきてもらったことに気を使ってそう言ったのだが、
それが、どうやら鏡夜の思い出の中の地雷を踏んでしまったようだ。
「お前、『いかにも人工物なものは白ける』と、言ってなかったか? 前に」
「あ」
鏡夜の溜息が物悲しくその場に響く。
「そ、そういえばそんなことも言ったような言わなかったような……。
先輩、良くそんなこと覚えてますね」
「それはそうだ。大体、本物嗜好で新規オープンしようとしていた、
うちのリゾート施設に無料招待してやったというのに、
帰り際にあんな発言をされたら、忘れろというほうが難しい」
どうやら当時のハルヒの何気ない一言は、
鏡夜のプライドをいたく傷つけていたらしい。
「それは……大変申し訳ないことを……」
「でもまあ、自然は自然のままがいいという、お前の言うことも一理ある。
桜も、枝を切り取って花瓶に刺して鑑賞したり、
無理矢理、室内で気温調整して咲かせるよりは、
こうして外で見るほうが風情があっていいだろう。どうだ? 気に入ったか?」
鏡夜の言葉を受けて、ハルヒはもう一度顔を上げると、
大きく張り出した木の枝に、無数に咲き乱れる紅色の小さな花々を目で追った。
桜の花は、春の訪れを告げるもので……。
「そうですね」
春の訪れは、自分の誕生日と共に、一つの記憶を呼び起こす。
「なんだか……随分久しぶりに、桜をちゃんと見た気がします」
こんな風にじっくりと桜を見上げるのは、どれくらいぶりだろう?
呼び起こされた記憶の中に居る『誰か』のことを、
図らずも考えてしまったハルヒは、無意識に目を細めてしまった。
陽の光が目に入ったわけでもないのに。
風にそよぐ桜を眺めながら、感傷に浸っていたハルヒの耳に、
鏡夜の穏やかな声が聞こえてきた。
「多分、そんなことだろうと思っていたよ」
* * *
続
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