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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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春色の贈り物 -3-

藤岡ハルヒ誕生日企画短編
春色の贈り物 -3- (ハルヒ&鏡夜)

鏡夜に連れ来られた沖縄で、彼がハルヒに見せたのは、
鮮やかに咲き乱れる満開の寒緋桜の木だった。その美しい桜の木の下で……。


* * *

「なんだか……随分久しぶりに、桜をちゃんと見た気がします」
「多分、そんなことだろうと思っていたよ」

* * *

「鏡夜先輩?」

風が細い枝の間を通り抜けると、
枝に鈴なりの濃紅の花弁が、一斉にさわさわと動き出す。

ソメイヨシノのように、はらはらと花びらが一枚一枚舞い落ちることも無く、
俯き加減の紅い花弁は、黒い木の幹に留まって揺れている。

俺も久しぶりだからな。こうやって桜を鑑賞するのは」

自分の隣に居る鏡夜に顔を向けると、
彼はとても優しい眼差しで桜の木を見上げていた。

「先輩も?」
「ああ」

ハルヒが再び視線を桜の枝に戻すと、
突然、目の前に寒緋桜の花が一輪、すっと落ちてきた。

反射的に水を掬うような格好で、
指先を丸めて両手を胸の前に差し出すと、
その掌の器の中にぽとりと桜の花が滑り込む。

「……」

綺麗に開いた桜の花が、根元のがくの部分から折れて、
そのままの姿で地面に落ちてきた様は、
まるで人の命が儚いものであるということを、
世界が暗示しているかのようだ。

冷たくて温かくて、悲しくて優しくて、儚くて……永遠

それがハルヒと鏡夜の過ぎし日の春。

「ハルヒ」

鏡夜がハルヒの名前を呼んだ。

けれど、ハルヒは指先に摘んだ桜の花を見つめながら、
心が風に流されたままのような夢見心地で、
すぐに返事をしないでいると、
不意に温かい空気が自分の肩に触れた。

「何を……考えている?」

鏡夜がハルヒの肩を後ろから抱きしめて、
桜の花を持ったハルヒの指先を、そっと握ってくれた。

「いえ……こんな風に散ってしまうんだなあって……。
 この桜も、今は満開でとても綺麗ですけど……、
 すぐに散っちゃうんだなって思ったら、なんだか少し寂しくなって」
「それでも……来年になれば、また見れる」
「先輩?」
「来年も、再来年も。お前が俺と一緒にここに来てくれれば、
 何度でも見れる。春が来る限り」

春という華やかな季節を、彩る桜色。
それが一番似合っただろう大切なあの人は、もうどこにもいなくて。
桜は嫌でもその人を思い出させるから、
無意識に目を逸らしてきた、一年。


「俺はお前と一緒なら、またこうして、
 桜を見ることが出来るんじゃないかと思ったんだよ」



ああ、そっか。

やっぱり鏡夜先輩には分かるんだ。

薄紅色の景色を見ると、
何度でも思い出す別れの残像は、
悲しくないといえば嘘になるけれど、
今日はそこから、目を逸らそうとは思わなかった。

こんな風にまた桜を見上げて、
あの春の日を思い出しても、怖くないのは、
今、私の傍にあなたが一緒にいてくれるから。


「自分は、大好きですよ」


嫌いになりかけていた春という季節を、
もう一度好きになれそうな気がする。

この切ない想いを共有してくれる、あなたが隣にいてくれるなら。


「え?」


鏡夜が少し驚いたような声を上げた。

「え? ……って、あ、あの、確か、
 この桜のプレゼントが気に入ったか、という話でしたよね?」
「あ……ああ。そうだったな」

鏡夜は少し残念そうに頷いた。

鏡夜は何時だって恥ずかしいくらい率直に愛の言葉をくれるから、
ハルヒも照れることなく、同じ言葉を返してあげるべきなのかもしれないけれど、
面と向かって「愛している」だとか「好き」だとか口にするのは、
ハルヒにはまだちょっと照れ臭くて、
なかなか素直にそういった言葉に出来そうにない。

でも、たとえ鏡夜ほどには素直に、
彼への想いを表現できないとしても、
こうして桜の花を再び見上げることができるのは、
それを好きだと感じることができるのは、
彼が傍にいてくれて、自分と同じ感情を抱いていてくれるからなのだと、
きっと分かっていてくれるはずだから。

「有難うございます。最高の誕生日プレゼントです」

笑顔を浮かべてお礼を言うと、鏡夜も微笑み返してくれて、
それから、彼はハルヒの頬にそっとキスをしてくれた。
 

* * *

二月の初旬の東京には、まだ寒空が続いても、
二人の心の中には一足早い柔らかな暖かさが訪れる。

その心地よい世界は、
美しい桜の花がいとも儚く落ちる瞬間のような、
空虚な寂しさも、共に連れてくるけれど。

ただ悲しみに流されないで、
お互いの心を温めあって共に時を進めれば、
春はまた巡り、何度でも桜は咲いて、
二人にとって大切な宝物を、その度に思い出させてくれるだろう。

何度でも回り巡って、
還って来るこの暖かな場所。

過ぎ去ってはまた訪れる、
美しい桜色の季節。

それら全ての情景は……。


今、この場にいない誰かから二人への、
ささやかな「贈り物」なのかもしれない。



* * *



(初稿2008.2.4 加筆・修正2010.2.5)

以上でハルちゃんお誕生日企画短編は終了です。

再公開してみて、気付いたんですが、
二年前の二月四日の前日も雪だったんですね~。

最近、毎日寒い日が続きますが、
少しでも春の香りを(?)お楽しみいただければ幸いですm--m


2010.2.5.Suriya拝

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