『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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三つめの宝物 -8- (鏡夜)
ハルヒがメイと電話をしている頃。同時刻、都内のさる繁華街にて。
* * *
誕生日前日。
突然、ハルヒの父、蘭花(源氏名)から、
勤める店(オカマバー)に来いと呼び出しを受けてしまった鏡夜は、
その夜、「お友達」を引き連れて、
華やかな色彩が散りばめられた歓楽街に足を運んでいた。
歓楽街の大通り、派手な照明で彩られたアーケードの向こう側は、
車両進入禁止のエリアになっている。
仕方なく、相島を車で待機させて、ガードに橘と堀田を連れて、
鏡夜達は蘭花の勤務先に向かうことにした。
前を先導するのは橘で、
肩越しに後ろを振り返ると、少し遅れて堀田が後を付いて来ている。
上空の視界を埋め尽くす、豪奢な看板とは対照的に、
足元に視線を落とせば、チラシやらファーストフードの空容器やらが、
そこかしこに散乱していているのが目に入る。
こんな機会でもなければ、
絶対に歩くことなどなかったであろう通りを、
橘の背中を追って歩き続ける「三人」。
「……ていうかさあ」
途中まで黙って付いてきていた、
鏡夜の両隣を歩く「お友達」のうちの一人が、おもむろに口を開いた。
「蘭花さんに呼び出されたの、鏡夜先輩だけでしょ。
なんで、俺らまで巻き込まれなきゃなんないわけ?
なあ、馨。そう思わない?」
「そうだよね。それに、そもそも僕と光が付いて行っていいものなの?
蘭花さんは鏡夜先輩だけに、何か話があったんじゃ」
鏡夜と一緒に歩いているお友達は、光と馨だった。
今日の午後、蘭花の電話を終えた後、
鏡夜は光と馨の二人にすぐに電話を入れ、
いつものように、有無を言わさず、ここへ呼び出した。
それが余程不満だったのだろう、目に見えて機嫌が悪い光と、
光ほどには機嫌の悪さを明らさまに曝け出してはいないが、
おそらく納得はしていないだろう馨が、左右から口々に鏡夜を責め立てる。
「蘭花さんからは、人を連れてきてもいいと言われている。
大体、ここまで来て何を今更。
お前らだって、いつまでも俺に『借り』を作ったままは嫌だろう?」
鏡夜の言う『借り』とは……。
以前、ハルヒに鏡夜が別れを告げた時、
蘭花が怒って、鏡夜のオフィスに押し掛けてきたのだが、
その時、オフィスの場所を教えたのが、馨だった。
馨が、蘭花から電話があったことを、鏡夜に伝えずにいたせいで、
鏡夜は、突然の蘭花の来襲に、対応しなければならなくなったのだ。
馨から事前に連絡を受けていれば、
オフィスにやってこられる前に、こちらから蘭花のアパートに出向いて、
それなりの誠意を見せられたはずなのだが、
ともかく、その時の醜態が多数の社員達に見られていて、
それが酷い噂に発展しているのだ。
「でもさ、蘭花さんがオフィスに押し掛けたことって、
鏡夜先輩が言うほど、社内で噂になってんの?
俺にはどうも信じられないんだけど」
「社内というか……」
光の疑念に答えようとした時、
丁度、目の前に見えてきた派手な看板のネオンが、
チカチカとめまぐるしく切り替わったため、
鏡夜は、その光の刺激に軽い立ち眩みを覚え足を止めた。
眼鏡の位置を直す振りをして、そのまま、何度か瞬きをする。
瞼が目を覆う度に微かに目の奥が沁みる。
どうやら、今の鏡夜の目には、
この煌びやかな光の明滅は、少々刺激が強すぎるらしい。
「鏡夜先輩、もしかして、まだ、目が痛むんじゃ……?」
鏡夜の異変に、いち早く気付いたのは馨だ。
「いや、普通の生活をしていれば支障はほとんど無いぞ。
もっとも、医者からはあまり長時間、
パソコンやテレビの画面を見たりするなと注意はされているが」
「本当に大丈夫なの?
そもそも、退院がここまで延びてたのだって、
目の状態を考えて安静をとってたからって言ってたじゃん」
「ま……同じようなことが二度なければ、
八割方は大丈夫だろう、との診断は受けてる」
「八割って……」
「それより、光の言う『噂』のことだが」
馨はまだまだ心配そうだったが、
鏡夜は一方的に話を断ち切って、再び歩き出した。
「あの日、蘭花さんは、会社の受付で、
出勤前の、それはそれは気合の入った仕事着で、
俺とは『ただならぬ関係』だとか、
『源氏名』がどうとか、大声で騒いでくれたらしくてな。
案の定、その後、社内で俺のプライベートについて、
根も葉もない噂が流れていると、橘から報告を受けた。
……まあ、それでも光が言うように、
社内だけでとどまっていてくれれば、まだ良かったんだが」
「え……って、もっとヒドいことになってんの?」
「あんなに山のように来ていた他家からの見合い話が、
入院直後からぴたりと止んだからな。
うちと取引関係がある家の連中は、揃って見舞いには顔を出したが、
自分の家の娘と結婚させるとなると、話は別らしい」
「そんなに広まってるんだ?
少なくとも、僕らの周りでは全然話題になってないけど……」
「俺とお前たちが親しいことに気を使って、
お前達の前では、誰も話題にしないだけで、
社交場では格好の噂話の種になっていると思うぞ。
知っての通り、うちはそれなりに敵が多いからな」
「……」
鏡夜が大袈裟に被害者ぶって、
自分達を嵌めようとしていると考えていたらしい光と馨は、
事実を聞かされて、互いに顔を見合わせ、言葉を失っている。
「そういうわけで、光、馨。もう一度確認しておくが……」
二人の反論が尽きたと見た鏡夜は、眼鏡の縁を右手の指で摘むと、
「今日、俺にその『借り』を返しておく気は、
お前達には、当然、あると思っていいんだろう、ね?」
にっこり満面の笑みを浮かべた鏡夜のトドメの一言に、
光と馨が即座に肯定の意思を表したのは言うまでもなかった。
* * *
続