『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
* * *
「今夜ですか? ええと、今夜は……」
先ほどまでは、しっかり、予定は入っていたのだが。
『暇なの? 暇じゃないの? どっちなのよ』
当初の予定通り、新作発表会へ出席することに変更がなければ、
澱みなく堂堂と蘭花の申し出を断れたのだが、
その予定はキャンセルしようと決めたばかりだったこともあって、
少々言葉尻が覚束なくなっていたところを、蘭花に即座に突っ込まれてしまった。
「いえ、特に予定はありません、が……?」
これだから、小手先の嘘が通じない相手というのは、
会話がし辛くて苦手だ。
『じゃあ、今夜、「うちのお店」に来てくれるかしら。
大切なお客様として、VIP待遇でおもてなしするわよ?』
「え!? 蘭花さんのお店に僕が客として伺うんですか?」
あまりに予想外の蘭花の申し出を、鏡夜が声高に反復すると、
「……ごほ、ごほん」
突然、運転席に座った橘が不自然に咳きこみ始めた。
電話中で、橘に声をかけることができない鏡夜は、
不満そうに眉をしかめると、ぎろりと運転席の橘を睨んだ。
「も、申し訳ございません。鏡夜様」
後部座席で蘭花と電話をしている鏡夜の言葉を、
「絶対に聞くな」と運転席の橘にいうことは、
この距離では物理的に不可能なことだ。
それでも、何も聞こえていない素振りで流すのが、
使用人としての暗黙のルールだというのに、
『蘭花の店に鏡夜が行く』という台詞には、
流石に橘も動揺を抑え切れなかったようだ。
なぜなら、蘭花の職場である「店」とは、
繁華街の一角にある『オカマバー』なのだから。
機会があれば店に遊びに来いと、
蘭花から常々言われてはいたのだが、
どうにも、そこは自分が訪れるには場違いな場所に思えて、
全く気乗りがしなかった鏡夜は、
あれこれ理由をつけて今日まで、
蘭花の勤務先に足を運ぶことはなかった。
「あの、蘭花さん? 別の方法でお詫びするということでは、いけないのですか?」
『なあに? あ、もしかして、鏡夜君。バーに来るのが怖いの?』
「そういう意味ではないのですが……」
『まあ、怖かったら誰かお友達を連れて来てもいいわよ?
それくらいは、譲歩してあげるわ』
「他に選択肢はないんですか?」
『あたしからは「逃げるつもりはない」んでしょ?
だったら、あたしが指定する場所には、どこにだって来てくれるわよね?』
「……」
以前、蘭花が自分の職場に乗り込んできたときに、
蘭花に対して告げた言葉を、
今や完全に逆手にとられてしまっている。
『じゃ、宜しくね。ボックス席一つ空けて、今夜お店で待ってるわ♪』
最近姿を見せない常連客に、
営業の電話をかけて、店に来るように誘いをかけているかのような、
艶っぽい言葉を残して、電話は強引に切られてしまった。
「……」
ぱたりと携帯を折りたたんだ鏡夜は、
けだるそうに重たい息を吐き出すと、
しばらく携帯電話の本体を、手の中でもてあそびながら、
蘭花の真意を考え込んでしまった。
蘭花がわざわざ自分を、
しかも、誕生日前日に当てつけのように呼びつけるからには、
おそらく単純に「接待されるだけ」ではないだろう。
病み上がりの自分を、まさか殴りはしないだろうが、
少なくとも、そうそう簡単に解放してもらえるとは思えない。
友達を呼んでも構わない、ねえ……。
そんなことを言われても、
まさか蘭花のことを全く知らない人物、例えば社内の部下などを、
一緒に連れて行くわけにも行かないので、
誘うことのできる人間というのは、おのずと限られてくる。
まあ、この際、あの『二人』に、借りを返してもらうことにするかな。
* * *
続